第11話 ゴブリン襲来

 準備が完了して夕方になり、入り口の外には松明を設置して一定の視界を確保する。こうすることで門番が見えやすくなって周囲を包囲する確率も上げる。この間にいくつか追加で仕掛けも準備したがどれだけ対応できるだろうか。辺り一面が暗くなったころ


『ドーン』


 と、大きな音が闇に響く。仕掛けた地雷が作動した音だ。


「さて、決戦か。」


 地下階まで響いた音をきいてゴブリンが周辺までやってきていることを知る。今回、地雷原のように集中して地雷を設置するエリアは作らなかった。最大の理由は埋めた場所を全て把握するのが難しくなるからだが地雷というものを知らない相手ならばそこまで多く配置しなくても効果があると考えたのも理由の一つだ。


「すごい音。奇襲を知らせるついでに敵も倒せるなんていい兵器。」


 会議室で一緒に待機していたメイが驚いている。


「今回はそういう使い方をしたからな。おかげで爆発の近くに敵がいることもわかるってのが俺たちにとって一番のメリットだけどそれだけじゃ無い。」


 あえて数を絞ったのには他にも意味がある。


「まず、生き物ってのは大きな音が近くで鳴るとパニクって正確な判断がしづらくなる。」


 これが地雷の副次的効果。得体の知れない攻撃で味方が倒されたとあってはゴブリンたちの統率が乱れてくれることが期待できる。統率を崩すことは団体で戦う上で大事なことである。


「それともう一つ。メイ、相手の立場で考えて味方がいきなり得体の知れない何かに倒されたときに一番最初に考えることはなんだ?」


「敵の攻撃。特に魔法を使った攻撃を疑う。」


 魔法が当たり前に使われるこの世界なら当然それが最初に思い浮かぶだろう。それから少しの間に続けて爆発音がする。


「ああ、それがこの世界の定石だ。でも、奴らは闇に隠れて奇襲がバレないように行動してた。それが攻撃を受けたら次に相手が取る選択肢はなんだ?」


「突撃。味方が複数攻撃を受けたら位置が完全にバレてると判断せざるを得ない。奇襲がバレたら奇襲は成立しない。こちらの位置がバレてて相手の位置がバレてないなら次に攻撃が来る前に攻めないと攻める前に戦力が削られちゃう。」


 メイが俺の作戦の意味に気がついて驚いた表情をしている。もっといえば、敵の位置、数がわからない状態で複数が攻撃を受けたなら撤退が成立するかも怪しい。森の中は奇襲する方が圧倒的に有利なのだ。


「ビックリ。敵に情報を錯覚させることによって無理攻めさせるなんて。」


 この作戦の最大の特徴は上位種でしか倒せないアイアンゴーレムをおとりに使ったことだ。ダンジョンを攻めに来る相手にダンジョンの外に敵を見せた。


 基本的にダンジョンの外は奇襲し放題の攻め手有利、ダンジョンの中は守る方が有利になるように設計されてるため防衛有利だ。これから、不利なところに挑むのだから、それまでは被害を最小限に抑えたいと思うのが攻め手側の心理だ。当然、損害が少なくなるように準備をしてから攻めるのが定石だ。それを準備が整う前に攻めさせた。


「ソータ。どこまで読んだ?」


 実際に攻撃が始まった報告を受けてメイが聞く。


「相手が感覚で行動するなら大きな音に驚いてパニックになって出てくるし、頭が良くても突撃せざるを得ない状況を作ったつもりだよ。撤退されたら追えないからしょうがないけどもう一度攻めようとは思わないでしょ。」


 基本的に未知は恐怖の対象であり、勝手に深読みしてくれる。今回は魔法だとミスリードしたから突撃せざるを得なくなった。もっといえばダンジョンに入ってしまえば外からの攻撃から身を隠せるのでいち早く最初の部屋は攻略したいはずだ。それこそある程度の損害はしょうがないと考えるほど。


「まあ、ここからが本番だよ。結局、物量戦じゃあアイアンゴーレムも厳しいことに変わりないからね。」


 相手の一方的な有利は潰しても数の有利が無くなったわけじゃない。






「どうして火狐に最初だけ前に出て狐火を使うように指示したの?」


 現在、火狐が入り口から戦況を確認し、後方にいるエルフがトランシーバーでこちらにその情報を知らせてくれている。火狐にはゴブリンとゴーレムがぶつかるタイミングで一発だけ狐火を放って奥に引っ込むように伝えている。エルフには狐火を放ったら教えてくれとも。そして、俺の手元には遠隔操作用のボタンがある。


『火狐が狐火を放ちました。』


 エルフから報告があった瞬間にボタンを押す。直後に先ほどより大きな爆発音がダンジョンに響く。


「この爆発を通すためかな。狐火は幻惑魔法だからね。どうしても視線が集まるから奇襲しやすい。」


 俺が使ったのは遠隔操作型のプラスチック爆弾だ。ゴブリンたちに発見されないようにゴブリンたちが隠れる木の茂みのダンジョン側に設置しておいた。敵の意識を目の前のゴーレムとダンジョンの中からの狐火に集中させればただでさえ攻めないといけないゴブリンたちにはこの爆弾は気づけない。


「さて、どれくらい倒せたかな。」


 俺が用意した大仕掛けはここまで。あとはゴーレムたちがどれくらい頑張ってくれるかだ。




 ゴブリンリーダーは焦っていた。奇襲が失敗し強行突撃を選択せざるを得なくなった時点で指揮官に特化した上位種としては最悪の結果だ。そして、先ほどの大爆発で後方に控えてた弓使いたちがほとんど使い物にならなくなった。ゴブリンリーダー自身も少なからずダメージを負ってしまったが何より最悪なのは群れに3匹しかいない上位種の1匹で最大の火力が期待できたゴブリンメイジが先ほどの爆発の直撃を受けて意識を失ってしまったことだ。アイアンゴーレムを倒すにはゴブリンメイジが最も相性が良かったがその活躍は期待できない。


「どうする。メイジ無しじゃあのデカブツは厳しいぞ。」


 上位種最後の1匹であるゴブリンウォリアーが後方に下がってきて指示を仰ぐ。アイアンゴーレムに傷をつけれるのはウォリアーと自分だけだが自分にウォリアーほどの戦闘能力はない。


「ウォリアーはダンジョンへ突入してくれ。外は引き受ける。」


 突撃開始後の二つの大爆発は相当な魔力消費のはずだ。最初の攻撃も考えれば魔力はほとんど残ってないはず。しかし、メイジを連れての撤退はゴーレムたちに追撃されて終わりとなればダンジョンの最初の部屋を確保してメイジが回復する時間を稼いだほうが可能性は高い。何よりもう一発遠距離魔法を受けたらもう立て直せない。リーダーの決断にウォリアーがうなずく。


「背中は任せたぞ。」


 ウォリアーが部下を引き連れてダンジョンの入り口に飛び込んでいく。リーダーもアイアンゴーレムを引きつけるように飛びかかる。こうして、ゴブリンたちの決死の猛攻が始まった。

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