第25話 少女の実力

冒険者たちの戦いをドローンで見ていた俺たちはローブの冒険者の鮮やかな剣技に驚く。

「すごいな、ギガントイノシシが一撃か。」

画面には3体目のギガントイノシシが現れ、それをローブの冒険者が一瞬で距離を詰め一撃で屠ったところが映し出されていた。

「ニーナ。あの冒険者のランクがどれくらいかわかるか?」

人間の冒険者ランクについて一番詳しいニーナに聞いてみる。

「わからないですけどおそらくAランク以上の実力はあると思います。」

やはり、人間の中でもかなり手練れの部類に入るようだ。

「ですけど、実際のランクは実力ほど高くないかもしれません。」

冒険者のランクとは冒険者ギルドが認定したものだ。そして、認定するにはそれに足る実積が必要になる。しかし、クエストはランクに見合ったものしか受けれない。普通は経験とともにランクも上がっていくのだが傭兵や騎士など冒険者になる前に経験を積んでいる場合は本来の実力にランクが追いついていない場合も少なくないのだとか。

「そうじゃないとあの実力で田舎の調査任務の監督役はおかしいか。」

 あの実力ならこんな田舎に来なくても稼げるはずと。俺の考えを聞いてニーナが頷く。


それからもメインはパーティの冒険者たちが戦うもののパーティが厳しくなるとすぐにフォローするという立ち回りを見せている。

「パーティに経験を積ませてるのか。」

そこにどういうメリットがあるのかはわからないが自分で戦うよりもパーティの人たちが経験を積むことを優先してるように俺には見えた。

しかし、そんな戦い方も終わりを迎える。パーティに疲労の色が見えてきており、目の前には今まで戦ってきたよりも上位種のジャイアントイノシシが現れる。ローブの冒険者とパーティのリーダーが何度か言葉を交わすとパーティのメンバーが撤退を始めた。

「あれ、一緒に戦わないんですか?」

ニーナは力を合わせて倒すんだと思っていたらしく意外そうに首をかしげる。

「足手まといになるだけ。」

メイの言うことは厳しいようだが正しい。

「あのパーティの方はすでに疲労も溜まってて十分なパフォーマンスが期待できなくなってたからね。たぶん、村まで戻らせて村を守らせるんじゃないかな。」

ギガントイノシシがあれだけ続けて出てくる異常さは彼らも感じているだろう。しかも、ジャイアントイノシシまで出てきたとなるとこの情報だけでギルドも動かなければならなくなるだろう。ここは一時撤退して救援を呼んだ方がいい。

「まあ、あそこで粘り続けてもじり貧だったし、撤退の判断は悪くないと思うよ。」

行方不明者の調査のために森に入ったのに前に進めずあそこで接敵し続けたら何のために森に入ったのかわからなくなってしまう。ここはおとなしく引くという判断は正解だ。この魔物たちを村まで呼び寄せないのならばだが。

残った冒険者はジャイアントイノシシを前にしてローブを脱ぐ。ドローンで見てる俺たちにも冒険者の姿があらわになった。

「わたしと同い年くらいの少女じゃないですか。」

実力者が少女だったことにニーナが驚く。

「意外。あの歳であれだけの能力があるなら英雄クラス。」

メイもそう言うということはやはり才能がそれだけあるということなんだろう。


 少女はローブを脱ぎ捨てるとそのままジャイアントイノシシとの距離を詰める。ジャイアントイノシシ側も少女に向かって突進する。

少女はジャイアントイノシシとの距離があと少しとなったところで加速した。おそらく魔法なのだろう。ジャイアントイノシシを躱し側面に回り込んだ少女は隙を見逃さず一閃。ジャイアントイノシシは悲鳴をあげる。

「うまいな。あのタイミングで急加速されたら視界から消えるぞ。」

一撃では倒せなかったものの大きな隙を作ったことには違いない。少女はそこからラッシュで攻撃を叩き込みジャイアントイノシシを沈めて見せた。

「強かったな。」

俺の感想に二人が頷く。ジャイアントイノシシを倒してもなお姿を見せるギガントイノシシたちに少女は眉間にしわを寄せる。俺はそんな少女から離れるようにドローンを上昇させる。おそらくこの少女はもうしばらく何の問題もなく戦い続けるだろう。

「さっきのパーティはと。」

撤退したパーティのメンバーはどうやら無事に村までたどり着けそうだ。しかし、村の向こうにさらなる危険が迫っているのをドローンのカメラがとらえる。レッドタイガーだ。

「あれはまずくないか?」

ついに村の近くまでやってきてしまったらしい。村にたどり着くのは冒険者パーティの方が速いがほぼ休憩無しの戦いになるため倒すのは難しいだろう。

倒せるとしたら少女の方だが少女は現在進行形でギガントイノシシを複数体相手にしている。そして、戦闘音を聞きつけてさらにギガントイノシシが集結してるのがドローンからは見えた。

「あの少女が帰らない限りあの村は終わり。」

メイが冷静に分析する。村では冒険者パーティが血相を変えて戻ってきたので村人たちが何事かと集まっている。そして、そのうちの一人が村唯一の馬に乗ってギルドのある街の方角へ駆けていった。

 それからまもなく村の外れで火の気が上がる。レッドタイガーが村に到達したのだ。少女はまだ森で戦っている。

「これじゃあ間に合わない。」

メイがつぶやき、ニーナは拳を握りしめる。冒険者パーティがレッドタイガーを食い止めようとするがあのじいさんでさえレッドタイガーには押し込まれている。しばらくしてついにじいさんが受け止めきれなくなり、吹き飛ばされた。しばらくはあのじいさんも動けないだろう。そして、あの攻撃を受けきれるものはあそこにはもういない。これで万事休す。そう思ったとき、どこからか飛んできたナイフがレッドタイガーの首元に刺さった。

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