第51話 王国軍の末路

 王国軍の司令部は荒れていた。

「なんなんだ、あのダンジョンは。見たことのない武器に謎の爆発。」

 王国軍の将校たちは頭を抱える。

「報告、すでに我が軍の損耗は全体の戦力の半分に到達しました。」

 兵からの報告を受けて軍の司令官は決断を下す。

「撤退だ。総員撤退。」

 しかし、将校から反対の意見が出る。

「しかし、これは陛下の命令ですよ。このままあの魔物の巣窟を放置することは陛下のご意向に反する。」

 陛下が一掃しろと言ったのだから玉砕覚悟で突撃するべきだとその将校は主張する。

「このまま行けばいたずらに戦力を消費するばかりだ。兵を無駄に減らして防衛力を失う方が国にとっての損失は大きい。そのことは陛下もわかってくださるだろう。責任はわたしが取る。兵を引かせよ。」

 総司令官がそこまで言えば反対できるものはいない。それから王国軍はすぐに撤収の準備に入った。



「なんか王国軍、引いてくぞ。」

 夕暮れ時になって外の王国軍たちが撤退していく様子がドローンに映し出された。結局、振り出しに戻された王国軍は、その後にらみ合いを続けるだけで攻めてくることはなかった。

「さっきの振り出しに戻されたので司令部の心が折れましたか。」

 リアが新たに手に入れた対物ライフルの手入れを始める。

「リア、何の準備をしてるんだ?」

 今にも出撃しそうな勢いのリアに俺は尋ねる。敵はもう撤退するようだし出番はないぞと聞いてみるが答えは別のところから返ってきた。

「あたしたちの家に土足で乗り込んできたやつらに仕返しをしに行くのよ。当然でしょ。」

 ドーラはこれからはあたしの時間だもの。許しはしないわ。と、どうやらケンカを売られて大変ご立腹なようだ。

「ドーラ、時間はわたしが稼ぐ。地獄を見せてあげて。」

 メイまで乗り気なようだ。こうなったら俺には止めれない。けど、手を出してきたのは向こうだし、俺は悪くないよね。


 戦力としては微妙なメイがどうやって時間を稼ぐつもりなのか疑問だったがどうやら俺と秘密裏に進めていたガーゴイルの作戦を実戦投入するようだ。

「リア。スタートはあなたに任せる。一番偉そうなのをぶち抜いて。」

 既に配置についているリアに向かってメイが指示を出す。リアはエルフの非常にいい目で敵の総司令を見つけ出しロックオンする。リアがネイチャーエルフとなったことで新たに身につけたスキルが発動する。〔必中の導き〕、遠距離攻撃にホーミング機能を付け加える規格外のスキル。その引き金が引かれる。


 司令官の胸から上がいきなり無くなる様子を何人もの兵が見た。

「敵襲。」

 誰かが叫び恐怖に駆られた兵たちが我先にと逃げ出そうとする。その上空を鳥の形をした石像が通過していく。死の雨をまき散らして。ガーゴイルたちによる空爆が兵たちの逃げ道を遮る。森は燃え行き場を失った兵たちが生き残れる道を探して森をさまよう。気がつけば完全に日が落ち、明かりは森を焼く悪魔の炎のみ。こうして、地獄の鬼ごっこが始まった。


「ようこそ地獄の宴へ。」

 ドーラは一人つぶやく。夜目の利くスケルトンたちにより王国兵たちへの包囲網は着実に狭まってきていた。

「ドーラ、これ以上火が回るとダンジョンにも被害が出る。」

 マスターの指示の元、延焼が広がらないように燃えてる範囲の外の木を切り倒しながら視線は追い込まれていく王国兵に向かっていた。また一人、また一人と王国兵が倒れていく。その様子を見ながらドーラはにやりとする。

「これでマスターの戦力は大幅に上がったわ。魔王も自分の差し金で敵をパワーアップさせてるとは夢にも思わないでしょうね。」

 ドーラは同族の老人を食べた時に彼の能力を全て受け継いだ。その1つが彼がかけた呪いだ。解除する権利は今、彼女が持っていた。しかし、彼女はそれを解除しなかった。王国軍が来るとわかっていたからだ。3000もの人間が呪いの効果を高めた。そして、自分たちはそれを倒し尽くした。この森で生まれ、名付けまでしてもらった魔物たちがさらなる高みに至るには十分な要素がそこには揃った。

 既に最上位種になっているメイ、リア、ドーラ以外のマスターの魔物たちが最上位種に至る。それは王都にいるテンカとノイルも例外ではない。そして、そのマスターや既に最上位種に至った者たちも新たな力を手に入れる。



 変化は俺の隣で起こっていた。唯一ダンジョン内に留まって門番に徹していたノイルが突然進化した。驚いた俺は魔物図鑑を開くとテンカは<九尾>になり、レオは<フェンリル>になっていた。そして、目の前のノイルは<ガルム>へと進化し新たな能力を得ている。それだけではない。俺自身は{召喚}に簡易召喚が追加され、自分が召喚した最上位種にまで育て上げた魔物の下位種の簡易召喚が可能になった。そして、もう1つ新たな能力を手に入れていた。

「いったい何が起こってるんだ?」

 戸惑っていた俺がドーラから真実を教えてもらうのはそれからしばらく立ってからだった。

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