第39話 ヴァンパイアの戦い

「どうですか?」

 戦場にたどり着いた老人のヴァンパイアは壁の裏に隠れるオークのリーダーに声をかける。

「どうもこうもねえですよ、旦那。残りの戦力はこれだけであとは全部やられてしまいやしたぜ。ああ、絶対に顔は出さないでくださいよ。いくら旦那が不死身の最勢力があるからってあれをくらい続ければ魔力が尽きちまう。」

 残り数匹まで減ったオークのリーダーは苦々しく言う。スケルトンが使う妙な遠距離攻撃の前に手も足も出ないらしい。だから、曲がり角でこうして待ち伏せて死角から近づいてきたところを狙って少しずつ数を削いできたらしいがそれでも損耗の方が上らしい。

 ヴァンパイアの再生能力は種を明かせば超再生で魔力を体力に変換して体力を増やしているに過ぎない。つまりいくら魔力容量が破格のヴァンパイアといえどいつか魔力が底をついてしまったら死ぬのだ。

「では、反撃と行きましょうか。」

 老人は溜め込んでたアンデッドを屋敷の複数の隠し通路から解き放つ。すぐに再びあの轟音が響くしかし、それだけでは防ぎきれなくなったのか剣の音が混じりだした。オークが様子をうかがう。

「これでも数が減らせねえのか。」

 オークは悪態をつく。まだまだ、戦力は健在のようだ。

「ふむ。なら、これではどうでしょうか。」

 老人は{重力}の魔法を放つ。さすがにスケルトンは耐えることができず妙な兵器は潰すことに成功する。これでようやく姿が現せる。


「100体以上のアンデッドがいたはずですが全滅ですか。」

 老人は死角から姿を現し来訪者たちに話しかける。

「人の館にいきなり訪れ、話す暇なく殺しにかかる無礼な来客者様たちでよろしいですかな。わしが当館の館主でございます。当館にはどんなご用件で?」

 皮肉を込めて言う。理由なんて自分を倒すために決まってる。

「へえ、あんたがここの館主ね。じゃあ、あたしのマスターのダンジョンにちょっかいをかけてた張本人でいいのかしら?」

 目の前に立つ二人の少女のうち小さい方が問う。

「ゴーレムたちが守る奇妙なダンジョンのことをおっしゃってるのであればそうでございますな。」

 老人はあっさりと認める。ここでしらを切っても仕方ない。その瞬間、もう一人の少女が襲いかかってくる。老人は{幻影}で身代わりを用意し、老人とは思えない身体能力で後ろに退避する。そして、幻影の位置に{重力}を放つ。少女は自分が切ったのが幻影だとわかると重力の気配を感知し範囲外に避難する。

「噂には聞いていたがさすがの回避能力じゃの、神殺しの勇者よ。」

 神殺しという言葉を聞いて勇者に動揺が見える。

「ほう、気付いておらんかったのか。ラッセルも早まったな。ラッセルはおぬしが『叡智の書』を得たから殺さざるを得なかったと言っていたがただの勘違いだったとは。それで逃げられるとは失態もいいとこじゃな。」

 老人は笑う。

「『叡智の書』ってあの白紙の本のこと?あの本がなんだって言うのよ。」

 勇者はそう言いながらまたこちらに攻撃の構えを見せる。

「知らないのなら貴様に用はない。貴様はそこで踊っておれ。」

 老人がそう言って指を鳴らすと、再びたくさんのアンデッドが現れる。

「ああ、もう。鬱陶しいわね。」

 アンデッドに囲まれた勇者はその処理に追われる。しばらくは動けないだろう。その間にもう一人をなんとかせねばな。

「待たせたな。」

 もう一人の少女に声をかける。

「別に待ってないわよ。」

 少女はぶっきらぼうに答える。

「では、行かせてもらおうか。」

 老人は投げナイフを少女に向けて投擲する。それを少女は剣で弾く。老人はその間に少女との間を詰める。そして、そのまま隠し持っていた短剣で切りつける。

 少女が間一髪剣で弾きにいくと老人の姿は霧散する。

「ちっ、幻影。」

 少女は舌打ちする。死角に回り込んだ老人は少女に切りつける。寸前のところで急所をからそらした少女だったが躱しきれずに肩口から血が流れる。

「貴様、同族じゃったか。」

 少女の傷が瞬時に癒えていくのを見て老人が少女の正体に気付く。

「だったらどうしたって言うのよ。」

 今度は少女から切り込んでくる。剣のリーチの長さで負けてるため、老人はこのまま続けるのはまずいと思い、距離を取る。

「貴様、それだけ戦えて何故勇者と一緒にタイミングを合わせなかった。」

「冗談を。勇者の邪魔になるだけよ。」

 この少女は幼いながらも戦いをよくわかっている。

「身の程をよくわかっておる。だが同族だとわかった以上、力で劣る貴様に勝ち目はない。」

 ヴァンパイアには同族食いの習慣がある。同族を食らうことでその力を奪うものだ。少女は勇者に協力してもらって自分を弱らせて食う算段だったか。老人はそう考えて少女に切り込む。

「けりをつけさせてもらおうか。」

 敵の狙いがそうならば時間をかけていられない。少女の後ろを中心に{重力}を発動する。それを察知した少女は範囲外に出るためそのままこちらに突っ込んでくる。そのまま、切るフリをして{幻影}で本命はその次か。老人は敵の動きを予想する。

 予想通りの切り払い。老人は構わず短剣で受けに行く。そのまま、切り払いが消えたのを確認しこちらも{幻影}を発動する。少女の剣が空振り目の前に老人が現れる。

「これでわしの勝ちじゃ。」

 老人は{催眠術}を発動する。お互いの目が合って発動の条件が揃ったことを確認する。その瞬間、少女がにやっと笑った。

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