第26話 外れの村の攻防戦

 ステフにとってレッドタイガーの強さは想像以上だった。元々、Dランクの魔物に分類されるレッドタイガーとは厳しい戦いになることはわかっていた。それでも、思っていたよりもずっと厳しい戦いになった。

「ルーニー無事?」

 アンドレのじいさんの横からチャージを仕掛けたルーニーは返り討ちにあい盾ごと破壊された。

「なんとか大丈夫ですけど戦闘しばらく難しそうです。」

 それはそうだろう。体に受けたダメージが大きすぎる。アンドレのじいさんも攻撃を受けきるのが精一杯で押さえ込むには至っていない。レイモンドの炎魔法はレッドタイガーと相性が悪く、有効打にはならない。となると自分とアレクがダメージを与えなければいけないのだがルーニーの件もあり、慎重にならないといけないためなかなか攻撃を当てられない。そうこうしてるうちにアンドレが受けきるのにも限界が訪れる。

「ぬおー。」

 アンドレが吹っ飛ばされるのを見てやばいと思う。

「レイモンド、アンドレのじいさんをよろしく。アレク、二人で抑えるわよ。」

 少女の救援は期待できないだろう。撤退する前に目前にいたジャイアントイノシシや無限に湧いてくるギガントイノシシがこちらに向かってきてないのは村の外であの少女が魔物を引きつけてくれてるからだ。なら、自分とアレクであの怪物を抑えないと村が壊滅してしまう。それでは自分が冒険者になった意味がない。


 元々ステフはここの村と同じような田舎の村の出身だ。村では腕に自信のあったステフは自分たちのような貧しい人たちの手助けをしたいと思って王国の騎士団に入団した。しかし、王国の状況はステフが思っていたよりも酷かった。騎士団に回ってくる仕事は王族や貴族たちの会合の周辺警備ばかり。王族も貴族も平民たちの生活を改善することよりも自分たちが私腹を肥やすことに執着し、騎士団では貧しい人たちの手助けにはならないと理解するのに時間はそうかからなかった。

 しかし、騎士団に入ったのも無駄ではなかった。剣術の基礎を学ぶことができたし、同じような志を持って騎士団に入ったアレクにも出会えた。同じように不満を持っていたアレクと相談し、騎士団をやめ、冒険者となってアンドレやレイモンド、ルーニーに出会いなんとか今まではうまくやってきた。


 ここで食い止めなければこの村はなくなる。自分たちではほとんど足止めできないとわかっていてもやるしかないと自分に言い聞かせる。覚悟を決めて切り込もうと思った瞬間、何かが自分の横を通過した。それが投げナイフだとわかったのはレッドタイガーにナイフが突き刺さってるのを見つけたからだ。レッドタイガーが悲鳴をあげる。

「誰が?」

 うちのパーティに投げナイフを使えるような人はいない。投げナイフの飛んできた方角を見るとそこに森に残してきたはずの少女がいた。

「遅くなったわね。」

 息を切らしながら少女はそう言った。

「どうして?」

 あの後も森での猛攻を防いでいたらここにはたどり着けないはずである。

「村の方向から煙が見えたから。」

 こっちの方が優先順位が高いでしょ、っと当然のように少女は言う。ギガントイノシシと戦いながら村の方角の煙に気付くということはギガントイノシシを相手にしてもなお周りを気にする余裕があるということである。少女にはそれだけの実力があるということだ。

「ステフさん、ここは任せてください。わたしが引き受けます。その代わり、わたしが抜けてきちゃった分、しばらくしたらギガントイノシシたちがこちらに向かってくるかもしれないのでその足止めをお願いします。」

 また、助けられた。彼女がレッドタイガーを倒せることに疑問はなかった。ジャイアントイノシシを相手にしていたはずが無傷でここに立っている少女が自信を持って引き受けると言った。ならばきっとできるのだろう。

「ありがとう。」

 こうしてステフたちは自分より年下の少女に1日に2回救われたのだった。その後、少女の抜けた方角に移動したステフたちだったが1匹も魔物は現れなかった。少女の移動が早すぎて魔物たちも追えなかったらしい。



 翌日、この村の廃村が決まった。大量発生したギガントイノシシにその上位種であるジャイアントイノシシが存在する状況ではこの村を守るのは難しいというギルド側の判断を受けてのことだ。村人たちも覚悟はしていたらしく廃村はすんなりと決まった。ギルドにしても村人たちにしてもレッドタイガーが決め手になったようだ。本来なら大規模作戦を招集してもおかしくないところだがこの村にその価値はないと判断されたのだろう。もしかしたら、封印の森の噂の影響もあったかもしれないが。


 廃村に伴ってギルドから近くの村までのキャラバンが来ることになった。ステフたちはそれを待って一緒に街にあるギルドまで戻るつもりだったのだが一人だけ行動を別にするものがいた。

「本当に一人で調査に向かうのかい?」

 ステフは恩人である少女に聞く。

「はい、いろいろ突き止めないといけないことがありますから。」

 少女は決意の籠もった目でそう言った。これでは止めても無駄と悟ったステフは説得を諦める。

「もし、街に帰ってきたならわたしたちのところに来なさい。命の恩人なんだから飯くらいおごるわよ。」

 絶対に帰ってこいという気持ちを込めて言う。

「はい。機会があれば必ず。」

 少女はそう言って森の中に消えていった。

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