第22話 森の異変

 異世界生活13日目。ここ数日の日課にもなったドローンを回しての周辺の索敵をしていると異変に気付く。

「昨日よりギガントイノシシの数が増えてないか?」

すぐに会議室に戻ってメイと確認する。

「確かにこれはおかしい。周辺のギガントイノシシの数が明らかに増えてる。この辺に集まってきてるのか数が増えてるのか検証が必要。」

メイもギガントイノシシの異常な個体の増加を認め、緊急に調査することになった。

「火狐たちにも伝えといた方がいいな。」

火狐たちは今日も午前中から狩りに出かけてしまったので、今ここには俺とメイとニーナしかいない。

「わたしにも手伝えることはありますか?」

俺とメイの緊迫した様子を見てニーナが協力を申し出る。

「メイと集めた情報をまとめるのを手伝ってくれ。」

外で撮った映像を会議室に送り、ここで情報を整理する。その整理を手伝ってもらうことにした。

「ギガントイノシシが増えてるなら門番にアイアンゴーレムを出した方がいいか。」

そして、守備の布陣にも修正を加える。ギガントイノシシを相手にする場合、ストーンゴーレムでは対処しきれない可能性があるためあらかじめアイアンゴーレムを表に出しておくことにした。

「他のアイアンゴーレムたちもダンジョンの入口側に寄せておく。」

メイが他のゴーレムも出陣できる体制を整えてくれるようだ。

「じゃあ、情報を拾ってくる。」


より遠くまでドローンを操作するためにダンジョンから出て、入り口の辺りでドローンをいじる。メイとは念話を使わずにトランシーバーで会話する。念話はこちらからしかコンタクトを取りにいけないのでメイから緊急の報告があるときはトランシーバーのほうが有用だ。

「ソータ。ゴブリンの集落があった辺りでもギガントイノシシが増えてる。ということは全体的に数が増えてる可能性が高い。」

俺が撮った映像からギガントイノシシの情報を的確に抜き取ったメイが報告してくる。

「この異変に外れの村の人たちが気がついてなかったら村が滅びるんじゃないか?」

俺はそうつぶやきながら村のほうまでドローンを回す。

「ソータ、おかしい。村に近づくほどギガントイノシシの数が増えてたのに村のすぐ近くになって急にいなくなった。」

映像を確認すると確かに何かを境にするかのように村から一定距離以内にはギガントイノシシが一頭もいない。

「まるで森に入ってくるのを待ち構えてるかのようだな。」

これでは森に入らない限りは被害は出ないだろうが森に入った瞬間並のパーティでは壊滅する。ゴブリンのように集団で行動することはないものの戦闘音を聞きつけて集まってくるので周辺に他の個体がいなくなるまで連戦をすることになり、一頭なら倒せる実力があっても疲労で十分なパフォーマンスを発揮できなくなった瞬間やられかねない。そして、この森を明日には調査隊のパーティが立ち入るのはほぼ確実。そうなったらパーティは壊滅し、数日後にその調査をしにきたパーティも同じ運命をたどる負の連鎖が起きかねない。

「マスター、ただいま帰還しました。火狐たちはこの周辺のギガントイノシシたちを討伐しています。」

エルフが先に帰還し、状況を説明する。一度ダンジョンの奥に引っ込んだエルフはトランシーバーを持って再び森に向かった。火狐が中心となってこのダンジョンの周辺の安全は確保しようとしてくれているようだ。事実として、このダンジョンの周りのギガントイノシシの数は他のエリアに比べて少ない。その理由は間違いなく火狐たちが数を減らしてくれているからだろう。逆に言えば俺たちのようにイノシシを狩る存在がいないところは数が増加する一方になる。そして、数が増えれば縄張りを持つギガントイノシシは暮らすスペースが足りなくなり他のエリアへと追いやられる個体が出てくる。そうなるとこのエリアに押し寄せてくるのも時間の問題だろう。俺たちが自分たちの行動域を守るためにはどうしてもその外で追い払わないといけない。火狐たちがやっているのはそういう戦いだ。


「ソータ、映像の右下の辺りを拡大して。」

それからしばらく火狐たちの様子も見ながら情報を集めるためにドローンを回しているとメイが焦ったように連絡してきた。メイの指示に従いタブレットを操作する。

「ジャイアントイノシシ。ギガントイノシシの上位種。」

ついに上位種まで発見してしまった。ジャイアントイノシシは身長4メートルの巨体を持つイノシシだ。発見した場所はニーナのパーティが壊滅したところのすぐ近くか。うちのダンジョンには影響は少ないだろうけど他にも上位種が増えればその限りでも無くなる。

「おいおい、あんなのに襲撃されたらうちのダンジョンだって無傷じゃすまないぞ。」

せっかく戦力がゴブリン襲撃の前くらいまで戻ったのに。

「ソータ。他にもいないかもう一度探そう。」

結局、ジャイアントイノシシがそれ以上見つかることは無かったがその代わりレッドタイガーという炎を使う魔物が数匹見つかった。レッドタイガーはギガントイノシシよりも危険度が高く、初級者は見つけたら逃げろといわれる魔物だとニーナが説明してくれた。

「厄介なのがいっぱいいるな。」

それでも、森の異変を何か起こる前に察知できたのはデカい。調査の結果からこの森には現在ギガントイノシシが60頭、ジャイアントイノシシが1頭、レッドタイガーが3頭いることが確認できた。

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