第6話 命の海に宿る魂

 アニとアミが二体で協力して予備電源を起動させて、有機型アンドロイド製造プラントの機能を復旧させるべく作業をしている。

 俺はその傍で、ここの設備の詳細を確認していた。


 今ここの施設に設置されている培養槽の数は二十基、強制教育装置の方は半分の十基しかない。

 そして現在稼動しているそれぞれの基数は培養槽が十基だけで、俺達の妹達はまだ生まれてもいないので、強制教育装置の方はゼロだ。

 この後、妹達が生まれる迄の時間は、最低でもまだ数ヵ月は掛かるだろう。


 そりゃ俺達、有機型アンドロイドが切られる訳だ。

 俺達が十全に使えるようになるまで育てるのには一年弱の時間が必要であり、運用するのにも人間と同じだけのコストが掛かる。


 対して機械式アンドロイドの方は、製造するのには材料が有りさえすれば幾らでも量産でき、一体作るのに掛かる時間も短時間だ。

 雑な取り扱いをして、たとえ故障してしまったとしても、部品の交換さえ出来れば直ぐにでも作業に復帰させられるし、人間以上のパワーが有り宇宙空間を筆頭に、様々な環境で運用出来る。


 欠点が有るとすれば、機械的な理由で形体が大きくなってしまい、それに伴って重量も増加してしまうが、コロニー内なら疑似重力も弱いのでそれ程影響もしない。

 あと、稼動には燃料電池が必須で頻繁に取り替える必要も有るが、安価で簡単に製造出来るから欠点に含まれるかは微妙だな。


 ああ、俺達の優位な事がまだ有ったな。

 それは小柄な事を利用して狭い場所での運用に向いているのと、男性の下の世話が出来るっていう事を含んでも良いかもしれない。

 まあ、下の世話辺りの事が女性陣に知られたら、大問題になってもおかしくは無いけどね。


 そんな今後に起こる可能性が低そうな事象の事は放っておいて、俺は壁際に並んでいる培養槽の列に近づいた。

 現在稼働中の培養槽を探しだし、内部が確認出来るガラス窓から中を覗いてみると、五才児くらいにまで育っている素体が、擬似代替羊水の中で穏やかに眠りながら漂っているのが見える。


 今このプラントは非常電源でかろうじて稼動している状態であり、機能も最低限必要な部分しか動かせていない。

 この培養槽も例に漏れず、生命維持装置だけを保持している訳だが、もしも予備電源が順調に作動させられなければその機能も止まってしまうだろう。

 そうなればまだ成長途中の段階でも、素体を装置外に排出しなければならないだろうし、まだ強制教育装置の使用にも耐えられないだろうから、ここは劣悪な保育所に様変わりするだろう。

 何故なら身体が五才児の大きさの赤ちゃんの世話なんて、到底俺達三体でなんてこなせられないからな。


 嫌な予想を振り払うように頭を振ってからまた素体の方に目を向けると、丁度相手も薄らと目を開けるところだった。

 培養槽内の少女達は目を閉じていても十分に可愛いが、

 つぶらな瞳を開けるともっと可愛らしい。

 更には母親のような存在が恋しいのか、その小さい両手をこちらに伸ばして来ている。


 あぁ~、起こしてしまってゴメンよ~。

 そんな悲しそうな目でこっちを見ないで~。


 こちらは相手をあんまり刺激しないように大きな動きが出来ず、黙って見ているしかなす術がないので、こういった動作をされると毎回とても辛く感じる。

 こういうのを見ると、直ぐにでも培養槽から出して抱き締めてあげたくなってしまうが、そんな事をしてもどちらに取っても幸せな未来にはならないしね。


 あぁ~、でもでも本当に可愛いな~。

 なんと言っても俺が前世で欲しかった、理想の娘そのものなんだもんな~。


 前に俺が前世で結婚しようとしていたと言ったが、何故そうしようとしていたかというと、俺の弟の娘いわゆる姪っ子の影響だ。

 彼女が俺の事をオイちゃんオイちゃんと呼んで懐いて来て、それがメチャクチャ可愛くて俺は甘々なダメ人間になってしまっていた。

 しかし弟は、俺がいずれ性犯罪者になってしまうんじゃないかと邪推して、姪っ子と接触出来ないようにしてきた。

 俺はもうとっくに姪っ子中毒になってしまっていたので、重篤な禁断症状に陥ってしまい精神が崩壊寸前にまでなっていた所を、親友の妹ちゃんのお陰で何とか回復する事が出来た。


 その時、妹ちゃんが俺を立ち直らせる為に言った言葉が「自分の娘ならもっと可愛いですよ」というものだった。

 そして自分を結婚相手にどうですかと勧めてきたというのが馴れ初めで付き合い始めたのが、俺が地獄を移動する羽目になる数ヵ月前の事だ。


 だから前世の俺の望みはと聞かれれば、娘が超絶欲しかったということになり、その望みは現在ある意味叶いつつあると言っても良いんだけれど、それも今後どうなるのか先行きは全く不透明だ。

 でも今は、この可愛い女の子の全裸が見放題っていう幸せを満喫して置こう! 全裸が見放題っていう幸せを! げへへ。


 アホな欲望丸出し案件での思考放棄は放っておいて、今は現実問題に立ち返るべく、気を入れ直して素体の様子を再度観察する。

 すると再び眠りについたのか、目を閉じて大人しくしているようだ。

 素体には特に問題は起きていないようで安心していると、ふと頭に有る特徴的な部位に目が行く。


 それは何処かというと耳だ。

 いわゆるエルフ耳とも言われる様な、横に長く延びた特徴的な見た目だ。

 もちろん俺にも付いている訳だが、それにはちゃんとしたと言って良いかは分からんが、それなりの理由が存在する。


 まず俺達はとても可愛い。

 そう遺伝子をデザインされて産まれてきたんだから至極当たり前だ。

 わざわざ不細工な顔にしても周囲に嫌悪感を与えるだけで、ともすれば格好の虐待対象にでもなりかねない。

 悪環境での生活で溜まった鬱憤は、スポーツやゲームででも発散してくれと言いたい。

 まあそんな非効率的な事に、余計なコストを掛ける余裕は全く無いから可愛くなっているんだと思う。


 そして可愛ければ問題が起きないのかと言えばそうでもない。

 たまに俺みたいな特殊性癖な奴が居て、そいつらが素体を恋愛対象にしてしまって、結果様々な問題を引き起こしてきた。

 もちろん大問題になって、その原因が素体と一般人の区別が付かないからだと言う暴論がまかり通って、一目で素体だと判別できる特徴的な部分を付ける事が決まったという流れだ。

 それが俺達のプラントの場合は、エルフ耳だったという事になる。


 他の階層ごとに有機型アンドロイド製造プラントが存在するが、それぞれで付与する特徴が違っていて、それがケモミミだったり目の瞳孔が立て割れだったりと色々と有って、その所属を明確にするという役割も担っている。

 まあエルフ耳は極端な変更点でもないので甘んじて受け入れているが、それが魅力的でもあるって事は全く否定できないがな。


 あ~、先ほど別の階層って言葉が出ていたが、それについても説明して置くか。






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