第45話 旧都攻防戦

 遠距離攻撃への一番メジャーな対処方法は古今東西、遮蔽物に身を隠すことだと決まっている。ジェームズの作戦はだだっ広いダンジョンの部屋に遮蔽物を建て、魔法部隊で一方的に集中砲火しようというものだった。リザードマンもそれはわかっており、敵に近づかせないように氷で足場を凍らせ近づけさせないように工夫した。

「厄介よね。」

 手前の部屋から様子を見ながらレイナがつぶやく。

「スモークで視界を潰してもスケルトンじゃ壁の裏までいけないわよ。」

 ヴァンパイアが苦々しくつぶやく。

「そのために上宮はノイルを連れてきたんでしょ。」

 このまま入り口から入れば集中砲火を受けることは間違いない。

「とりあえず、こちらも遮蔽物を建てましょうか。」

 まずはスモークを投げて安全に侵入できるようにする。その際、最初に銃声を鳴らして相手が壁の隙間から顔を出せないようにするのを忘れない。

 ノイルはサーチで敵の位置を把握しながら部屋に侵入する。そして、入り口から入ってすぐの位置に{アイスシールド}で壁を作る。これで部屋に入ってすぐに集中砲火を受けることはなくなった。続けてその壁から脇から少し前に向けて同じように{アイスシールド}で壁を作る。これで入り口は完全に魔法で狙えなくなった。

「これで部屋への侵入はできるようになったわ。」

 レイナがどや顔で言う。

「これもマスターの作戦通りなんでしょ。それなら全部マスターの手柄じゃない。」

 とはいえ、問題はここからだ。部屋には入れても魔法部隊との距離は未だ開いてるし、近づけばオークたちの近接部隊と戦うことになる。

「まあこれくらい想像してたんでしょうね。なんせ、こんなものを準備してるくらいだからね。」

 そう言いながらレイナはピンを引き抜いて手榴弾を敵のバリケードの内側に投げ込む。とはいえ、レイナは別に肩が強い方ではないのでギリギリ届くくらいだったが。

「ヴァンパイア、これはあんたの方が向いてるわ。ガンガン投げ込んじゃって。」

 人間より身体能力の高いヴァンパイアは当然、レイナよりも遠くに投げられる。もちろん、遠くに投げられるのだから同じ位置に投げるにしてもコントロールはよくなる。

『ドーン』という爆発と味方の犠牲ともに敵は今の投擲物がどれだけ危険かを把握する。慌てて次の攻撃を防ごうとするが手榴弾一発を無警戒で受けた防衛ラインは一部が破壊され魔法攻撃に穴ができる。こうなれば戦線の崩壊は早い。どんどん投げ込まれる手榴弾に魔法部隊は数を減らされていき、まもなく壊滅した。

「メイ、第7階層制圧完了。投げものをいっぱい使ったから補充してくれるとうれしいわ。」

 投げものだけでほぼ壊滅に追いやったヴァンパイアはメイに物資補給の要請をする。



「冗談じゃない。あんな作戦をとられたらバリケードごときじゃ耐えきれない。」

 指揮を執っていたリザードマンは戦況が悪くなるとそうそうに隠密スキルで撤退していた。第8階層からあわよくば混乱に乗じて攻めようとしていた主力部隊に第7階層がすぐに突破されるだろうことを伝える。

「何があった?」

 リザードマンを出迎えたジェームズに状況を説明する。

「バリケードの対策までされるとなるとこちらも覚悟を決めるしかあるまい。」



「今度はさっきより広い部屋に同じようにバリケードを作ってるわね。」

 サーチで調べた限り、待ち伏せている数もさっきより多い。さっきのが3階層分の敵だとしたら、ここに集まってるのは残りの総戦力だろう。

「さっきと同じように行くと思う?」

 レイナがヴァンパイアに問う。

「まあ、相手がよっぽど無能じゃ無い限り無理でしょうね。」

 ヴァンパイアはあっさり否定する。とはいえ、どのような対策をしているのかは試す必要がある。

「行くわよ。」

 先ほどと同じようにスモークから部屋に侵入を試みる。銃声を鳴らしてノイルがサーチをすると敵は全く遮蔽物に隠れてなかった。

「入り口に向かって魔法を放て。入られたら終わりだぞ。」

 奥から叫び声が聞こえる。それと同時に向こうからもサーチが飛んでくる。ノイルは親友を諦め撤退する。

「やってくれるわねジェームズ。」

 レイナは声で敵の指揮官が誰なのか察する。

「なら、無理矢理こじ開けるしかないわね。」

 ヴァンパイアが部屋の外から手榴弾を投げ込む。この距離で敵の足下まで届くのはヴァンパイアの身体能力の高さがあってこそだ。

「デスウルフ、行くわよ。」

 そして、そのまま3頭のデスウルフを突撃させる。

「絶対にバリケードを越えさせるな。」

 ジェームズの叫び声が聞こえる。侵入してきた敵がいたらそこにフォーカスして魔法をうちざるをえない。魔法部隊の戦列が崩れればアサルトライフの脅威に対応できなくなるからだ。一斉にデスウルフに魔法が放たれる。

「スケルトンたち、今よ。」

 魔法がデスウルフに向いた瞬間にヴァンパイアが10体のスケルトンたちを動かす。魔法を一度放ってから次の一撃を放つまでにはどうしても時間がかかる。だから、デスウルフをおとりに使って魔法を使わせた。マスターの得意戦法。そして、ヴァンパイアも魔法を放つ。同族の老人から奪った魔法。

「重力」

 これでスケルトンの突撃を止めることはできない。部屋への侵入を阻止するためにバリケードから顔を出していたものたちは一瞬で蜂の巣にされる。しかし、ジェームズたちもただでは終わらない。

「アラクネー。」

 部屋の左右と天井の死角に隠れていたアラクネーたちが蜘蛛の糸を放つ。先ほどのサーチで存在はわかっていたが奥の魔法部隊をなんとかする方を優先せざるをえなかったため3体のスケルトンが蜘蛛の糸に絡め取られる。しかし、さらに後ろから出てきたスケルトンたちがそのアラクネーたちを倒す。部屋への侵入に成功したスケルトン部隊が敵の魔法部隊を殲滅していく。完全に部屋への侵入を許してはジェームズたちにこれを止める方法はなかった。

「クソ。」

 ジェームズが悪態をつく。

「わたしが時間を稼ぎますのであなたは撤退してください。」

 副官のサキュバスに頷いてジェームズは撤退しようとする。

「させないわよ。」

 しかし、それよりも早く風が追いつく。サキュバスが止める間もなくレイナはサキュバスの横をすり抜けジェームズに追いつくとそのまま一閃。ジェームズはその場に崩れ落ちた。とっさにサキュバスが反撃しようとするがそこは剣の間合い。近距離で魔術師が剣士に勝てるわけもなくサキュバスも倒された。こうして、旧都の攻防戦は幕を閉じた。

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