第44話 帰るまでが訪問だと認識せよ

 会議は終了したが、それで解散して終わりって事ではないみたいだ。

 まあ、とっとと帰れとは、そりゃ言えんわな。

 建て前でも、「ゆっくりしていってね。 」と言うしかない。


 だけどねぇ。

 大した意味……が有ったかどうかは俺には判断出来ないが、イントル・ゼロってば事前になんの断りも無く、あんなに大勢の部下を連れて来てくれちゃってまあ。


 ホント、急に来る客の対応ってヤツは、面倒でしかないよね!

 先ず、大勢が泊まる場所とかの確保とかは、自分達で準備しなよ!

 行きなり来られても、部屋は兎も角としても寝具とかは用意に手間が掛かるんだよ!


 食事だってそうだよ!

 家中への体面もあって、下拵えが要るような手の込んだ料理で持てなそうと思っていたとしても、急にはそれも出来ないし!

 そもそも食材の用意にしても、周囲の店に都合をつけるように頼むのに、四苦八苦だったそうだよ!

 次からは、こうは行かないからね!


 以上!

 幼児に絡んで語った、女中のオバサンの愚痴でした!




 さて、歓迎の宴会の終わった深夜、俺とアオちゃんとイントル・ゼロの三人で狭い部屋に集まって、秘密の会合が執り行われた。


 そうだよ!

 こうゆうヤツだよ、俺が思ってたのって!

 最初からこうしろよな! ホントにもう!


 最低限な明かりだけが灯された薄暗い室内で、一つのテーブルを囲みヒソヒソ話に興ずる悪い顔をした奴等。

 時折発される含み笑い。

 ギラついた眼で他の出席者を睨み付けながら、牽制をし合う程度の間柄の者達だ。

 少しでも気を抜くと、足を掬われて土を舐める羽目になる類いの話し合いをしている。

 するとそこに、ボリボリとお菓子を頬張る音が響き渡った。


「これ美味しいよ! 手が止まらないって!

 ほら、イントルも遠慮しないで、ドンドン食べなってば! 」


「……あのねぇ。 」


 イントル・ゼロが呆れた表情で、こっちを見てくる。

 そんな事言っても、こんな遅くまで起きてたら、そりゃお腹も空くってもんよ。

 それに他に用意されてる食べ物って、酒の肴に合いそうな塩辛いのしか無いじゃん。

 幼児が食べるのには、全然向かないよ!


「まあ、もう少しだけ付き合ってよ、ママ。

 ほら、このミルクも飲みなよ。 」


「うん。 アリガト、アオちゃん。 」


 そしてゴクゴクと喉を鳴らして、手渡されたホットミルクを飲む俺。


 ここに用意されたミルクは、特別に飼育されている乳牛から、少量だけ採取されている高額な物で、アオちゃん家でも滅多に出されない一品だ。

 合成物とは、ひと味もふた味も違っていて、マジで美味い!


 アオちゃんもたまにしか飲まない、取って置きのお酒をチビチビと舐めていて、実に満足そうだ。


 残りのイントルだが、こいつもお酒を飲むのかと思っていたら、初めて飲むからどうなるか分からないと言って、フルーツジュースを選んでいた。

 言わずもがな、このフルーツジュースも入手困難な新鮮な果物を搾って作られた、特製生ジュースだ。

 俺も後で飲もう。


 ところで、三人でコソコソと顔を付き合わせている目的は、昼間の会議で出た話の細かな部分での情報共有と、疑問点の擦り合わせとかだ。

 見栄を張って知ったかぶりをしても、後になってからだと分からない所とかを聞きにくいだろ?


 俺も今更だが、アオちゃんに確認したい事が有ったので、この際に聞いておいた。

 それらを以下に箇条書きにして置く。


 エルフ種族三大派閥:

 いわゆる最初の三人、【アイ】【アニ】【アミ】のそれぞれの子孫を中心とした集まり。

 勿論の事、彼女達以外を祖とするエルフ種族も多数居るが、概ね三家のいずれかの下に付いて従っている。

 寄らば大樹の陰と言うことだろう。


 せいアイ極天統寮きょくてんとうりょう

 アイの死後、エーシローことシロちゃんが纏め上げた集まりの名称。

 命名の理由は、定かでは無い。

 因みにシロちゃんは、既に鬼籍に入って二十年程が経っている。

 イケオジになった姿を、一目で良いから見たかった。


【アオ=アイ】:

 アイの系譜の者は家名をアイとしているが、他種族の家名は祖先から取るという訳でも無く、自由に付けられている。


【アイマ=アイ】:

 現在の主人公、俺。

 家名が有ったと知った時の驚きは、結構大きかった。

 アーリィママ、ちゃんと教えてといてくれよ。

 まさかとは思うが、よもや知らなかったとかじゃないよな?


【イントル・ワン】から【イントル・フォーティ】:

 予想通り、正体はイントル分体が同化している有機型アンドロイド。

 元々はゼロの指示ではなく、ゼロの成育の監督を任されていたイントル分体数名が、火星上のイントル仮本体からの要請を受け合議し、スキル付与事業に必要だと判断して、同じ旧コロニーの施設で製作を行った。

 ゼロとしては、同時製作はワン、トゥーだけだと思っていたので、いきなりの大所帯の引率を任された当て付けで、今回の訪問に帯同させた。


 旧コロニーの活動拠点:

 権利関係はアオちゃんが、統括AIの認証と構築関係は俺が、拠点の運営全般はゼロ以下のイントル達が担当する予定。


 大まかな感じそんな所だったかな。

 大体話が終わった様なので、今後の事についてゼロに聞いてみた。


「もう用事は済んだ感じなんでしょ?

 後は旧コロニーに帰るだけ? 」


「いえ、まだ終わってませんよ。

 この後しばらくは、人海戦術でもって現地人の希望するスキルの実情を収集、調査するつもりです。

 ですので最低限の待遇で良いので、このまま一週間くらい滞在させて貰えませんか? 」


 そう、ゼロがアオちゃんに向き直ってお伺いを立てると、「まあ、仕事でならしょうがないねぇ。 」と渋々了承していた。


 女中のオバちゃん達からの突き上げが、当然のごとくアオちゃんにも来ているんだろうなぁ。 ヤダなぁ、もう。


 そんなこんなで、長い一日がようやく終わった。

 幼児にとってはとても眠かった、とだけは言って置きたい。


 それから一週間程、イントル達は出歩いてる一般人に対してアンケートを行ったり、商店の店員や仕事中の職人なんかにも精力的に声を掛けて、情報収集に余念が無かったらしい。

 俺はまだ外には出して貰えないので、アオちゃんや女中のオバちゃん達からの報告によるんだけど、概ね働きぶりに関しては認められているようで、ゼロ達に対する人当たりも良くなって来ているみたい。

 まあ、今後の事も有るだろうから、程々に仲良くしておいてね。


 そうこうしている内に、イントル達が旧コロニーへ帰る日になっていた。

 往還機発着場は、依然として問題無く稼働しているが、旧コロニーへ帰るには臨時の特別便が運航されないと無いらしく、一旦新コロニーへ行ってから、なんとかするってさ。


 それじゃあ、火星に降りてくる時はどうしたのかと言えば、緊急脱出用に確保されていた往還機を、あれこれ理由を付けて使用し、強引に降りてきた模様。


 コラ! みんなに迷惑を掛けるんじゃないよ!

 怒られるぞ! マジで!






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