第21話 森の伝承
翌日、エルフと火狐には集落の隠蔽工作に向かってもらったがそうなると問題が一つ。オオカミたちの面倒を誰が見るのかである。メイには武器を作ってもらったりしているので忙しいしニーナは外に出すわけにもいかないので料理などの家事をやってもらっている。余談だが調味料をいろいろ模倣で生成して置いておいたらニーナは感激して何かに目覚めたのかように料理の研究に取り組んでいる。
消去法で俺がオオカミたちを見ることになったのでせっかくだから俺の新魔法{念話}を試してみることにする。念話は距離の離れた相手にもテレパシーのように話しかけられる能力で受取手が拒否しない限り、どんな距離が離れていても連絡できるらしい。その代わり、距離が離れるほど魔力消費が激しくなる。この念話の魔法とドローンを使ってダンジョンの入り口からいろいろ指示を出そうと思ったんだけど。
こいつら全く違う方向に行きたがるせいで監視が追いつきやしない。
「おい影狼、護衛につけたゴーレムが追いついてないからちょっと待て。」
「白狼は離れすぎだ。狩猟エリアは事前に伝えたはずだろ。」
基本的に2匹とも自由に動くので制御するのが大変すぎる。そして、すごいペースで念話を使ってるので魔力もゴリゴリ削られる。これ一人で2匹見るの無理じゃね。
「2匹ともちょっと休憩。少し休ませてくれ。」
1時間ほどでギブアップし休憩することになった。
会議室まで戻るとメイが出迎えてくれた。
「大丈夫?」
疲れた表情をしてる俺を見てメイが心配してくれるがこの2匹を育てるためにはここで踏ん張らないといけない。
「ちょっと休めばまだなんとかなる。」
マジックポーションを飲みながらこれからの方針を考える。
「こいつらにはこのエリアじゃ狭いみたいだな。」
事前に決めた行動エリアをこれ以上は大変だろと思う最大エリアに設定したが2匹とも機動力を活かして戦うタイプなのでエリアをところ狭しと動き回ることになる。結果的に彼らが思っているよりも早くエリアの隅にたどり着くらしく、気がつかずに超えてしまうことも多い。
そして、これが最大の問題のなのだがオオカミたちが倒した獲物をゴーレムたちに回収させるのも俺の役目であり、その指示を出している間に2匹は次の獲物に向かってしまう。何よりゴーレムじゃあ動きが遅すぎてオオカミたちの移動について来れないのだ。さすがにオオカミたちをまだギガントイノシシにぶつけるわけにもいかない(エルフたちは普通に狩ってくるが)のでオオカミたちの周辺にいないことを確認しようとするととてもじゃないがやることに頭が追いつかなくなってくる。
「ひとまずお昼までは休憩。」
メイの一言によって午前中の活動が終了してしまいオオカミたちは悲しそうだったが俺もしばらく復活できないのでしょうがないと思う。
「あの~。そもそも、オオカミさんたちを倒せる魔物ってこの森にどれくらいいるんですか?」
俺がどうしようか悩んでいるとニーナがおそるおそるといった感じで聞いてくる。
「まあ、ギガントイノシシとかが出たらさすがに厳しそうだけど他はだいたいなんとかなりそうなんだよね。不測の事態が起きたら嫌だからこういう形になってるけど。」
基本的には予防的措置だ。
「恐縮ですけどソータさんたちが制限したエリアの内側ならそんなずっと指示を出して無くても万が一は起こりづらいと思いますけど。」
確かにニーナの言うことも一理あるが今は何かあった時に助けにいける人がいない。もし俺が遠距離の攻撃手段を持っていればもうちょいなんとかなったんだが。
そこまで考えてちょっと待てと考え直す。
「そういえばドローン爆弾とかいう攻撃手段があったな。」
監視用に飛ばしてるドローンに爆弾を取り付ければ非常時の攻撃手段として活用できる。ちょっと考えてみるか。
メイと相談した結果、十分役割を果たせるということで一致したため危なくなったらドローン爆弾で対処するという方針でエリアの再設定を行う。
エリアを広く取る代わりに狩りに成功したらゴーレムが回収に来るまで次に行かないなどルールも追加された。その結果、午前中より俺が念話を使用する頻度が減ったのもあり、火狐たちが帰ってくるまで狩りを続けることができた。ちなみにドローン爆弾は結局一度も使わなかった。
「オオカミたちもだいぶ戦い方が安定してきたか。」
朝のほうはまだ何も考えずに突撃していたオオカミたちが夕方になる頃には茂みから様子を見てタイミングを見て襲いかかるという戦い方を身につけていて感心した。どうやら、そっちの方が早く終わることに気がついたようだ。
「ええ、パラライズファングやアイスクローも強力ですし、戦力として数えられるようにはなったと思います。」
夕食を食べ終えたエルフが2匹を高く評価する。ちなみに{パラライズファング}は影狼がジョブレベル2で{アイスクロー}は白狼がジョブレベル2でそれぞれ入手した攻撃技である。
「じゃあ、もう一人前のアタッカーとして考えていいってことか。それなら今まで足を伸ばしてなかった方向を探索するのもありか。」
俺はそうつぶやきながらドローンの映像が保存されているタブレットを操作し、今まで探索してきた西側とは反対、東側にゴブリンの集落と同じくらいの距離にある奇妙な屋敷を眺めた。
「『封印の森』の伝承の館ですか。実在したんですね。」
ニーナがつぶやく。
「封印の森ってこの森のことか?」
この森の名称を初めて知った。
「はい。大昔の大戦で魔王軍として戦ったヴァンパイアが眠る館だそうです。かつて、倒す手段が無かった不老不死のヴァンパイアを追い詰めてヴァンパイアが住処にしていた森の館に封印したという伝承です。ただ、この伝承には続きがありまして封印される直前にヴァンパイアは厄災をまき散らす魔法を発動したと言われています。わたしを封印することができてもここはわたしの土地だ。他のものがこの土地に足を踏み入れるようならそのものに災いが訪れるだろうと。」
よくありそうな昔話ではあるけど、大きく成長していたゴブリンの群れや上空から確認したら多く見つかったギガントイノシシと人間を拒んでいるようにも見える。俺がここに召喚されたことも呪いと関係がある可能性もある。
「迷信だと思っていたんですけど館が実在するなら本当だったのかもしれません。」
どうやらおとぎ話で伝えられることはあっても本気で信じてる人はいなかったらしい。近頃ではこの森を新たに開拓しようという流れもあったという。その過程でゴブリンが発見されニーナたちが討伐に向かったのだとか。しかし、そうなると森の探索は調査隊をやりすごしたことが確認できた後にした方が良さそうだな。
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