第40話 館の役割
老人は自分が催眠術を受けていることに気付く。
「なぜ?」
薄れゆく意識の中、老人は答えにたどり着く。まさか、この幼い少女がその地位にたどり着くとは。
「あなたは身の程を知らなかったようね。」
老人が眠ったのを確認してからヴァンパイアの少女がつぶやく。少女がこの能力を得たのは偶然だった。たまたま、森の魔力が高まっており、自分の能力が活性化しやすい状況になっており、たまたま、呪いの影響で突然変異で上位種への進化が起こりやすい状況になっていた。その結果、ヴァンパイアの少女は<ヴァンパイアロード>に進化したのだ。
そして、<ヴァンパイアロード>のスキル〔上級特権〕は下位のヴァンパイアが自分に向かって使った状態異常を反射する能力だ。ヴァンパイアは力以外による成り上がりは許さない。
「いただきまーす。」
ヴァンパイアは同族を食べて強くなる。そして、ロードになった幼き少女は老人が長年かけて築き上げてきた能力をたった数秒で手に入れるのだった。
「そっちも終わったようね。」
ヴァンパイアが老人と戦っている間にアンデッドどころかオークまで倒していた勇者がこちらに向かってくる。
「やっぱり、あなたって無茶苦茶ね。」
レイナの戦闘の跡を眺めたヴァンパイアが言う。
「急にロードになったあんたに言われたくないわよ。」
周りからすればどっちもどっちなのだが。
「やっぱり全部終わってるコン。」
裏口に回ったはずのテンカがやってくる。隣には影狼を連れている。影狼はあらかじめ潜伏させており、テンカと一緒に裏口から逃げてきた敵を狩る役割を担っていた。とはいえ、一人も出てきてないのだが。
「ニーナ。ソータに伝えて。戦闘終了を確認。」
レイナたちが来た道からはメイがストーンゴーレムを連れてやってくる。戦闘の音が収まったのを感じて観に来たのだろう。
「さて、こいつらはここで何をやってたのやら。」
レイナは開いたままになった地下への通路に視線をやりながらつぶやく。
「行ってみればわかる。」
メイが先を調査することを提案する。
「ちょっと待ちなさい。メイ、そこに落ちてるライフルってまだ使える?」
ヴァンパイアに問われ、メイが床に落ちたアサルトライフルをいくつか確認する。
「これとこれとこれは大丈夫そう。これはダメ。」
メイが仕分けしていく。
「そう。」
それを確認したヴァンパイアはスケルトンを4体作成しアサルトライフルを持たせる。
「こいつらを先に行させましょ。」
それから自分の分のアサルトライフルを手にしたヴァンパイアはそう言った。
隠し通路は地下へと繋がっていた。地下には大きな広間が広がっており、おそらく、ここに大量のアンデッドが待機していたのであろう。その先には下級の魔物を自動作成できる魔方陣が設置してあった。しばらく待つとスケルトンが作成されたのであの異常な数のアンデッドの一部はこうやって生み出されたようだ。そして、その先には転移用の魔方陣が設置されていた。ここから、アンデッドをどこかに転送していたことはほぼ確実だ。そして、館にいた一部はここから脱出したに違いない。二つの魔方陣を破壊して隠し通路の外に戻る。
その後、館をしらみつぶしに探索したがそれ以上の情報は見つけられなかった。
探索を終えたメイたちは夕方には帰ってきた。疲れているはずだがメイたちが早いうちに報告はしておきたいと言うので帰ってきてすぐに会議になった。
「じゃあ、ヴァンパイアの老人はレイナが倒したのは魔王じゃなくて神様だったって言ったんだな?」
ヴァンパイアとレイナが頷く。
「話の流れからするとレイナの昔の仲間のラッセルってのは館のヴァンパイアとグルだったってことか。」
そうなると国王たちもグルってことになる。つまり、王国は敵だということだ。
「次は王国ですか。しっかり準備しないといけませんね。」
館を失った以上、国王たちが森を攻撃しない理由はいよいよなくなっただろう。前に危惧したとおり、一国と戦うことになるわけだが戦力差は厳しいものになるだろう。エルフの言ったとおり、しっかり準備しなくては今のメンツでも苦戦は必至だ。こちらも戦力を整えなくては。
「それと敵の黒幕を探さないといけない。あの館が戦力の製造工房だとしたら転送した先にはもっとたくさんの魔物がいる可能性が高い。」
大量の魔物がいる敵の本拠地がどこにあるのかも探さないといけないだろう。
「いにしえの魔王がいた魔王城とか残っていればな。そこにとりあえず行ってみるんだけどな。」
かつて、魔物の軍勢の本拠地になった場所なら大量のアンデッドも収容可能だろう。
「あの~、一応残ってはいるんですよ、旧魔王城。」
この世界の歴史を唯一ちゃんと知るニーナが答える。
「でも、場所が問題でして。今は王都になってるんですよ。」
ちょっと何を言ってるのかわからない。前に旧都がボロボロになったから王都を移したって言ってたはずだけど移した先がそれまでの敵の本拠地ってどういうことだよ。そして、王都ってこれから戦おうとしてる敵の総本山じゃん。
「人間の敵かもしれない奴らを人間が守ってるってどんな皮肉だよ。」
こうして俺たちは王国との戦いに備えることになった。
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