第31話 少女の正体
「そんな。」
ニーナが悲しそうにつぶやきメイとエルフはアサルトライフルを取りに行く。
「あまり好きではないですがスナイパーライフルで当たらない以上、背に腹は代えられません。」
「ソータはなんとしても守る。」
そう言い残してエルフとメイは一緒に召喚部屋で少女が降りてくるのを待つ。会議室のモニターには地下階に向かいながらポーションを飲んで影狼に噛まれた腕の状態を確かめる少女の姿が確認できた。
それからまもなく少女が地下階に姿を見せる。見えた瞬間にメイとエルフの同時射撃が始まる。
「ちょっ。」
少女は驚いた表情をしたあとすぐに弾幕が届かない位置まで撤退する。そして、少し待つと弾が切れたのか弾幕が途切れる。その瞬間を見逃さず少女は加速しながら地下階に侵入する。マガジンの交換を終えた二人が最発砲しようとしたがもう遅い。少女は二人のアサルトライフルを剣で両断し、エルフの腹を剣の柄で殴って気絶させ、小槌を生成して殴りかかってきたメイを体術でねじ伏せる。そのまま寝技に持ち込み窒息させた。
残るのは俺とニーナのみ。ニーナは俺を守るように立ち、杖も無しにショックボルトの魔法を放つ。少女はその攻撃を避けずに受ける。
「あなたの魔法じゃわたしには勝てないわよ。」
少女はほとんどダメージを受けていない。これじゃ、先にニーナの魔力が尽きそうだ。
「それに別にあなたの守ってるその人を殺しに来たわけでもこのダンジョンを壊しに来たわけでもないのよ。邪魔されたから倒しはしたけど誰も殺してはいないわ。」
少女の言葉にニーナはきょとんとする。
「だから、ちょっとどきなさい。わたしはそこのそいつに話があるから。」
俺を守るように立っていたニーナはその迫力に後ずさってしまう。少女は隙を見逃さずニーナを押しのけ俺の前に来る。
「もうこれ以上魔物はいないわよね?」
少女は左右をキョロキョロと見渡してから俺に話しかける。
「ああ、これで全部だ。」
俺は頷く。そうすると少女は急に俺の襟首をつかみあげる。
「ねえ、わたし4回くらい死にかけたんだけど。あんなの聞いてないんだけど。」
少女はまくし立てる。
「いやー、さすが勇者様。なんであれで無事なんだってくらいチートだったよ。」
「無事じゃないわよ、銃弾頭かすってるし。もしわたしが死んだらどうするつもりだったの?」
俺と勇者のやりとりを見てニーナがオロオロしている。
「どうしたんだろうね。なんか昨日の戦闘見てたら死ぬ気がしなかったんだよね。」
俺は悪びれなく言う。
「2回目以降死にそうになったやつはあんたの魔物が頑張った成果だから100歩譲って許してもいいけど、最初の爆弾だけは許さないわよ。」
残念ながら勇者はご立腹のようだ。
「あー、とりあえず風呂でもどう?」
勇者の機嫌を取るためにとりあえず風呂を勧めてみた。
「え、風呂あんの?それを早く言いなさいよ。」
風呂の単語1つで態度が変わる。
「お風呂どこ?」
勇者が風呂を探して倉庫の方に入ろうとする。
「こっちだ。」
俺が隠し部屋の扉を開ける。
「おー、脱衣所まであるんだ。覗かないでよ。」
隠し部屋の扉を閉める前に俺を牽制するようにそれだけ顔を覗かせて言って勇者は風呂へと消えてった。
「さて、ニーナ。みんなを回収するぞ。」
勇者という嵐が風呂に消えたのを確認して俺は勇者以外で唯一動ける人間に声をかける。
「あの、これどういうことですか?」
ニーナが何が何だかわからないというような困惑した顔をしていた。
エルフの回復魔法からコツコツ作ったスクロールと倉庫に貯蔵してあったポーションを使って仲間たちを回復させた俺はみんなが目を覚ますのを待ってから今回のネタばらしをする。
「えー、今回の黒幕は俺です。ここまで順調に勝ちすぎてたのでここにいる勇者レイナに協力してもらって一回負けを経験させてもらおうと話を持ちかけました。」
俺は心配かけてゴメンと頭を下げる。
「何故か協力したわたしが殺されかけたけどね。嵌められたかと思ったわ。」
隣でレイナが不満そうに言っているが今は気にしないことにする。それよりもメイたちに謝ることの方が大事だ。
「ソータが無事でよかった。わたしはそれで十分。」
俺とのつきあいが一番長くこのダンジョンのまとめ役にもなっているメイがそう言うと他に何か言うものはいなかった。メイが自分が許すんだからみんな許してあげてと言外に言ってるのが伝わっているのかもしれない。
「あのー、二人はいつから組んでたんですか?」
ニーナがおそるおそる手を挙げて質問する。
「それはわたしも知りたい。ソータはこっちの世界に来てからずっとダンジョンにいたはず。勇者と接触する機会なんてなかった。」
メイもそこは疑問に思ったようだ。
「こっちの世界で初めてレイナと連絡を取ったのは昨日のレッドタイガーが村に現れた時だな。それで夜になってからもう一回連絡を取って今回の襲撃を依頼した。」
実はレッドタイガーに村が襲われた時、レイナは全くそのことに気がついていなかった。だから、俺が念話でこのままじゃ村が滅びると警告したのだ。
「上宮、もっと前から話さないとわからないわよ。わたしとこいつはわたしたちの世界で幼なじみだったからお互い知ってた。あのときわたしはドローンの存在に気がついてたからわたしたちの世界の人が見てるのはわかってた。だから、それが上宮だってわかったから協力しようと思ったのよ。」
俺だとわかったから封印の森とは無関係だと判断したというのもあるのだろう。
「上宮とはマスターのことでいいんですよね?」
エルフが確認のためという風に聞く。そういや俺、下の名前しか名乗ってないな。
「はぁ、ホント信じらんない。あんた、自分の魔物に下の名前しか教えてないの?これだけあんたのこと慕ってくれてるのに。こいつがちゃんと自己紹介してないみたいだから言うけどこいつは上宮創太。今回はわたしがあなたたちを殺さないってわかってたから傍観してたけど、あなたたちが本当に窮地に立たされたら全力で助けてくれるはずよ。」
レイナは呆れたように俺を紹介する。
「なんで俺の評価そんな高いの?」
なぜか俺の紹介がめちゃくちゃ評価が高かったので聞いてみる。
「だってあんた、自分より仲間のために動くタイプじゃん。わたしのバスケの試合のために他校の映像取ってきたりしてくれたし。」
あれはお願いされたから仕方なくやっただけなんだけど。
「ソータがわたしたちのことを思ってくれてるのは知ってる。」
メイにはいろいろ相談にも乗ってもらっていたのでこれは否定できない。
「まあ、わたしもしばらくここに留まるし、そうそうピンチにはならないと思うけどね。」
こうして勇者が我がダンジョンで行動をともにするようになった。
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