第56話 エピローグ
「まだやるか?」
テンカと対峙して残っていた国王に問う。
「いや、魔王が消滅したのなら我に戦う理由は無い。それより娘は無事なのか?」
国王は武器を下ろし戦闘の意思がないことを示し、俺の近くで倒れている王女を見て問うた。
「意識を失ってるだけだ。しばらくしたら目を覚ますだろうよ。」
「そうか。」
国王は俺の返事を聞くとそうつぶやいて力が抜けたように座り込んだ。
「みんな、お疲れさま。メイもよく仕留めてくれた。」
俺は一緒に戦った仲間たちをねぎらい、隠し通路の方に視線を向ける。通路からメイと護衛のストーンゴーレムたちが顔を出す。
「わたしはここでとどめを刺しただけ。全部ソータの作戦通り。」
メイの言葉にみんなが頷く。
「マスター、もう自身がおとりになるなんて言い出さないでくださいね。わかっていても心臓によくありません。」
リアが二度とやるなと警告してくる。
「リアもドーラも俺の元に通すつもり無かっただろ。止めるフリだけでいいって言ったのに。」
「当たり前よ。通すつもりなんて無かったわ。それに全力でやらないとバレるかもしれないじゃ無い。」
俺がそれじゃ作戦がうまくいかないと苦情を言うとドーラが当然のように言う。どうやらこれを口実に全力で守り抜くつもりだったらしい。
「どうやら終わってるみたいね。その様子だと無事に倒せたみたいじゃない。」
そうこうしてると扉が開きレイナとカレンが顔を見せる。レイナたちはずいぶん前に戦いが終わり、外で待ってたらしい。部屋が静かになったので入ってきたようだ。
「そっちも無事みたいだな。それじゃ、帰りますか。」
こうして俺たちは魔王を討伐したのだった。
魔王討伐の事後処理はカレンたちがやってくれた。まず、騎士団長のラッセルと王宮魔術師のジェームズは魔族であり、国王は体を魔王に乗っ取られていた。勇者レイナとカレンによって魔族は打ち倒され、国王は魔王の支配から解放されたとシナリオは変更された。今回の件にダンジョンマスターである俺の活躍はすべて表には出ていない。これは俺が希望したことであり、カレンたちにとっても魔族の協力を得ていたという事実は不都合だったという理由もあった。
「国王は責任を取って王位を退くようですよ。」
大司教が魔王であるというのは濡れ衣だったと公表して教会の権威を取り戻したカレンは俺の元へ顛末の報告に来ていた。
「どうせ教会が退任を迫ったんだろ。それで何もわからない王女に王位を譲らせてサポート役として実権は教会が握れるように仕向けたと。」
今回の一件で空席になっていた大司教の後任に内定したカレンを冷たい目で見る。
「バレましたか。お目付役という名目で今まで以上に王国への関与が強められるようになりましたからね。ソウタさんには感謝してますよ。」
堂々と事実を認めたカレンが俺にそう言う。
「そういえば、封印の森の方はどうなった?」
王国が大量の軍を送って失っただけにこちらの隠蔽も簡単では無いだろう。
「そっちも軍の中に魔族が紛れ込んでいて森の中で待ち伏せと内部からの撹乱で全滅したことにしちゃいました。」
まさに死人に口なしである。責任のほとんどを死人に押しつけることで無理矢理乗り切ったようだ。
「ただ、旧都のダンジョンには調査隊が向かいそうですね。魔王軍の残党が残っている可能性があると主張されるとこちらも弱くてですね。」
不自然に否定しては怪しまれる可能性があるので止められなかったようだ。
「まあ、しょうがないんじゃない。返り討ちにして育成の糧にさせてもらうよ。」
実際、俺の魔物たちは優秀で現代兵器を使わなくても王国軍に負けないくらいの力はあるようだ。陽動の城攻めでそれがわかったので純粋なダンジョン防衛を楽しむとしよう。
「レイナさんに聞きましたがドワーフ、エルフ、ヴァンパイアも簡易召喚できるようになったとか。新たな魔王にでもなるつもりですか?」
魔王を倒したことでドワーフたちを簡易召喚できるようになったことでメイたちの負担は減り、ダンジョンの規模も大きくできるようになった。
「神様はそれを俺にお望みかい?」
俺にそう問われたカレンは一瞬きょとんとした表情をする。
「へえ、いつから気がついていたんだい?」
カレンの口調が変わる。
「俺をこっちに呼び出すときに抑止力になれって言われたからね。好きにさせないだけでいいなら俺の召喚の役割は魔王を倒せる存在が出てくるまでの時間稼ぎだと思ったよ。」
俺は召喚される前の呼びかけを思い出す。
「それなら勇者が育つまでとも考えられるよね?僕が生きている可能性には思い至らないはずだけど。」
「その可能性も考えたけど勇者がレイナだったからね。勇者が俺と知り合いなレイナだったら勇者と協力して魔王を倒せとかそういう言葉が出てくるはずだと思ったし、レイナは裏切られて死にかけてた。俺と会う前に死ぬ可能性もそれなりにあったからそれ頼りで時間稼ぎはおかしいと思ったんだ。」
勇者の成長を待つという選択肢は不安定すぎたしそれで知り合いの俺が呼ばれるのは不自然な気がした。だから、俺にはレイナも含めて時間稼ぎに使えと言っているように聞こえた。
「なるほど、それで僕が生きている可能性を考えたのか。やっぱりよく頭が回るね。君を選んで正解だったよ。それでカレンが僕だってたどり着いた根拠はどこだったんだい?僕はどこかでやらかしたかな?」
「前に大司教がいつから大司教だったか聞いたことがあっただろ。思っていたよりその期間が短かったから神様も転生を繰り返してると思ったんだよ。そして旧都にあった資料庫には歴代の国王の政策が書かれてた。つまり、ずっと国王の側近に転生してることがわかった。だから大司教の後任の決定方法も一緒に聞いただろ。」
カレンに世間話として大司教についていくつか聞いたことがあった。まさか、それで自分の正体がバレるとは思ってもみなかっただろう。
「確かに後継者を指名し続けられれば常に国王に近づける立場に居続けられるか。あれはそういう意味の質問だったのか。しかし、あそこで嘘をつくわけにもいかないしね。」
神様が笑う。
「たぶんだけど元々後継者として用意してた人間はなんらかの事故で亡くなったんじゃないかな。それでカレンみたいな明らかに高スペックな存在を作った。」
俺が考察を入れる。
「よくわかったね。元々の予定の人物は事故で亡くなってしまってね。大司教の年齢もいつ亡くなるかわからなくなってたから後継者がすぐに必要だった。そこまでいくと僕が神としての献納を使えるようになる条件もわかってそうだね。」
「大司教になることかな。確信はないけど。」
俺は予想を伝える。
「正解だよ。一応、いつもは教会にスペアになりうる人間を仕込んでいたりはしたんだけど不幸が続いてね。今回は完全に途絶える期間ができてしまったよ。君のおかげで早く力を取り戻せたから君には感謝してるんだ。」
そこで神様は一度言葉を区切る。
「正体がバレてるようだから聞くけど君は魔王を殺して新たに魔王の力を手に入れた。君はこれからどうするつもりだい?」
神様からの問い。確かに俺は<魔王>のスキルジョブを得た。この能力で新たにこの世界の魔王になることもできる。そして、元の世界に戻って日常に戻る選択肢もあるだろう。神様の質問には世界を壊すつもりなら容赦しないという意味も含まれているだろう。
「どうもこうもしばらくは仲間たちの成長を見守るつもりだよ。〔魔法開発〕を使えばもう少しで元の世界と行き来できるようになりそうだしいずれは元の世界に戻るかもしれないけどね。」
何も決まっていないと答える。
「ダンジョンはいずれ魔物たちに譲るつもりかい?」
「もう俺がいなくてもあいつらはうまくやれると思うよ。単純に俺がもう少し近くで見ていたいだけさ。」
ダンジョンについて俺ができることは少なくなっていた。魔物の種類を増やすことはできるかもしれないが今でも十分な戦力がおり、必要かと問われれば微妙なところだろう。
「君はこちら向きの人間だね。世界のバランスを崩すことの危険度を知っていて、それを起こす野望も持たない。君のことはしばらく要観察対象ってことにしておくよ。何かあったら協力してくれるとうれしいよ。」
それから神様はカレンに戻って部屋から出て行った。
数年後、旧都はダンジョン攻略を目指す人々であふれかえるようになった。そして、呪いの無くなった封印の森は少しずつ人間たちが領土を広げていき、新たなダンジョンが見つかったという。
戦闘要員ゼロから始めるダンジョンマスター いかづち1 @ikaduchi1
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