第54話 魔王決戦

 扉を開けた俺たちを待っていたのはアンデッドたちの大群だった。しかもラッセルが守っている状態では部屋の外からサーチをかけてもバレないように少し引いて配置されていた。それが扉を開けた瞬間なだれ込むように押し寄せてくる。

「{ヒートウェーブ}」

 九尾になってテンカが得た炎属性全体魔法がアンデッドたちを飲み込む。

「テンカ、助かった。」

敵の奇襲を無力化したテンカをねぎらう。

「後ろの奴らには防がれたコン。」

部屋を見渡すと一番奥に大盾を持ったおじさんとドレス姿の少女が見える。

「貴様、我らが誰かわかっての狼藉か?」

大盾のおじさんに問いかけられる。

「まさかアンデッドの大群と一緒にいた人たちが人間の国の国王だとか言わないよな。」

国王への反逆を問われたので魔物を従える王に人間の国の国王を名乗る資格は無いと意味を込めて言う。

「お父様、その主張はさすがに無理があると思いますよ。」

少女がくすりと笑いながら言う。

「ふむ。しかし、どちらにせよ我らの秘密を知った貴様らには生きて帰すわけにはいかん。」

国王におまえらはここで滅ぼすと宣言されても素直にやられるわけにはいかない。

「国が魔王によって乗っ取られかけてるって知ったら黙って見過ごすわけにはいかないでしょ。」

俺がそう言うのと同時に王女の前に黒い影が現れて攻撃を防ぐ。遅れて風圧と発砲音が俺の隣を通過する。

「防がれましたね。」

{隠密}で完全に気配を消して王女を狙撃したリアが俺に報告する。

「なんだよ、あの自動防御は。」

リアの狙撃を防いだ黒い影は銃弾が威力を失い床に落ちると影も何も無かったように霧散する。

「{シャドウウォール}、闇属性の最上級魔法ね。遠距離攻撃から身を守る最強の防御魔法よ。」

ドーラが教えてくれる。リアに持たせているスナイパーライフルは音速を超える。その狙撃でも防がれるとはとんでもない魔法だ。これじゃリアの能力でホーミングしても防がれるか。

「お父様、攻撃がこちらに来たということはやはりわたしが魔王だということもバレているようです。」

どうやら国王が話し続けることで黒幕を間違えさせようとしたようだが事前にカレンから情報を得ていたため俺たちは王女の方が黒幕だとわかっていた。引っかかってくれればいいくらいの感じだったのか国王の裏に控えるように立っていた王女が初めて国王の影から姿を見せてこちらに話しかける。

「初めまして。わたしが太古の魔王レヴィアタンよ。予定ではラッセルとともに勇者をたたきつぶす予定だったのだけど、まさか勇者の前にこれだけの戦力と戦う羽目になるとは思わなかったわ。」

太古の大戦で魔王と勇者は一騎打ちの末、相打ちに終わったらしい。レイナ単体で挑めば再び相打ちになるか成長途中のレイナでは倒される可能性が高かった。だから、切り札はレイナとは別に用意したのだが魔王は勇者が切り札であり、俺たちはその前の前座程度に考えてるようだ。

「まるで俺たちには勝てると思ってるみたいに聞こえるな。」

「まさかただの人間ごときが魔物と手を組んだくらいで魔王に勝てると思ってるのかしら。それにそこのエルフの攻撃には驚いたけれどまともにやって勝てないと思ってるから不意打ちなんて手段を選んだのでしょう?」

確かにリアは魔王に報告が行くような戦いでは使っていない隠し札だった。無警戒のところを狙えば一撃で仕留められると思っていたからの作戦だったが遠距離攻撃への対策があり、例えそれを破ったとしても警戒されていてはリアの狙撃を通すのは難しいかもしれない。

「一撃で仕留められればいいとは思ってたけどそれがすべてじゃないさ。例え魔王が相手でも俺の仲間たちは十分戦えるはずだぜ。」

俺の言葉とともにリアが仕掛ける。もう一度、スナイパーライフルでの狙撃だが今回はスキル頼りの大雑把な狙撃。弾丸は当然のように影で防がれるのだが自分の前に影を出すということは自分の前に死角を作り出すということだ。

「ノイル。」

俺は次の指示を出す。ノイルがガルムになったことで得た新たな魔法{ハウリング}を発動する。その咆吼は範囲にいる敵の魔法を全てキャンセルする魔法だ。その発動で状況が慌ただしく動き出す。国王は魔王をかばうように移動し、テンカが二人との距離を詰めるように移動を始める。

「{陣地作成(テリトリー)}」

俺が唯一獲得した戦闘用の魔法で味方のスピードが上がり敵のスピードが落ちる空間を作り出しテンカを援護する。

「{重力}」

それに合わせてドーラが魔法で魔王たちを押し潰そうとする。

「{術式破壊}」

{ハウリング}から回復した魔王が魔法を無効にする魔法を放つ。こちらは{ハウリング}と違って1つの魔法しか無効にできず、自分が知っている魔法かつ発動が見えている状況じゃないと使えない魔法だが{重力}を防ぐには最適な魔法だ。しかし、そのやりとりの間にもテンカが魔王たちに迫る。国王が大盾で詰めてきたテンカの攻撃を受けようとするが接触した瞬間に霧散する。

「幻影か。」

国王の脇を幻影でうまくすり抜けたテンカは魔王との距離を詰めてショットガンを発砲する。

「{シャドウウォール}」

ほぼゼロから撃たれたショットガンをギリギリ間に合った影で防ぐ。しかし、攻撃はこれで終わらない。{影移動}でテンカの影から飛び出したレオが{バニシングホーン}を発動する。レオから影の角が現れ影は全身を覆うようにレオを包み込む。それはあらゆる防御をすり抜ける防御不可能な一撃。必殺の一撃が魔王を襲う。

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