第48話 王都潜入計画
カレンはどうやらレイナを裏切ったメンバーではなかったらしい。そもそも彼女のジョブスキルは<神官>であり、彼女の所属は大司教と同じ教会だ。教会は国から独立した組織であり、大陸中に拠点を持つ組織でもある。カレンは教会が勇者召喚を受けて派遣した教会のエキスパートであり、彼女の派遣には大司教の推薦もあったのだ。メイが勇者パーティへの推薦者リストの資料を見つけてきており、そこには神様が王国より勇者のために力を貸してくれる人物だと評価して彼女を推薦したことが記されており、彼女が魔王の手先でないことはほぼ間違いないだろう。
翌朝、メイに資料を見せられた俺はカレンが起きてくるのを待って、相談をすることにした。
「王都に君が見た地下空間について調べるための拠点を作りたい。知恵を貸して欲しい。」
「なるほど、そういうことですか。それなら、わたしの私兵たちに動いてもらいましょう。」
わたしに相談して正解でしたとでも言うようにカレンが頷く。
「なんでキミ、私兵なんて持ってるの?」
「これでも大神官ですから。」
いや、理由になってねえよ。彼女が歴代最年少で神官の中でも幹部クラスである大神官になったことは聞いたけど大神官が私兵を持つ意味はわからない。
「まあ大神官だからというのは半分冗談ですけど大神官になれるような人間じゃないと私兵なんて持てないのは事実ですよ。」
俺の表情から気持ちを読み取った彼女はそう付け足す。
「そもそもわたしは教会の人間ですので国のために動いているわけではありません。その一方でこの国に暮らす貧しい人たちは救いたいとも思っているんです。この国には国に見捨てられたかわいそうな人たちがたくさんいますからね。」
カレンはまじめに語り出した。
「知ってますか、王国にはたくさんの孤児がいるんです。そして、その多くは奴隷として貴族たちに一生良いように使い潰されてしまう。彼らが私腹を肥やすために使われるくらいならわたしが私兵として育てて、同じような境遇の人たちのために使った方が良いじゃないですか。」
彼女はそのために奴隷を買い、孤児院の子供を引き取って育てていると語った。元々、彼女は同世代の孤児院から拾われたシスターたちを育て、神官の地位に何人も送り込みその功績が買われて大神官になったらしい。だから、彼女の新派は多く国や教会よりも彼女のために行動してくれる人も多いのだとか。
「その中の一部の子供は工作員として育成してるんです。子供たちは警戒されませんからね。だから、今回はその子たちに動いてもらいます。」
なるほど、この子をなぜ神様が選んだのかもなぜ重大な秘密を知りながらも監禁で留まって殺されなかったのかもわかった気がする。この子の持つカリスマ性は非常に高い。そして、彼女の持つ組織は国としても敵に回したくないのだろう。
「じゃあ、その子たちの拠点を貸してくれるのか?」
俺の質問に彼女は首を横に振る。
「いえ、そうしてしまっては国と全面的に戦うことになってしまいますし、彼らにその戦力はありません。ですから今回はわたしたちの持ってる空き家を1つ貸すだけになります。そちらの方が魔物たちも自由に動けていいと思いますけど。」
カレンの仲間たちの関与は最低限にして魔物たちを王都に送り込めと。
「レイナはともかくどうして俺にそこまで協力してくれるんだ?この作戦、キミにもリスクが大きいと思うんだけど。」
彼女がここまで協力的なのは意外だったのでその理由を尋ねる。
「わたし監禁されましたし借りは返さないといけませんからね。あなたたちには助けてもらった恩があります。それにあなたたちならわたしの目的の手助けをしてくれると思いまして。」
敵にも味方にも借りが返せて一石二鳥どころか俺に自分を売り込むチャンスだと判断したようだ。俺が模倣で創ったものに興味津々だったようだしこの子かなり強欲なようだ。
3日後、準備を整えた王都潜入メンバーはダンジョンから出発した。今回のメンバーは案内役のカレンと人間であるニーナ、そしてケモ耳さえ隠せれば人間に成りすませるテンカに名付けによって影狼から冥狼に進化した『レオ』が冥狼が持つ{影移動}の魔法でテンカの影に潜伏する形でついていくことになった。
「じゃあ、テンカみんなをよろしく。」
今回のメンバーで戦闘力があるのが基本的にテンカとレオだけなので戦闘時のリーダーはテンカということになる。ちなみにニーナのドローンを王都にも持ち込みたいという要望から移動中の索敵もかねて彼女にドローンを渡してある。とはいえ、村の近くまではメイに車を出してもらうので移動距離はたいしたことが無い。メイには他のことも依頼しており護衛にレイナも助手席に乗車している。
「いってきますコン。」
テンカがそう言って彼女たちは旅だった。メイからテンカたちを下ろしたという報告をもらいメイたちも目的地に着いたようなので俺にできることはここまでだ。あとはテンカたちが成果を持ち帰ってくるのを待とう。
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