第19話 調査までの猶予

「ねえ、君のパーティが帰ってこないとやっぱり捜索隊って出てくるよね?」

 ニーナが帰らなかったことでその捜索隊が出ることになるのは間違いない。そして、ニーナたちが失敗したゴブリンの討伐はどこかのパーティが引き受けることになるだろう。

「先ほどから気になってましたがニーナでいいですよ。それと捜索隊はもう少ししたら出ると思います。だいたい依頼の予定日から2日経って連絡がつかないようであれば翌日から調査隊が編成されますね。」

 予定より1日遅れるのはよくあることなのだと言う。冒険者の仕事柄、不意の事故などで予定通り帰れないことがよくあるそうだ。そういう場合に冒険者ギルド側が状況を把握するための猶予が2日なのだ。冒険者側は2日以内に連絡を取る努力をする。だから2日経って連絡が取れなければ一時資格停止し調査隊を派遣という形になるらしい。

「とはいえ調査するのも冒険者ですから依頼と準備に1日かかって実際に調査隊が派遣されるのは4日目になりますけど。」

 つまり、明日まではギルドは動かず、明後日になってから捜索部隊を編成、さらにそこから1日経ってから出発と。問題は出発してからここにたどり着くまでの時間と編成される部隊の強さだな。

「冒険者ギルドがある街からここまでの距離は誰もわかんないよなぁ。」

 俺たちダンジョン側の人たちは一番近くの村すらどこにあるのかわかっていない。逆にニーナは意識の無い状態でここまで運び込まれているのでここがどこかわからない。結果、誰も距離感がわからないのである。

「参考程度ですが、街から外れの村まで行くのに馬を走らせても2,3時間くらいかかったのでそれくらいは離れてるはずです。」

「問題はその村がどこにあるかなんだよね。エルフたちからゴブリン以外の集落を見つけたって報告はないしだいぶ離れてそうだけど。まあ、これはあとで探すとしよう。次に派遣されてくる冒険者たちの強さだな。ニーナ、どれくらいの人たちが派遣されそう?」

 聞かれてニーナが本当のことを話す保証も無かったけど他に参考になりそうな情報も得られ無さそうなので聞くことにした。

「そうですね。わたしたち冒険者には上からS,A,B,C,D,E,Fっていう7段階のランクがあります。ランク毎に受けれるクエストが違うんですけどわたしたちはまだまだ実積が足りずFランクでした。」

 ゴブリンの討伐というクエストも難易度がFに分類されるクエストだそう。

「それでFランクの冒険者が失敗したら難易度が上がってEランクの冒険者に引き継ぐことになるんです。ですので調査隊のランクもEクラスが来ることになると思います。状況によってはより高いランクの冒険者に依頼されることもあるらしいですけどゴブリンの討伐じゃあそんなに報酬も出ないでしょうし高ランクの冒険者が出てくる確率は低いでしょうね。」

 ニーナの話は俺たちが持ってない情報まで丁寧に説明していて嘘をついているとようには見えなかった。

「じゃあ、出てくるのはEランクの可能性が高いってことか。」

「監督役に高ランクの冒険者が来ることもあるかもしれないですけど部隊の構成のほとんどはEランク相当になるはずです。」

 ここで疑問に思うことは一つ。

「なあ、もしそのゴブリンの群れが集落を作っていたとしたら、その場合の難易度はどのくらいになる?」

 集落ができるような群れだと上位種に進化したゴブリンが1匹はいることになると聞いたし、上位種がいるだけで討伐の難易度が上がるのは間違いない。今の話だとその場合はFランクで収まらなくなるはずだ。

「わたしも詳しくは知らないですけどギルドの受付の人にはたぶんいないだろうけど上位種を見つけたら迷わず逃げろ。おまえたちがかなう相手じゃない。そして、情報をギルドまで持って帰れって言われました。」

 おそらく難易度とは安心して任せられるクエストレベルを示しており、実際の実力に比べれば多少の安全マージンは考えてあるはずだ。だから、一つ上のランクの敵も勝ち負け半々くらいのレベルではやり合えるはずである。それがかなわないと断言されるくらいだからDランク相当くらいはあったのだろう。

「俺たちはおととい、ニーナたちが襲われる前日の夜に上位種を含むゴブリンの群れの奇襲を受けてそれを壊滅させてる。ニーナたちがゴブリンになかなか会えなかったのは単純に数が減ってたからなんだ。」

 数が減れば行動範囲も狭くなる。村の人たちが見つけたゴブリンはだいぶ遠征していた部隊で数が減った結果そこまでいけなくなったのだろう。

「そういうことですか。ゴブリンの縄張り一つ分くらいは移動したはずだとみんな不思議そうに話してましたが群れが大きくて縄張りの範囲が広大だったんですね。」

 エルフもゴブリンの集落までは結構かかると言っていたのでここからもだいぶ離れているのだろう。

「それとゴブリンたちに歯が立たなかったのにも納得しました。上位種の眷属だったんですね。」

 どうやら、ゴブリンたちは群れに上位種が生まれると能力が少し上がるらしい。上位種が3体もいたとなればFランクの冒険者では同数でも厳しかったかもしれない。

「となると、どう転がってもわたしたちには荷が重いクエストだったんですね。それを聞いて少し気持ちが楽になりました。」

 ゴブリン程度の魔物に自分はほとんど戦力になれず、味方を死なせてしまったことに少しなりとも責任を感じていたのだろう。

「しかし、村の外れに出る魔物の群れの規模なんてわからないんだから経験の浅い初級冒険者に任せたらそれなりにやばいのにぶち当たりそうだけどな。」

 周辺を定期的に討伐できる範囲ならまだしもその外の魔物なんてどこでどれくらい力を蓄えているかわからない。ましてや、冒険者が日頃ほとんど来ないような地域なら育った魔物と当たる可能性も上がるだろう。

「それは単純にかけられるお金が無いんだと思います。地域を管理する貴族たちは魔物の討伐に必要以上のお金がかかることを嫌いますから、ギルドに支援するお金はごくわずかですしそれは国も変わりません。その一方で緊急を要する魔物の討伐クエストの報酬はギルドが出すことになります。とてもじゃないですけど田舎のゴブリンごときに大金なんてかけてたら破産してしまいます。」

 なるほど、結局初級冒険者は捨て石の偵察部隊なのだ。それで討伐できるならよし、危険度が高くなっているのならお金を出しても討伐する価値があると。

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