第52話 撒かれた種

 王国軍の侵攻から2週間、王国軍の全滅は王都でも噂になり始めたようだ。無理もない、3000もの兵が移動すれば目立つわけだし封印の森に向かったことは周知の事実だ。それから1週間でステラたちが拠点にしている街では上級の冒険者に王国軍の行方を捜させているという噂が流れ、それがさらに1週間で王都にも伝播したようだ。

「最も、王都で噂が流れるようになってからカレンさんたちが王国軍が無能な国王のせいで全滅したと噂の内容を書き換えてますけど。」

 王都の状況を報告したニーナがそう付け足した。カレンは各地で噂が広がるように裏で工作活動し、王都でも国王の政策に不満を持つ人たちを中心に噂を広げていっている。

「このままならすぐに王国中の話題の中心になりそうだな。そろそろ次のフェーズに入るか。」

 もちろん、噂を広めるのには意味がある。これからの作戦のためにも国民たちには国に不信感を持ってもらわないといけない。

「そちらはよろしくお願いします。こちらの準備はもうじき完了しますのでそうしたら改めて報告しますね。」

 王都潜入組には王都を攻めるために準備をしてもらっている。ニーナによればそちらも順調なようで着実に準備は進んでいる。

「さて、こちらも動きますか。」

 ニーナとの通信を切った俺は新たな作戦の準備に入る。俺はダンジョンを2つ持つことで得た能力、ダンジョン転移で旧都のダンジョンに移動する。この能力、ダンジョンマスターの権利者スキルなため魔力消費無しで移動できる。その代わり俺と少量の荷物しか転移できないがそれでも優秀な能力だ。

「ドーラ、調子はどうだ?」

 しばらく、このダンジョンの防衛と次なる作戦の準備のためにこちらに来ているヴァンパイアに声をかける。

「もちろん順調よ。ノイルのおかげでマスターが新たに召喚した魔物たちもも順調に力をつけているし、いつでも次のフェーズに進めるわ。」

 簡易召喚の能力を得た俺は新たに火狐と影狼、白狼をそれぞれ3体ずつ召喚し、ヴァンパイアに預けてこの旧都周辺で育成を任した。補佐としてノイルもつけたのだがノイルの育成能力は高いらしく、小さな魔物たちは着々と力をつけているようだ。そして、ダンジョンマスターの能力による自動作成はダンジョンごとに魔方陣を設置できるのでこっちのダンジョンでも魔物が徐々に増えていっている。

「それはよかったよ。王都にも噂が広まりつつあるみたいだから、そろそろ次のフェーズに進もうと思ってたんだ。今日から第2フェーズに入る。ドーラ、その総指揮はおまえに任せる。」

「その役目、無事に果たしてみせるわ。」

 ドーラに指示を任せ、無理はしなくていいと伝える。


「街では国王が無理な招集をしたせいで辺境の街では警備に支障が出てるって噂が広まるようになってきました。」

 ドーラに指示を出してから1週間、王都では新たな噂が飛び交うようになった。

「ドーラたちはうまくやってるみたいだな。実際に辺境の街では街の中に魔物を送り込めるようになってきたからな。」

 噂が広がるには時間がかかるためそこまでの情報はまだ流れていないはずだが国王が無理な招集をしたせいで地方の貴族の領土では警備の人間が足りず、被害が拡大している。俺はそうなるようにドーラにいくつかの街に魔物を送り込ませたのだ。基本的には夜襲がメインで夜の部隊はスケルトンとデスウルフ、それにスケルトンの上位種であるスケルトンナイトの混合部隊。昼の部隊はクレイゴーレムとストーンゴーレムの混合部隊だ。本来スケルトンナイトはスケルトンより大きく盾や大きな剣を持てるようになるだけなのでアサルトライフルをメインにするダンジョンの戦力としては微妙なのだがこうやって嫌がらせをするためにドーラに作成してもらったのだ。街に攻撃する部隊にはアサルトライフルは持たせないため実質的に一番強い存在になる。

「貴族たちの不満も高まってきているようですし、既に王都に支援を求めてる貴族もいるようです。」

 昼の部隊は白狼に夜の部隊は火狐と影狼にリーダーとしてそれぞれ率いらせ、本人たちには絶対に表に出させないということをやっているがその成果もあり、小さな魔物たちは作戦開始以降成長速度が速まったとドーラから報告を受けている。昼にも夜にも襲撃を受ける可能性があり警備が手薄な状況ではすぐに警備の兵たちが限界に達してしまうだろう。ここまでは順調だな。


 それからさらに1週間、王都から新たな情報が入ってくる。

「ついに地方で暴動が起こり始めているようです。まあ、裏でたきつけたのはカレンさんなんですが。」

 各領地で状況はどんどん厳しくなり、徴兵や税の取り立てが厳しくなってついに地方で不満が爆発したようだ。そのニュースが王都にも伝わり、王都でもいつ暴動が起こるか時間の問題になってきたようだ。

「カレンさんによれば王都でも近々、大規模な暴動が起こるそうです。今、その時期をカレンさんに確認してもらってます。」

 ついに国民の不満が抑えられなくなってきたようだ。

「頃合いだな。その暴動の時期がわかったら教えてくれ。王城に乗り込むぞ。」

 これで種はまききった。それから数時間後に暴動が3日後に決まったとカレンから報告があり、俺たちも戦力を王都に集める。魔王退治がまもなく始まる。

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