第17話 人間の少女

「う~ん。」

 ふかふかのベッドの感覚を感じながら意識が覚醒していく。

「目が覚めたか。」

 突然、知らない男の人の声が聞こえてビックリする。慌てて起き上がって周りを見ると石でできた地下室のような部屋に自分と同い年くらいの少年が座っていた。

「あの~、えっと。」

 どうしてこうなっているのか寝る前の記憶を探る。

「確かゴブリンに襲われて。」

 記憶を思い出すと顔が真っ青になるのが自分でもわかった。

「何があったのか、俺にも話してくれないか。」

 外れの村の近くでゴブリンが出たという報告がありそれの討伐のクエストをパーティの仲間と受けたこと。ゴブリンがなかなか見つからず、だいぶ森の奥まで進んだところ、背後からいきなり襲われてパーティが壊滅したことを少年に話した。

「なるほど、君たちは4人パーティだったんだね。それがゴブリンの群れになすすべも無くやられたと。」

 少年は考え込むように手をアゴに当てる。

「はい。パーティのリーダーが不意打ちで最初にやられてしまって、残りの二人もわたしをかばおうとしてくれたんですけど3人で一匹倒すのが精一杯でした。」

 ようやく頭が回ってきた。わたしがここにいるということはこの少年はゴブリンたちからわたしを奪還してくれたということだ。

「あの、助けてくださってありがとうございます。」

 まずは少年にお礼を言わなければなるまい。ゴブリンたちにとらわれたままであったらわたしは今ごろ使い潰れるまでゴブリンの子供を孕まされていたであろう。しかし、お礼を言われた少年は複雑そうな顔をする。

「君を助けたのは俺じゃ無いんだ。それと君が助かったかはまだ微妙だよ。」

 そう言うと少年は部屋の入り口のほうに向かっていく。

「起きたみたいだよ。」

 少年は入り口の向こうに声をかける。そうするとエルフとドワーフの女性二人が部屋に入ってきた。

「このエルフが君を助けてここに連れてきたから君の恩人はこの子だね。それで、えーと。ごめん、まだ君の名前を聞いてなかった。」

 エルフたちにわたしを紹介しようとして名前を聞いてないのを思い出したようだ。

「わたしの名前はニーナと言います。エルフさん助けてくれてありがとうございます。」

 わたしはエルフに向かって頭を下げる。

「いえ、あなたをここに連れてきたのはついでです。せっかく助かった命が亡くなるのは惜しいですから。」

 エルフには別の目的があったらしい。

「さて、ここからは君が置かれている現状とここの話だ。」

 少年が話を仕切り直すように言う。


「まず、最初にここはダンジョンの最下層だ。そこに見えるのがダンジョンコアだね。」

 少年は当然のように部屋の奥で光っている水晶を指して言う。

「ダンジョン?ここが?」

 ベッドが置いてあるダンジョンなんて聞いたことが無いし、だとしたらこの少年はどうして武器も防具も持たずに歩いていられるのだろうか。

「それで俺がここのダンジョンマスター。君が助かったかどうかはまだ微妙だっていうのはこういうことだよ。」

 少年は当然のように自分がダンジョンマスターと言うが人間のダンジョンマスターなんて聞いたことが無い。いや、こないだ勇者に倒されたという魔王は人間でダンジョンマスターとして魔物を育てていたと聞いたがそれだけだ。

「人間のダンジョンマスターなんてこないだ倒れた魔王以外いないはずです。」

 戸惑ってるわたしと違って少年は冷静だ。

「へー、他にもいたにはいたのか。まあ、自分がダンジョンマスターですって自己紹介されて信じる人はそう多くいないのも当然。証拠を見せないとね。」

 少年は立ち上がってダンジョンコアだと紹介された水晶のほうに歩いて行く。そして、水晶を手に取った。そして、少年が触れると水晶からタッチパネルが出てくる。

「これが今のこのフロアの見取り図だね、見える?」

 少年はタッチパネルがわたしに見えるように近づいてくる。確かに少年はあの水晶を操作している。となると少年がダンジョンマスターだというのも本当のようだ。

「ここまでされると信じられませんが信じるしか無いようですね。」

 わたしが納得したのを確認すると少年は水晶を元に戻してから話を続ける。

「それでね、君をここに連れてきちゃったからには普通に帰すわけにはいかないのよ。ほら、ダンジョンの場所とかバレちゃう可能性が出てくるからね。」

 少年がごめんね、と謝ってきたが彼らがいなければわたしはもっとひどい目にあっていたので彼らには感謝しか無い。

「いえ、命が助かっただけでも感謝してますし、わたしも死んでいった仲間のことを街の人たちにどう報告すればいいのかわからないので、ここにいれるならしばらくはここにいさせてください。」

 ダンジョンの魔物に助けられてわたしだけ無事でしたなんて報告したって誰も信じないしなんならわたしが仲間を闇討ちした容疑までかかりかねない。しかし、街に戻ったら報告に行かざるを得ないので戻ることもできない。今、一番安全な場所はわたしを助けてくれたここしか無いのだ。

「うん、君がそれでいいならここで暮らせばいいよ。ちなみに上の階にいるゴーレムたちは君を見つけたら侵入者だと思うだろうからこの階からは出ないでね。」

 こうして少年にここで暮らす許可をもらいわたしの新生活が始まるのだった。

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