第9話 忍び寄る影

 翌日、魔力が回復した俺はエルフ用にスナイパーライフルを生成することにした。エネル草から作れるマジックポーションのおかげで乱射しないスナイパーライフルであれば模倣で弾を生成しても問題ないと判断したからだ。アサルトライフルの弾も貯蔵量を増やしていくつもりだ。


「エルフ、これ使ってみてもらえるか?」


 スナイパーライフルを作った俺はさっそくエルフに試させる。


「これはすごいですね。魔法の射程の外から攻撃できる武器ですか。」


 少し試したエルフが驚いたように言う。ちなみに遠距離を狙う魔法でも確実に狙える範囲は50メートルほどであり、100メートル止まった的でさえよほど腕が良くないと当たらないらしい。ちなみにエルフは狙撃の名手なので魔法であろうが弓であろうが100メートル当てられると豪語していたが弓は元々そこまでいくと真っ直ぐ狙うのは難しいし魔法はそれ以上の距離を魔法そのものが維持できるようにできていないとのこと。両方ともスナイパーライフルのように数百メートルも狙える作りにはなってないのだ。


「昨日の話を聞いていたらこっちのほうが好みだと思ってね。」


 単発で発射する銃でエルフの射撃の腕を活かす武器で一番ポテンシャルを活かせると思ったのがこれだった。


「ありがとうございます。正直、これだけの射程があるなら魔法なんていらないかもしれませんね。近づかれたらハンドガンで撃てばいいだけですし。」


 と、弾さえあれば魔法がいらないとまで言い出した。近距離に特化するならショットガンを渡した方がいいのかとも考えたがハンドガンは装填数の多い物を渡してるので継戦能力の高さというメリットがあるのでどちらにもメリットがある。特にエルフの場合は前衛がいる戦闘を想定してるためショットガンでは仲間を巻き込むリスクもある。


「じゃあ、これをメインで戦うってことでいいか?」


「もちろん。それではこれから狩りにいって参ります。」


 ということでエルフのメイン武器が決まった。ちなみに今日はメイにゴーレムはクレイ1,ストーン2,アイアン1で作ってもらった。新たに増えたクレイゴーレムはエルフたちの成果を持ち帰る荷台を引っ張るのに使うためだ。今までは持ち帰る獲物も取捨選択していたようだったので荷物持ちがいれば持ち帰りが楽になると考えたのだ。荷台は模倣で作った。




 結果的に荷台を作ったこと成果はすぐに得られた。なんせ2時間ほどで山積みになった荷台を引いたゴーレムと火狐が帰ってきたからだ。エルフは残って狩りを続けてるらしい。火狐が


「あの子がいれば、わたしいらないコン。」


 と漏らすほど、エルフの射撃は圧倒的らしい。なんせ火狐たちが戦える範囲に入る前に全てが終わってるのでやることがないそうだ。それでも学習のスキルのおかげで経験値は得てるはずだが。しかし、火狐に任せたいのはエルフとは別の仕事なのでここで自信をなくされては困る。なんとかする手段を考えなければ。




 午後になって本日3回目の火狐たちの帰還のタイミングで事件は起こった。エルフがゴブリンの集落を見つけ迂回しようとしたところでゴブリンの斥候部隊に見つかったらしい。相手部隊は壊滅させたものの一匹逃がしたようで近くゴブリンたちがこのダンジョンを見つけて攻めてくるだろうとのこと。


「それでゴブリンの戦力はどれくらいだ?」


 問題は数だ。ダンジョンといってもまだ防衛力を高められるほど堅く作れていない。戦力の大半をゴーレムで補っている現状、数で押し切られてしまう可能性もある。


「ゴブリンは一般的に30匹くらいから集落を作ると言われてる。」


 話を聞いたメイが前提として教えてくれる。


「はい、作り始めの集落でもそれぐらいはいるでしょう。ですが、集落の規模が大きかったのでもっとたくさんいると考えていいでしょうね。」


 これは実際に村を見ているエルフにしかわからない情報だ。


「そうですね、推測ですが70匹ほどいるかもしれません。」


 少し考えたエルフは俺たちの3倍近い戦力を予想した。


「70なら上位種が数体いてもおかしくない。」


 メイが深刻そうに指摘する。


「ゴブリンの上位種だと何になるんだ?」


「わからない。ゴブリンは上位種のバリエーションが豊富な種族。ゴブリンリーダーにゴブリンメイジ、ゴブリンウォリアー、ゴブリンライダーといろんな種類の上位種が確認されてる。集落を作るくらいになると一匹くらいは上位種になるって言われてるから、一匹はほぼ確実に上位種がいる。」


 メイが言うには進化先が多すぎて何に進化するか特定できないらしい。ちなみに最上位種はゴブリンキング1種類らしい。


「ゴブリンの強さはどれくらいだ?」


 70匹もいるならゴーレム1体でどれくらい倒せるのかも戦力差において大事な部分になる。


「普通のゴブリンならクレイゴーレムで2匹、ストーンゴーレムで3匹、アイアンゴーレムなら5匹まで足止めできると思う。」


 上位種ならその限りじゃないってことか。足止めということはこれ以上は相手にできないってことだろう。


「ゴブリンがゴーレムを倒すために必要な数はそれに+1匹って考えればいいのか?」


「クレイゴーレムとストーンゴーレムはその考え方で問題ない。アイアンゴーレムに関しては鉄壁の魔法を使えば上位種じゃないと攻撃が通らないから魔力が続く限りは絶えられる。」


 アイアンゴーレムは鉄壁の魔法が使えるらしくそれを発動すれば上位種で無ければ倒せないということだ。ちなみにゴブリンは群れで動くことが前提の種族なので上位種でも単体ではアイアンゴーレムと戦うのは厳しいらしい。


「じゃあ、逆にストーンゴーレム2体をゴブリン5匹にぶつければ勝てるか?」


 攻めさせないのではなく倒すことが撃退の条件だ。どうにかして相手の数を減らせなければ足止めするメリットもない。足止めできるということはギリギリ勝てるかどうかというところであり、外的要因が無ければかなり時間がかかるだろう。


「負担が軽い方が頑張れば可能。」


 ゴーレム側が厳しいところは相手が多いと隙が大きい攻撃ができないところだそうだ。ゴーレムたちは棍棒を持っているため、それを振り回すだけでゴブリンたちに大きなダメージが与えられるようだが振りがデカいため当たらなければ逆に隙になってしまう。


「まあ、ゴーレムだけで戦力削るのはちょっと無理があるか。」


 相手は数の暴力で攻めてくるため足止めできる数だけで相手してはくれないだろう。よっぽど、他に脅威になる敵がいれば別だが。


「なあエルフ、地上階の一番奥からダンジョンの入り口ってどれくらいの精度で狙える?」


「それくらいの距離ならよほどのことが無い限りは外さないでしょうね。」


 これ以上ない脅威がこのダンジョンにはあるんだけど。そもそも、ダンジョンの一部屋は教室一つ分で通路も5メートルほどなので地下階への入り口に立っても二部屋と通路一つでは入り口まで25メートルくらいしかない。スナイパーライフルで狙うにはむしろ狭いくらいの距離でしかないだろう。なんならハンドガンでいいレベルの距離だ。


「メイ、ストーンゴーレムが装備できるような盾を5つ準備して欲しい。一晩でできるか?」


 少し考えてから指示を出す。


「余裕。すぐに準備に入る。」


 答えてすぐにメイが立ち上がる。エルフがスナイパーライフルで狙うということは必然的に向こうからも射線が通るとことになる。ゴブリンたちが弓を持っている可能性や魔法が使える上位種がいる可能性もあるのでゴーレムを盾にして身を隠す作戦だ。アイアンゴーレムではなくストーンゴーレムを使うのは単純にサイズの問題だ。ゴーレムの身長はクレイで1.3メートル、ストーンで1.5メートル、アイアンになると2メートルになるためアイアンを盾にしようとすればエルフが射線を通しづらくなってしまう。もっと言えば通路にストーンまでは横に2体並べるのだがアイアンは並ぶことができない。とはいえ、これで作戦は決まった。

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