第30話 最後の砦

 二部屋目が攻略されようとする頃、入り口の部屋で動きがあった。誰もいない部屋でゴゴゴと扉が開く。そこから2体の魔物が出てくる。影狼とテンカだ。これがこのダンジョンの最後の切り札、裏取りの隠密部隊である。


「これであと一部屋。あとがなくなった。」

 会議室は思い空気に包まれている。

「すみません、マスター。仕留められませんでした。」

 引き上げてきたエルフが申し訳なさそうに言う。

「手応えあったんだろ?あれで躱されたらどうしようもないって。」

 メイはマジックポーションを飲んでアイアンゴーレムを1体作成しに行った。ガーディアンゴーレムでないのは最後の部屋がガーディアンゴーレムが3体並ぶと少し手狭になるからだ。それにガーディアンゴーレムは高さが通路ギリギリなため送り込むのに時間がかかる。メイは作成したゴーレムに予備の鉄の棍棒を持たせて援軍として送る。

「たぶん、たいした戦力にはならないけどいないよりはマシだと思う。」

 これが作成に向かう前にメイの発言である。事実、今までアイアンゴーレムが有効に動いたことはないが処理されるまでに多少の時間は稼げているので無駄にはならないはずだ。

「ガーディアンゴーレムがどれくらいやれるかにもかかってるか。」

 モニターには最後の部屋にたどり着いた少女と待ち受ける白狼たちの姿が映し出されている。俺たちがガーディアンゴーレムを実戦で使うのはこれが初だ。こいつの実力は未知数だが頑張ってくれないと白狼1匹ではあの少女の相手は無理だ。テンカたちが勝負を決められるように動きを止める活躍をガーディアンゴーレムたちには期待している。

「間に合った。」

 少女が剣を抜く前に通路からアイアンゴーレムが顔を出す。これで4対1。テンカたちはすでに2つ目の部屋から最後の部屋に向かう通路の手前辺りまで来ており、気配を隠しながらチャンスをうかがっている。


 少女はアイアンゴーレムの後ろにさらなる援軍がいないのを確認してから踏み出す。

「はあっ。」

 少女が息を吐きながらガーディアンゴーレムに斬りかかる。しかし、ガーディアンゴーレムには小さな傷がつくだけだ。ガーディアンゴーレムは構わずに棍棒を振り下ろす。さすがにこれには少女も躱すしかない。

 少女が飛んで躱したその着地点を狙って白狼がアイスクローを発動する。白狼が爪に纏った氷の刃が少女を襲うが少女は腕の力で体を無理矢理回転させ、氷の刃に剣を合わせて防ぐ。防がれた白狼はそのまま離脱。今度はそこにもう1体のガーディアンゴーレムが棍棒をたたき込む。少女はその瞬間に加速し、白狼を追撃する。

「うまいな。」

 ワンテンポ遅らせてから猛追することで相手の反応を遅らせる作戦だ。しかし、間一髪白狼はアイアンゴーレムの裏に逃げ込む。少女は無理に追撃せずアイアンゴーレムに狙いを変える。アイアンゴーレムは大きなダメージを負ったがまだ戦えそうだ。もし、アイアンゴーレムがいなければ白狼がやられていたと思うとメイがアイアンゴーレムを作ったのは正解だっただろう。

「やっぱり劣勢か。」

 白狼たちは良く戦っているがそれでも少女に傷をつけるには戦力が足りなさそうだ。それは白狼も理解しているがさっきの反省も含めて不用意に飛び込まないように考え、どうしても手数は減ってしまう。その間に少しずつだが着実にガーディアンゴーレムにもダメージが入っていく。このままなら押し切られるだろう。アイアンゴーレムはあともう一回ダメージを受けたらやられてしまうだろう。仕掛けるならそろそろ最後のチャンスか。白狼たちもそれはわかっているはずだ。片方のガーディアンゴーレムがなぎ払いを行い少女を後方に飛ばせる。その隙に白狼が動く。そして、もう一つの狼も。白狼が今度は捨て身覚悟で氷の刃を繰り出す。

「はあっ。」

 少女はそれに全力で応じる。中途半端に受ければ押し切られる可能性があったためそれを防ぐ丁寧な受けだ。ただし、今回はそれが裏目ったが。

 後ろから影狼が白狼とタイミングを合わせて飛び込んでいた。この2匹じゃないとできないピッタリなタイミングだ。後ろから影狼がパラライズファングを発動して噛み付く。少女は直前で気がつき剣を持っていない方の腕を盾にする。

「よし、これでマヒらせられる。」

 続けてテンカが白狼の後ろからに回り込み催眠術を発動する。少女はマヒして動けない。突然現れたテンカに少女が驚いてテンカと少女の目が合う。これで催眠術の発動条件が整った。これで俺たちの勝ち。

 俺たちの誰もがそう思ったそのとき、少女は影狼を振り払ってテンカに向かって回転蹴りを放った。

「えっ?」

 モニターを見ていた誰かが声を漏らす。先に離脱していた白狼は無事だったがテンカが大きく吹き飛ばされる。

「どうして?」

 メイが会議室で叫ぶ。聞こえたのか今まで黙っていた少女がそれに答えるように言う。

「ごめんね。今の噛み付きもケモ耳がなんかやったのも状態異常技なんでしょ。わたしは状態異常に完全耐性があってね。効かないのよ。」

 なんだそれ。さすがにそれはチートすぎるだろ。

「とはいえ、これじゃしばらく左腕は使えないわね。ここまでやったあなたたちに敬意を示して少し本気を出すわよ。」

 少女はそう言うと雰囲気が変わる。

「アイシクルナイフ」

 少女が自分の周りに複数の氷の刃を纏う。そして、少女が手を前に突き出すと氷の刃がまだダメージの残る影狼とテンカに迫る。

 アイアンゴーレムとガーディアンゴーレムが盾になって守るがアイアンゴーレムはそれで力尽きてしまう。

「マスターのためにもわたしたちは負けるわけにはいかないコン。」

 その間に立て直したテンカがガーディアンゴーレムの裏から狐火を放つ。その攻撃を合図に魔物たちは動き出す。まずテンカが盾にしてない方のガーディアンゴーレムが少女に向かって突撃する。少女は狐火を剣で切り捨て反対からくるガーディアンゴーレムの攻撃を躱す。その横から狼2匹が追撃する。少女は白狼を剣でアイスクローごとなぎ払い加速して影狼の脇腹に回し蹴り。2匹は壁に叩きつけられる。

「まだコン。」

 最後にテンカが短剣を持って突撃する。今まで袖に隠し持ってたらしい。少女は短剣を防ぐように剣を振るうが剣がぶつかる瞬間、剣はぶつからず少女の剣は空を切る。テンカに見えたそれは空気のように消える。そして、目の前に現れたテンカはショットガンを構えてすでに引き金が引きかけられていた。

「やばっ。」

 少女は急加速しテンカの右斜め前まで来る。懐に飛び込んだ少女は剣を一閃。急いで短剣で受けたテンカだったが大きく吹っ飛ばされて壁にぶつかって止まった。

 テンカは意識を失い狼2匹もダメージでしばらく立ち上がることも難しいだろう。最後に残ったガーディアンゴーレムに集中できた少女はあっさり2体のガーディアンゴーレムを倒し、地上階を一人で制圧して見せた。

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