第16話 懐柔

 まずは2匹のステータスの確認だな。


『影狼:闇に紛れて奇襲するオオカミ。白狼には強い対抗心を持つ。


<影狼>


Lv1:{隠密}〔夜目〕




白狼:氷を吐いて獲物を仕留めるオオカミ。影狼に強い対抗心を持つ。


<白狼>


Lv1:{サーチ}〔冷温適応〕』


魔物図鑑によると遺伝子レベルで対抗心が刻まれてるらしい。まさかこんなことになるとは。2匹は今もお互いににらみ合ってガウガウしてる。


「メイ、肉余ってない?」


指示には従ってもらわないといけないので餌付けでもするかと思ってメイに聞いてみる。


「ある。準備するからちょっと待ってて。」


メイは意図をくみ取ったのかすぐに行動に移る。


「隠れる魔法と見つける魔法。同じオオカミでもこうも違うとは。」


2匹のステータスを見ながらつぶやく。隠密を使っててもサーチを使えば位置がバレる。だけど、そもそも敵がいるほうにサーチを使わなければ隠れてる敵は見つけられないか。


「おまたせ。」


メイが肉を持ってくる。それを見つけた瞬間2匹がにらみ合いをやめて肉のほうに視線がロックオンされる。しっぽが元気に動きまくって期待しているのがわかる。


「おまえら、俺たちは仲間だ。例え気にくわなくても助け合わないといけない。わかるな。」


メイが俺の後ろにきたタイミングを見計らって2匹に話しかける。


2匹は一瞬顔を見合わせるがすぐにプイッと顔をそらす。完璧にタイミングがシンクロしていて息ピッタリである。


「よし、おまえらに肉はやらん。」


拒否したようなのでそう言うと2匹はシュンと落ち込んだように下を向いてしっぽも心なしか落ち込んでるように見える。その動きが完全に一致してるのが見てて面白い。


「でも、仲良くできないんだろ?」


そう言われるとまたお互いに顔を見合わせる。そして、クゥ~ンと悲しそうに鳴いた。完全に2匹シンクロして。肉でもダメだったか。


「メイ、すまないけどそれ戻してきてくれ。」


「そこの2匹がソータの言うことが聞けないのが悪い。」


あれ、なんかメイの口調がちょっと怖い。どうやら怒っているらしい。


「ソータ。夜もその2匹はなしでかまわない。ソータに従えない子には食べる資格が無い。」


メイの様子を見て2匹がもう一度顔を見合わせる。そして、今度は前足を前に出し頭を下げたポーズになった。平伏のポーズらしい。


「ケンカしたら2日ごはん抜き。わかった?」


メイが怖いトーンのまま聞く。


『ワン』


2匹がその体勢のまま首を動かして返事する。


「ソータ、これあげる?」


いや、この状態で判断は俺にゆだねられたらしい。


「いいよ。ケンカしたらごはん抜き。ちゃんと覚えとけよ。」


ゲージの中に肉が入れられると2匹は元気にかじりつくのだった。なんでここまで息が合うんだよ。どうやら思考回路は一緒らしい。


「メイ、ありがとな。」


メイに感謝を伝えると


「当然。わたしはソータのためなら何だってやる。」


メイは胸をはった。






 夕方になるとエルフと火狐たちの遠征組が帰ってきた。


「マスター、ジャガイモを見つけましたので後で植えておきますね。」


帰ってきたエルフに報告を受ける。


「ありがとう。」


エルフに感謝を伝えると一礼された。


「それとゴブリンの集落にいったらこんなものを拾いまして。」


荷台をのぞき込むと倒したイノシシなどと一緒に人間の少女が寝かされていた。


「これどうしたの?」




エルフの話によれば、エルフたちがゴブリンの集落にたどり着いたとき、ちょうど少女が集落に連れ込まれたところだったらしい。すぐに殲滅作戦に移ったエルフは少女を引きずっていたゴブリンを狙撃。その後、どこから攻撃されているかわかっていないゴブリンを次々に狙撃し、その間に集落に近づいた火狐たちが残りも潰しきったらしい。


戦闘終了後、少女を調べたところ全身にケガをしており、このまま放っておけば間違いなく力尽きて亡くなることは明白だったので最低限の応急処置をして連れて帰ってきたとのことだった。


「エルフ、回復魔法は?」


エルフは防衛戦の戦果で{癒やしの力}という回復魔法を覚えている。


「使いました。傷は癒えているはずです。」


ベッドに寝かした少女を見ながら聞く。俺が女の子の体を細かくチェックするわけにはいかないのでその辺はエルフたちに任せる。


「じゃあ、あとは起きるの待ちか。この子、魔術師だろ。他の仲間たちはどうしたんだ?」


少女が魔術師なことはスキャンでわかっている。だが、この少女は武器も防具も装備していない。


「たぶん、この子以外は全員死んでる。」


メイの発言にエルフが頷く。


「ゴブリンは人などを襲ったとき、子供を孕めそうな女性だけを連れ去って残りは皆殺しにする習慣があります。この少女はおそらく冒険者として仲間と行動していたところを襲われて連れ去られたと思われます。」


防具とかは連れ去るときに邪魔だから剥がされたか。きっと最後の意識は死ぬほど怖い思いをしたところだろうから目が覚めたら暴れられるだろうな。というかよくよく考えたらダンジョンマスターをやっている人間なんてどう説明したらいいんだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る