第53話 王城侵入作戦

 カレンから報告があった日の夜に古都などの防衛拠点に今までよりも規模のでかい攻勢を仕掛けた。いくら城塞都市といえど人手不足では対処しきれず大きな損害を与えることに成功する。結果、各都市から救難要請が出ては国として対応せざるを得ない。結果的に王都の防衛戦力を手薄にすることに成功した。

 そして、王都で暴動が発生する日、前日までに王都にいたほとんどの予備戦力は王都から旅立ち、王都は暴動を抑えるので精一杯になる。

「ここまでは想定通りだな。」

 カレンから王都の状況を得た俺たちは作戦を次の段階に進める。

「周辺に人影はありません。いつでもいけます。」

 ニーナがドローンの状況を報告してくれたので俺は迷わずボタンを押す。そうすると遠くから大きな爆発音が聞こえる。カレンが見つけた隠し通路の入り口を爆破したのだ。

「レイナ、あとは任せたぞ。」

 俺は別行動中のレイナに無線越しに伝える。


「なんだあれは。」

 暴動に参加していた人たちは王城での爆発を見て、口々に疑問を口にする。

「あれは王城の地下に密かに集められた魔物たちが解き放たれる合図よ。国王はこの国を魔物によって滅ぼすつもりだわ。」

 勇者レイナが疑問に答えるように暴動に参加していた人たちに告げる。近くには神官のカレンの姿も見える。レイナは国王が自分を裏切り暗殺しようとしたこと、密かに魔物を王城の地下に集めて王都への襲撃を企てていたことを説明する。これは2つとも事実だ。

「最近の魔物による辺境都市への侵攻は全て王都から防衛戦力を削るための陽動よ。このところの物価の上昇はその余波に過ぎないわ。国王にとってあなたたちはその程度の存在に過ぎないわ。」

 国王が国民を軽視しているのは周知の事実であり、誰がの部分を除けば陽動なのも事実だ。そして、ここに集まった人々は国王に不満を持つ人々である。

「でも、わたしがいる限り国王の好きにはさせないわ。みんなだってそうでしょ?」

 レイナの問いかけに人々は頷く。

「わたしは国王を止めるために王城に向かう。みんなは地下から湧き出る魔物たちを全力で食い止めて。」

 レイナの演説に集まった人々が湧く。その場にいた兵士たちもがそれに加わり武器を取り防衛に向かうのだった。


 王城の入り口でレイナたちと合流した俺たちは難なく王城に侵入できた。

「こっちよ。」

 王城内の移動は過去に来たことがあるレイナとカレンがしてくれている。目標は国王たちがいる王の間だ。死角にはノイルのサーチを使うことも忘れない。閑散としている城内では苦戦することなく順調に進めた。

「待ってたぜ、勇者様。」

 王の間の入り口には一人の男が立っていた。

「ラッセル、どきなさい。あなたには用はないわ。」

 レイナがかつての仲間に警告する。

「それはできねえ相談だ。俺はここの守りをまかされてるんでねえ。」

 ラッセルはそれを拒否する。

「どうしてあなたは魔王なんかに協力するんですか?」

 カレンがラッセルを糾弾する。

「俺は死にかけてたところを魔王様に命を救われてね。そして、この心臓をもらって強くなった。」

 ラッセルはそう言って自分の胸元を開いてみせる。彼の心臓の部分は黒く変色しており、禍々しいものが埋め込まれていた。

「悪魔の心臓ですか。自分の魂を削ることで莫大な力を得ると言われる禁忌の力。精神を維持するのさえ難しいはずですが。」

 カレンの声が少し低くなる。それだけ神官にとってあってはならない能力なんだろう。

「ああ、今の俺は魔王様に喜んでもらえる以外のことは考えてないさ。でも関係無いよな、魔王様がこの国を支配すればみんなそうなるんだから。」

 ラッセルは狂った思考でそう言う。

「なら、力尽くで通させてもらうわ。」

 レイナは言いながら〔ツインキャスト〕で{加速}と{テイルウィンド}で二重加速する。レイナの驚異的な加速を可能にする十八番の戦術だ。

「その戦術は何度も見てるんだよ。俺が対策しないわけねえだろ。{ストーンナイフ}」

 ラッセルは鋭利な石のカケラを纏う。本来はそれを投擲する魔法だが投擲せずにその場に残す。スピード重視のレイナに近づけばタダじゃ済まないという脅しだ。これでレイナも不用意に近づけなくなった。

「確かに一昔前のわたしならそれで止まってたでしょうね。」

 だがしかし、レイナも成長している。レイナは左右に揺さぶるように加速しながら〔トリプルキャスト〕で3つ目の魔法を発動する。{アイシクルナイフ}を纏ったレイナが一度大きく右に動き、それに合わせるようにラッセルは石のかけらを移動させる。そこから急激に左側に移動したレイナにラッセルは一瞬対応が遅れる。その隙に氷のナイフをレイナは投擲しラッセルは対応するために石のカケラを盾にせざるを得ない。投擲しながら急加速したレイナは石のカケラの守りが薄くなったラッセルとの距離を一瞬で詰める。

「ハッ。」

 石のカケラの壁を突破して懐に飛び込んだレイナが剣を一閃する。ラッセルは自分の剣で弾きながら威力を殺すように後ろに飛ぶ。

「上宮、ここはわたしの戦いよ。あんたは先に進んで。」

「レイナさん、援護します。」

 ラッセルを扉の前から引き離したレイナが俺に先に進むよう促す。カレンは残るようだ。

「わかった。ここは任せる。」

 俺はレイナに頷いて扉を開ける。こうして俺たちは決戦の部屋にたどり着いたのだった。

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