第44話 対策

「やはり、単純に戦ったのではスケルトンも倒せんか。」

旧都の最下層で部下から第3階層の壊滅の報告を聞いたジェームズはつぶやく。

「アラクネー部隊を第4階層に送り込め。」

館の戦いで死角からの奇襲がスケルトンたちに有効なことはわかっている。アラクネーたちは蜘蛛型の魔物であり、〔隠密〕スキル持ちである。死角にうまく忍び寄れば敵を一網打尽にできると考えたのだ。ジェームズの指示に従い待機していたアラクネーたちが静かに動き出す。


 第4階層の主力もオークがつとめることになる。これはオークの繁殖力が強く個体数が確保できるからだ。第4階層の部隊はアラクネーが5体、オークが8体にスケルトンが10体が戦力だ。オークたちはスケルトンに指示を出しながら隠れているアラクネーたちに気がつかれないように注意を前方に向けさせる。

「いけ。」

相手が罠に引っかかったタイミングでスケルトン2体を特攻させる。しかし、罠にかかったのは先行したデスウルフであり、その後ろから相手のスケルトンに蜂の巣にされオークたちはスケルトン2体を失う。しかし、注意は前に引きつけることに成功した。予定のポイントまでもう少し。しかし、侵入者たちはオークの思い通りには動かなかった。デスウルフ2体がアラクネーたちが隠れている脇道の索敵に動く。

「どうして?」

 完璧に引きつけられたと思っていたオークが静かに困惑の声をあげる。


「さすがマスター。こうなることも読んでたのね。」

 デスウルフたちが脇道の刺客を見つけたのを確認したヴァンパイアがうれしそうにつぶやく。デスウルフは視覚ではなく嗅覚が大きく発達した魔物なので隠密で姿を消している魔物も見つけることができる。デスウルフたちが発見した魔物はスケルトンによりすぐに蜂の巣にされた。

「何を今さら。上宮は自分ならどう攻めるか考えてるだけよ。前回も角待ちされたのがわかってるから同じ過ちは犯さないようにクリアリングは徹底的にやるように指示しただけ。この戦術をピンポイントで予測したわけじゃないわ。」

レイナはこれも数あるありそうな攻撃の1つにしか過ぎないという。

「だとしたら、ここで待ち伏せを仕掛けるってことは前の部屋にも戦力を置いてるはずよね。ノイル、前の部屋にサーチお願い。」

 ノイルのサーチに複数の敵が引っかかる。

「ビンゴ。ヴァンパイア、スモークを投げて仕掛けるわよ。ノイルは突入のタイミングでもう一度サーチよろしく。」

ヴァンパイアはレイナの指示通りに前の部屋にスモークを投げ込む。これもマスターが建てた作戦の1つだ。敵の視野を奪いながらこちらはサーチで敵が見える状態を作り、スケルトンに飛び込ませる。こうなれば敵は部屋への侵入を防げず待ち伏せは失敗に終わる。こうして第4階層も大きな損害無く突破するのだった。


 アラクネーたちの奇襲もどうやら失敗に終わったらしいという報告を受けたジェームズは険しい顔をする。

「同じ作戦は通じないか。」

手元の戦力にアラクネーはあと3体いるがこの分ではもう一度試しても結果は変わらないだろう。こうなるとこちらはほとんど戦力は減らせず、向こうはこちらの戦力をすでに2階層分削ってしまった。

「このまま戦い続けてもじり貧か。サキュバス、5,6階層の防衛を引き下げさせろ。第7階層で迎え撃つぞ。それと第9階層のやつらを第8階層に下ろせ。この2層で勝負を仕掛ける。」

最下層のここには自分と副官のサキュバス、それから数体の魔物しかいないため、ほぼ全力の戦力を2つの層に集めることになる。ジェームズはそれでもこれが一番勝算が高いと判断したのだ。そして、最下層にいる魔物から1体の魔物を選ぶ。

「第7階層の指揮はリザードマン、おまえが執れ。雪女たちに防壁をを作らせてその隙間から魔法で攻撃するのだ。」

 このリザードマンはダンジョンを監視していたリザードマンであり、館でヴァンパイアの老人に敵襲を知らせたリザードマンでもある。このままやられぱなしでは終われないだろう。

「ハ、仲間の無念。晴らさせてもらいます。」

リザードマンは作戦の意味を理解し、さっそく第7階層に向かった。

「残りはわたしとともに第8階層だ。」

ジェームズは部下を引き連れて決戦に向かうのであった。



 第5階層に進んだレイナたちは急に敵がいなくなったことに違和感を覚える。

「敵がいなくなった?あれで全部ってことはないはずよね。」

レイナが不思議そうに尋ねる。

「もう一度、捜索してみるわ。」

ヴァンパイアが増援として新たに合流したデスウルフの他に倒したオークたちの血を吸って得た魔力でさらにデスウルフを作成して探すも敵は見つけられない。

「奥に引いたって考えるのが妥当でしょうね。どこかで総攻撃を仕掛けてくるはずだわ。」

レイナが警戒を強める。その後、第6階層も敵と遭遇せずに突破したレイナたちはそれでも警戒を緩めず第7階層に索敵を送る。

「いたわ。」

ヴァンパイアが報告する。ここ2階層分の敵が集まってると考えると第7階層には3階層分の敵がいる計算になる。

「やつら氷でバリケードを組んでるわ。」

敵の配置を視覚共有で確認したヴァンパイアがつぶやく。

「敵も必死ってことよ。足下をすくわれないように慎重に行くわよ。」

レイナに頷いて第7階層の攻略を始める。

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