第18話 魔王討伐のいきさつ
「とりあえず、お湯に入ってきなよ。たぶん、まだ暖かいと思うよ。」
少年についていくと隠し部屋の奥に大きな桶があり、そこにいっぱいにお湯が張ってあった。
「気持ちいいよ。」
少年はそれだけ言うと立ち去っていった。隠し部屋で服が濡れないように脱いでからお湯の張ってあった部屋に戻る。周りを見回せば水が湧き出ているところの近くに石けんが置いてあるのを見つけた。本当は石けんで体を洗うだけで十分でお湯につかったことなんてないのだが少年が勧めてくれたので入ってみることにする。
「ふぅ~。」
確かに気持ちいい。お湯に浮きながら今まであったことを振り返る。
パーティの仲間たちはわたしに良くしてくれた。彼らと出会ったのは偶然だった。田舎から出てきたわたしが街で困っていたところを助けてくれたのがパーティのリーダーで、彼はそのときはまだわたしが冒険者を目指していることもわたしに魔術師のジョブがあることも知らなかった。
冒険者ギルドにいって魔術師のジョブを持っていることを冒険者の人たちが知り、勧誘の嵐に困っていたときに助けてくれたのも彼らだった。そんな経緯で彼らとパーティを組むことになったのだが冒険者として初心者のわたしにいろいろ教えてくれたし練習にもつきあってもらった。短い間だったが本当にいろいろ良くしてくれた人たちだった。彼らがもういないと思うと悲しい気持ちになる。結局、わたしは彼らに何も返せなかった。いっぱいいっぱい良くしてもらったのに。
お湯に浸かりながらしばらく泣いていたわたしは気持ちが落ち着いてからお湯から出た。脱衣所になっている隠し部屋には着替えとタオルが置いてあった。着替えて脱衣所から出て行くとエルフたちが待ってていてくれた。わたしが風呂に入っている間に隠し部屋が一つできており、わたしはそこで寝ることになった。少年はどうしたのか聞いたらエルフに
「疲れたから寝ると言っていたのでもう寝てると思いますよ。」
と、言われた。覗いてみますか?と冗談を言われたが丁重にお断りした。
「栽培のほうは順調そうだな。」
朝起きて、大量のジャガイモを抱えたエルフを見つけて俺は声をかけた。
「はい、とりあえずはしばらくの食料には困らなそうです。」
これでしばらくは食糧難から解放されそうだ。
「それとマスターからもらった肥料も役立てられそうです。自然栽培する分の成長がだいぶ早くなってます。」
エルフは例え自分がいなくなったとしても栽培が続けられるようにとハーベストタイムで収穫する分と自然に成長させる分を分けてくれている。自然栽培のほうが収穫できるようになるのはまだまだ先だが予定よりも早く収穫できるかもしれない。
「役に立って何よりだよ。これからも期待してるよ。」
エルフは、ありがとうございます、と言ってジャガイモを倉庫に置きに行った。代わるように倉庫からメイが出てくる。
「おはよう、メイ。採掘の様子はどうだ?」
メイが倉庫から出てきたということは採掘状況を確認していたんだと推測して話しかける。
「順調。金鉱山からある程度安定してミスリルが採れることも確認できたし、炭鉱のほうから魔石も見つかった。いろいろできることが増えそう。」
魔石とは魔力を持った石のことで魔術師の杖や動力源として使われるらしい。魔力濃度の高いところに置いておくと魔石が持つ魔力も上がるそうだ。ちなみにダンジョンにある魔光石も大量の魔力を浴びることで魔石化するらしい。うちのダンジョンの魔力程度じゃ、まだまだだが。
「じゃあ、ニーナに新しいステッキを作ることもできるのか。」
俺がなんとなく言うとメイは優しく笑った。
「ソータは優しすぎる。彼女はまだそこまで信用できない。」
きっと俺が彼女と同じ人間じゃ無ければ俺もこうは思わなかっただろう。いつか、ダンジョンに人間が攻めてきた時、俺は心を鬼にして戦えるのか。俺は未だにその覚悟が持てていない。
「大丈夫。ソータはわたしたちが守るから。」
俺の葛藤を察してかメイが励ましてくれる。
「本当にいろいろ頼りにしてるよ。」
心配そうに俺を見るメイの頭を優しく撫でてやるとメイは恥ずかしそうに、うん。と頷いた。
「とりあえず、ここ直近の課題は影狼と白狼の育成だな。俺が〔育成〕のスキルを入手したから育ちやすくはなってるだろうけど次にいつ脅威が襲ってくるかわからないから早く実戦で使えるようにしておきたい。」
俺の意見にメイが頷く。
「それは賛成。あの2匹はライバル心が強いからエルフと火狐に1匹ずつ預けて競争させると面白いと思う。」
メイの案に思わず感心してしまう。どうにかして早く育たないかなと思っていたらどうにかなりそうになってきた。
「じゃあ、その方針でやっていこう。」
火狐たちを送り出してしばらくするとニーナが起きてきた。
「おはよう。ゆっくり眠れたかな?」
まだ、あくびをかみ殺しているニーナに尋ねる。
「ここのベッドすごいふかふかでめちゃくちゃ気持ちよかったです。こんなの貴族でもないと持ってないですよ?」
どうしてこんなもの持ってるんだと聞いてくる。
「ああ、君には説明していなかったね。俺は異世界の出身でね、向こうの世界じゃこれくらい普通なんだけど、そのベッドを模倣の魔法で再現したんだ。」
実際はベッドに使われている素材の軽量化など貴族や王族が使っている物を模倣する方が魔力消費が激しく品質も良くないのだがこの二人がそんなことを知る余地も無い。
「異世界ですか。まるで勇者様のようですね。」
異世界から来た人が他にもいるのか。
「その勇者ってどんな人なんだ?」
同じ異世界人なら同じ世界の人間かも知れない。
「名前は確かレイナ様とおっしゃったはずです。王国に伝わる勇者召喚の儀にて呼び出されたと聞いています。」
全て王国が発表したことなので間違いないはずだとニーナは言う。
「王国はなんで勇者を召喚しようなんて考えたんだ?」
「魔物の攻勢が強くなってきて防衛が厳しくなってきたからと発表されてます。当時は、魔物の被害が増えているのは国の政策が失敗したからで防衛が厳しくなったのは貴族たちがお金を私腹を肥やすのために使って防衛に使わないからだと言われてましたが勇者が召喚されて魔王の存在が明るみになったらその噂も聞かなくなりました。」
政策の失敗をかき消すために勇者を召喚したというのはありそうな話だが魔王も存在したとなるとわからないな。
「魔王ってどんな存在なんだ?確かダンジョンマスターだったんだろ?」
「国教であるアセウス教の大司教が魔王だったらしいですよ。長年、国王にも助言をしていたりもしたらしいですが裏で操っていただけだったみたいですね。噂によると失敗した政策も大司教の入り知恵だったそうですよ。」
なんか責任を全てなすりつけただけに聞こえるな。
「それでそれってどれくらい前の出来事なんだ?」
もし、勇者がまだこの世界に残っているのなら元の世界に一緒に帰れる可能性もあるのだが。
「勇者が召喚されたのが一ヶ月くらい前で王国が魔王の討伐を発表したのが一週間くらい前ですね。」
めちゃくちゃ直近じゃん。というか召喚されてから一ヶ月かからずに魔王を討伐する勇者とか強すぎないか。
「それでその勇者ってどうなったんだ?」
「重傷を負ったとかで王宮でずっと眠ってるって話ですよ。」
どうやら、勇者はまだ帰ってはいないらしい。もしかしたら、魔王討伐直後にそのまま帰っていて王国がその事実を隠蔽してる可能性も無くはないがさすがによっぽどのことが無いと隠し続けるメリットがなさ過ぎる。すぐに帰りたいとは思わないが帰る手段があるのなら知っておきたいとも思うし勇者が目を覚ます頃には勇者に接触できるようになりたい。
となると、そろそろ街に出ることも考えないといけなくなってくるか。
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