第49話 王都拠点作成

 カレンが王都潜入部隊を案内したのは古都の近くの村だった。古都は大戦までは旧都を、現在の王都に移動してからは王都を守る城塞都市だ。彼女がこの村を指定した理由は古都から定期的に商人が来るからで古都から王都にも定期的に便が来ている。その商人たちともカレンは知り合いらしく王都へ比較的簡単に潜入できるルートとして紹介したのだ。

「まさかこんな簡単に王都に潜入できるなんて。」

ニーナがあっさり王都の拠点まで案内されたことに驚く。

「あのルートの商人たちはわたしの息がかかった連中ですからね。こちらの情報は王国に流れませんし、商人として顔が広い人たちですから検問で中身のチェックもされません。」

カレンは彼らも平民の出身なので平民を支援するカレンに協力的なのだそうだ。

「これをこうしてこれで大丈夫なはずです。あとはメイさんたちが旧都で中継地点を作ってくれていればダンジョンと通信ができるはずです。」

ニーナは作業を終えてつぶやく。

「それなら問題ないコン。向こうは準備完了で好きなタイミングで始めていいって言ってたコン。」

転移魔方陣から出てきたテンカが教えてくれる。転移の魔方陣は双方向と一方通行の2種類がある。一方通行の魔方陣は事前に設置しておいた魔方陣の場所に転移する使い捨ての{転移}魔法だ。双方向の魔方陣は事前に設置した2つの魔方陣を繋げることで双方向に必要な魔力さえ払えれば何度でも転移できるようになる{転移}魔法だ。一方通行の転移は自分が設置した場所にしか転移できないのに対し、双方向の転移は{転移}魔法さえ使えれば自分が設置した魔方陣じゃなくても転移できるのも特徴だ。とはいえ、転移魔法は魔力の消費が大きいため1日に何度も行えるものではない。回数を減らすためにメイは輸送車を持ち出して旧都まで機材を運んだし、テンカは通信機材の輸送と物資の補給の2回をマジックポーションで魔力を補うことで実現している。

「わたしは自分の組織の拠点に顔を出してきますね。彼らにも情報収集をお願いしないといけませんし。」

カレンはそう言って出て行ってしまった。

「それでは、始めますね。こちら王都、聞こえますか?」

ニーナがスイッチを入れて通信を始める。

「こちらダンジョン、感度良好。メイ、ニーナ、お疲れ様。これで王都とも連絡が取れるようになった。」

ダンジョンからソウタさんの声が聞こえる。

「こちらも大丈夫そうです。」

ニーナも通信が安定していることを伝える。

「了解。こっちも問題ない。今日の作戦全て終了。撤収する。」

メイの今日の作戦はテンカたちの輸送に始まり、旧都へのテンカたちに送る物資の運搬に中継基地の作成、旧都ダンジョンの防衛力強化と大忙しだったはずだ。

「お疲れ様です。」

ニーナはそう言って通信を切った。久しぶりの人間の街だがニーナにはあまり帰ってきたという実感がなかった。今のニーナにとっては冒険者として戦闘に出るよりもドローンを回しながらオペレーターとして情報を伝える方が自分に合っているような気がするし、何よりダンジョンのみんなを家族のように感じていた。だから、人間の街に帰ってきたところでダンジョンのために行動することに迷いはなかった。そして、ふと思う。カレンはどうなのだろうかと。彼女は自分ほどダンジョンに思い入れがあるわけではない。彼女はいつまで仲間のままなのかと。


 翌日、カレンから情報が入った。王国軍が封印の森の魔物一掃に向けて軍を編成してるらしい。とはいえ、集まりは悪いようで貴族たちの腰も重いらしい。褒美を条件に貴族たちに出撃を要請しているようだが作戦開始にはまだ10日以上かかる見通しだそうだ。作戦が始まってもこのダンジョンが見つかるのはそれからもう少しかかるだろうし思ったよりも時間はありそうだ。

「王城の方は何か調べられたか?」

さすがに1日で何か調べられるとは思ってなかったが一応聞いてみる。

「カレンさんの言っていた場所にドローンを回してみたところ奥に大量の魔物がいることは間違いないですね。」

ニーナが見つけた魔物の種類などを報告してくれる。どうやら、探知系の魔物はいないようだ。とはいえ、ニーナの報告では1000匹に届きそうなくらいの魔物がいたらしい。地下への入り口は王城の中からが1つとカレンが見つけた外からの隠し通路が1つの2カ所らしい。これは近いうちに何か手を打たなければいけないかもしれない。


会議終了後、俺は旧都のダンジョンにいた。レイナに転移魔方陣で連れてきてもらったのだ。

「まさか残ってるとは思わなかったな。」

最下層の最奥の部屋にある光る水晶を見てつぶやく。

「これ壊しちゃうとダンジョンがなくなるから拠点として使えなくなっちゃうでしょ。そしたらあいつらにとっても不都合だから残しておいたんでしょ。」

光輝くダンジョンコアを見ながら俺とレイナは会話する。

「そんじゃ、遠慮無くもらっていくか。」

俺がダンジョンコアに触れると『マスター認証完了』という文字が出てくる。ダンジョンはダンジョンマスターが不在になったとき、他のダンジョンマスターがダンジョンコアに触れることでそのダンジョンを得ることができる。このダンジョンにダンジョンコアが残っているという報告は前から聞いていたがレイナには防衛部隊の輸送を優先していたため遅くなってしまった。こうして俺は2つ目のダンジョンを手に入れたのであった。

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