第29話 少女侵攻
さて、こうなるともうダンジョンが見つかるのは時間の問題になった。時間は短いが魔物の配置の最終調整をしなければならない。今回も侵入者を向かい撃つのは地上階の3部屋のみ。こちらの戦力はテンカにエルフ、影狼、白狼にゴーレムがクレイが10、ストーンが15、アイアンが6、ガーディアンが2。そして、非戦闘員の俺、メイ、ニーナ。
「厄介なのはあのスピードだよな。」
昨日見た少女の戦闘では圧倒的な加速力で全てを置き去りにするような戦い方が印象的だった。
「となると、直線上に全て設置するのは危険か。」
前回のゴブリン戦のようにエルフの狙撃を活かすように直線上に部屋を置けば狙撃が失敗したときに逆に一気に距離を詰められてしまう可能性がある。となると死角が多く先がわからないように現状のままコの字にしておいたままの方がいいだろう。
「最初の部屋から仕掛けていくか。」
最初の部屋に配置するのはクレイゴーレム2体、ストーンゴーレム2体にアイアンゴーレム2体。そして、次の部屋に続く通路にもストーンゴーレム2体を配置する。これで通路にゴーレムを配置することでアイアンゴーレムたちを相手にしないで次の部屋に進む選択肢を潰す。そして、次の部屋に続く通路の手前には爆弾を設置する。ゴーレムを倒しきったら爆発させるつもりだ。
そこからも順調に配置と仕掛けを準備して準備完了。あとは少女を待つだけになった。
それからまもなくして少女がダンジョンにたどり着く。今回は既に敵が近くに来ていたためダンジョンの外の仕掛けは無しだ。仕掛けにいって見つかったらしゃれにならないからな。ということでダンジョンの入り口までは少女もすんなり到達した。
「さて、どうなるかな。」
ドローンで外の様子を確認していた俺たちは少女がダンジョンに入るのを確認する。ドローンがあるのをわかっていながら壊さないのは破壊する手段がないのか壊す必要がないのか。昨日の戦闘で少女が見せた遠距離攻撃は投げナイフのみだ。これがまだ隠してるのか他に無いのかはわからない。
予想通り、少女はゴーレムを相手にしても変わりなく強かった。クレイゴーレムもストーンゴーレムも一瞬で沈められアイアンゴーレムは堅すぎてさすがに一瞬とはいかなかったがそれでもほぼ無傷で最初の部屋を壊滅させて見せた。その様子を会議室から隠しカメラで確認する。
「ここだ。」
最後のアイアンゴーレムが倒れたタイミングで爆弾の起爆ボタンを押す。直後、『ドカーン』という衝撃音とともにカメラの映像も途絶えた。しかし、その直前にダンジョンの外まで退避する影が見えた。
「あのタイミングで躱すなんて。」
メイの驚いた声が聞こえる。おそらく直前に『ピッ』という爆弾起動の電子音がしたはずだがそれだけで本能的に退避したのであればとんでもない危機察知能力だ。
「最初の部屋が突破された。」
仲間に念話で報告する。これで初めてこのダンジョンの部屋が突破されたことになるがこれだけの強敵なら仕方ないだろう。爆弾で仕留めきれなかった以上次の部屋への道を封鎖していたゴーレムたちがそこにいる意味が無くなってしまうため次の部屋の入り口まで下げさせる。こうして少女との戦いは二部屋目へ突入していく。
二部屋目は物量戦だ。ガーディアンゴーレム以外のほぼ全てのゴーレムをここまでに投入している。クレイ8体、ストーンが通路から引いてきたのを含めて13体、それからアイアンゴーレムが4体を大体育館並の広さを誇るこの部屋に配置した。そして、ここは地上階唯一の開けた戦場だ。つまり、ここ以上に長い射線が取れるスペースはない。ということで今回エルフの狙撃を仕掛けてるのはこの部屋だ。
「チャンスは一回ですか。」
エルフはスコープを覗いて集中力を高める。当然だが狙撃は狙われていることがわかるとそれだけ成功率が落ちる。前回のゴブリン戦も終盤はほとんど顔を出してもらえなかったのがいい例だ。だから、最初の一発が勝負だ。
「ふぅ。」
部屋の入り口付近のゴーレムたちが戦闘準備に入ったのを見て近くに敵が来てるのを察知する。エルフがいるのは次の部屋に進む通路の前。そこから2体の盾持ちストーンゴーレムを盾にして入り口の部屋から続く通路の入り口に銃口を定める。この部屋は入り口付近にあえてゴーレムを配置することで必ずそれを倒すためにそこで足を止めなければいけないように配置してある。しかも、意識は目の前に向けさせるマスターが得意な意識誘導。絶好の狙撃のチャンスをマスターに準備してもらって失敗するわけにはいかない。
そしてそのときは訪れる。
『パーン』
完璧なタイミングと手応え。確実に成功したと思った瞬間、時が加速したように少女の動きが速くなり、入り口へ続く通路へ消えていく。
「嘘でしょ。」
素直にそんな感想が出た。
会議室でモニターを見ていた面々も少女の緊急退避には驚いた。
「おいおい、今のは予兆も事前察知も無理だろ。どうやって避けてるんだよ。」
少女の間一髪での回避はそれだけ人間離れしていた。
「でも、かすりはしたみたい。額から血が流れてる。」
メイが別角度の映像を見て指摘する。ようやく初めて少女にダメージを与えられたところが見えた。一応ダメージは与えられるようなので理論上は倒せるようだ。攻撃さえ当たれば。
「かすり傷ですんでる時点で化け物です。あれ、どうやって倒すんですか。」
ニーナの感想がすべてだ。これだと他の作戦もうまくいくか怪しくなってきたぞ。
その後、うまく立て直した少女に物量作戦もなすすべ無く壊滅。エルフは撤退し、残る防衛ラインは一部屋になった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます