第55話 切り札

「{加速}」

魔王は移動速度を無理矢理上げてかろうじてレオの攻撃を回避する。

「{陣地作成(デーモンゲート)}」

攻撃を回避した魔王は陣地を書き換える。太古の大戦でも使われたこの魔法は支配下の魔物を呼び寄せる最強の魔法だ。

「ノイル。」

危険な魔法なことは既にわかっていたので速攻でノイルの{ハウリング}で陣地を破壊する。{陣地作成}の魔法は強力な効果を持つ反面、魔力消費が多くその中でも{デーモンゲート}は例え魔王であっても連発できない魔力消費が必要になる。

「影狼がいるという情報は聞いていましたがまさかフェンリルまで進化していて、しかもこんな使われ方をされるとはさすがに厄介ですね。{デーモンゲート}も本来は勇者戦まで温存するつもりだったんですけどね。」

危機を脱した魔王がつぶやく。ゲートが開いた時間が一瞬だったとはいえ再び大量のアンデッドと数体のオーク、サキュバスまでがゲートから呼び出されてしまった。

「これ以上長引かせてはこちらも危険なようなのでこちらもさっさとケリをつけさせてもらいますよ。向こうも最後の切り札を切ったようですがあと一歩足らなかったようですね。」

どうやらレオの攻撃でようやく俺たちは脅威だと認識されたらしい。とはいえ、こちらの攻撃の手札もここまでにほとんど使い切ってしまったのも事実だ。追い詰められたのはこちら側か。

「{サンダーボルト}」

サキュバスがニーナの使う{ショックボルト}の上位魔法を放つ。ノイルが{アイスシールド}で壁を作ることで攻撃を防ぐがその間に敵の魔物たちが接近してくる。国王が最前列で大盾を構えて突撃してきているため先ほどのように{ヒートウェーブ}を放っても防がれてしまうだろう。

「{ソウルドレイン}」

敵の魔物たちが迫り来る中、ドーラが魔法を発動する。本来は亡き者たちの魂を吸収して魔力と体力を回復させる魔法だがこの魔法は命亡き者たちも吸収できる。アンデッドを対抗するために召喚されたドーラが手に入れたアンデッドを一掃する魔法だ。

それでも敵はアンデッドだけじゃない。国王にテンカがショットガンを放ち、国王は防ぐために足を止める。

「マスター、動かないでください。」

俺の裏に姿を隠したリアが俺に動かないように注意し狙撃する。対象は魔法を放った後で無防備になったサキュバス。次の攻撃を放とうとしていたサキュバスはリアの狙撃に気付く間もなく一撃で頭を撃ち抜かれる。リアがサキュバスを仕留めたことで遠距離への脅威が無くなり、ノイルとレオがオークたちの前に出る。オークたちの数が多かろうと最上位種になったノイルとレオの相手ではない。つまり、本命は別にいる。

「ドーラ。」

オークたちの裏から密かに回り込んでいた魔王が突っ込んでくる。俺の指示を受けたドーラが慌ててそれに対応する。しかし、ドーラが剣でなぎ払った瞬間、先ほどテンカが使った{幻影}のお返しとばかりに魔王は霧散する。

「こういう時は頭から叩くのが定石ですよね。」

魔王がそう言いながらながら迫り来る。

「{ウォーターウォール}」

リアが慌てて俺と魔王の間に壁を作ろうとするが

「遅い。」

魔王は{加速}を使いその発動より速く俺の懐に入り込む。

「その意見には激しく同意するね。俺も狙えるならそうするよ。」

 俺は懐に入ってきた魔王の胸に触れ、魔法を発動させる。

「{ソウルパージ}」

 王女の体から魔王の魂を分離させる魔法。発動条件は対象の心臓に触れること。魔法が発動し、魔王は王女の体から引き離され霊体化する。王女の体はコントロールを失い、攻撃すること無くその場に崩れるように倒れる。

「どうして?」

 霊体化した魔王が驚いたようにつぶやく。

「俺がこの場にいることを不自然だと思わなかったのか?」

 俺は魔王に質問で返す。

「まさか、最初からこれが狙いはこれ?まさか自分自身をおとりに使うなんて。」

 視線誘導や行動誘導を得意とする俺が魔王を倒すために考えた作戦がこれだ。成長途中のレイナが魔王を倒せるかわからない以上、他に魔王を倒す手段が必要だった。そして、この作戦ではより脅威になる勇者が居ては邪魔になる可能性があった。だから、レイナは足止めを買って出た。

「さあ、魔王。霊体では魔法は使えない。そして、こちらには魂を吸収できるドーラがいる。勝負あったな。」

 俺は懐からビストルを抜く。旧都で回収した神様の資料から得た知識を<ライブラリアン>で新たなに得た〔魔法開発〕のスキルとメイの協力があってできた霊体特攻の弾丸を込めたビストルだ。たとえ、ドーラがやられても魔王を倒せるように作った弾丸だ。

「クソ、次に会ったときは覚えてなさい。」

 霊体になった瞬間からドーラの{ソウルドレイン}の射程外に退避していた魔王は逃走を図る。部屋の奥に行き、隠し扉のスイッチを押す。

「次は無い、チェックメイトだ。」

 魔王の霊体は扉が開くとともに通路に飛び込む。しかし、通路には先客がいた。

「ドワーフだと。なぜこの道を知っている。おまえは誰だ。」

 魔王は仲間たちから得た情報を元に戦っていた。スナイパーライフルは知らなくても飛び道具の存在は知っていたから遠距離攻撃の対策を取っていたし者たちにダンジョンを攻撃させた際にレオの存在も知っていたから頭の隅にあり間一髪躱すことができた。同じようにこちらも情報を集めた。王城からの脱出手段があると踏んで王都潜入組には隠し通路の場所を探ってもらった。メイをこの役割に選んだのは単純に全力を出すために戦える戦力は全て表に連れて行きたかったのとメイの存在は敵が知らない可能性が高かったからだ。

メイは黙って構えていたビストルを発砲する。隠し通路に魔王の絶叫がこだまし魔王の魂は消滅した。

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