第37話 大量発生の理由

 話し合いの結果、昼に行動するチームはエルフと白狼、夜に行動するチームがテンカと影狼とヴァンパイアになった。夜の方が人数が多くなった理由は昼はゴーレムが戦闘に参加できること、いざとなったらレイナが助けに出ればいいという結論になったからだ。現在、差し迫った脅威が夜にあるので夜を増やしたかったっていうのもあるが月明かりだけじゃ視界の悪い森で戦うには無理がある。ダンジョンの近くだけ明るくして視界を確保するって選択肢もあるにはあるがとりあえずこれでやってみることになった。

「それで肝心なレイナさんはどこにおられるのですか?」

 出発する前にエルフが聞く。

「新たに作ったトレーニングルームで体を動かしてるよ。」

アンデッドがいっぱい攻めてくるおかげで使える部屋の上限が増えた。それを利用してトレーニングルームを作ったのである。

「非常時にはちゃんと動いてくれるはずだから、しばらくはそっとしておいてあげてくれ。」

レイナはこないだの話以降も気持ちが切り替えられてるとは言えない状態だ。時間があれば、ボーと考え事をしてるので心の整理がつくまでにはしばらくかかるだろう。とはいえ、本人の性格的に一度集中すればとんでもないスペックを発揮するタイプなので戦闘に影響するとは思ってなかった。

「わかりました。それではいってきます。」

エルフが白狼と一緒に狩りに出てく。昼間はニーナが周囲を警戒しながら効率よく指示を出しているので成果も多い。

「やっぱり魔物の数も増えてるか。」

ドローンの映像を見ながらつぶやく。

「そうですね。ここのところはレッドタイガーも増えてきましたしキリがないですね。」

ニーナが映像を切り替えながら答える。

「これは本当に呪いの影響なのかな?」

封印の森の呪いにしては不自然さがあるのだ。

「ソウタさんは違うとお考えですか?」

ニーナが不思議そうに聞く。

「呪いにしては今になって急すぎる。少し前はゴブリンだっていたんだ。それがもっと上位の魔物だらけになった。呪いが発動するような特別な変化があったとは思えないんだよね。」

ゴブリンの討伐くらいまではこの森ももっと穏やかだったはずだ。少なくともギガントイノシシなんてそれまでは見た記憶が無い。

「一つだけありますよ、大きな変化が。」

ニーナが言う。

「それはわたしがこの森に入ったことです。わたしがこの森に入ったのはソウタさんたちがゴブリンの群れを討伐した直後。ギガントイノシシが増え始めたのはそれくらいの時期からでしたよね。」

確かに時期的には近いかもしれない。とはいえ、それが理由だとも思えなかった。



 意外にも魔物の異常発生の理由は早く判明した。

「ふわぁ~。」

夕方になってあくびをかみ殺しながらヴァンパイアが出てきた。俺はちょうどニーナとフレイムタイガーなどの上位種の発見場所の確認をしていた。

「これでも結構処理してるつもりなんだけどな。」

処理が追いつかないくらい上位種の数も増えてきてしまっていた。

「当たり前でしょ、龍脈が壊されちゃってるんだから。」

それを遠くから聞いていたヴァンパイアが当然のように言う。

「龍脈が壊された?」

俺はヴァンパイアに聞く。

「そっか。マスターたちは人間だから見えないのか。あたしたちヴァンパイアは魔力が目で見えるのよ。」

ヴァンパイアは自分の目を指さしながら言う。そして、ヴァンパイアは航空写真の前まで移動する。

「それで龍脈が壊されたのはこの辺りね。この辺りから魔力があふれ出るのを感じるわ。何か建物があったようだけどここは何があった場所なのかしら?」

ヴァンパイアが指さした場所は外れの村があった位置から少し北にいったところだ。

「確か旧都があったのがその辺りのはずです。大昔の大戦でボロボロになって王都が移動したという話でした。」

ニーナが答える。

「そう、その旧都から南側に向かっていた龍脈の門が破壊されたことが魔物の大量発生の要因ね。」

どうやらあふれ出た魔力によって魔物がどんどん生み出されているらしい。

「わたしのせいじゃなかったんですね。」

自分の責任ではなかったとニーナがほっとする。

「それと上位種が次々に生み出されてるのはこの地に広がる呪いが原因ね。まあ、マスターがいる以上、術者を倒して解除するしかないのだけど。」

どうやら上位種が出てくるのは封印の森の呪いの影響らしい。

「マスターが倒したって言うゴブリンの上位種も呪いの影響で成長が早まったんじゃないかしら。」

どうやらこの森は人間がいると魔物の成長が早くなるらしい。しかも数が増えればその効果も大きくなるらしい。ちなみにその効果はヴァンパイアたちにも有効らしいので俺は知らないうちに呪いの恩恵を受けてたことになる。なんか複雑だな。

「ヴァンパイアっていろいろわかるんだな。」

「そうよ。だけど、呪いについてはエルフもわかっていたはずよ。自然を汚す行為については一番敏感な種族なんだから。」

 狩りから帰ってきたエルフに呪いのことを聞いてみた。

「ええ、効果も理解してました。しかし、わたしたちに害を与えるレベルではありませんでしたし、恩恵も大きかったので放置しておりました。」

どうやら自分たちが強くなれば関係無いと思っていたようだ。まあ、認識にズレがあったのは俺にも責任があるんだが。

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