第5話 名付け
翌日、俺が起きたときにはすでに工房が完成していた。日の出とともに作業を開始したようだ。というか起きたら火狐もドワーフもダンジョンにいなくて驚いて外に出たらニワトリ狩って帰ってきたところだった。心臓に悪いからやめて欲しい。ちなみにゴーレムがごく少量の鉄を発見したらしいが剣を作るには足りないらしい。
異世界三日目は二日目と変わらずドワーフと火狐が獲物を狩り俺が薪や木の実などを探す。変わったところはドワーフがゴーレムを製造できるようになったので俺が召喚しなくて良くなり、さらに護衛がついたこととドワーフのおかげで石の斧が持てるようになったことか。ドワーフ最強すぎる。
今日の成果の確認に入った。
「今日の成果はストーンゴーレムとクレイゴーレムが一体ずつ増えて、狩った獲物が鹿一匹にイノシシ二匹、ウサギも二匹、ニワトリが朝の含めて二匹で持ち帰ってはないけど小鳥を四匹ほど倒したと。」
ドワーフがうなずく。ちなみに小鳥たちは果物を持って行かれたので腹いせに眠らされて倒されたらしい。
「結構、頑張ったね。こっちが木を二本切り倒してる間に良くそんな倒したね。」
倒した数だけで言っても11匹。狩猟二日目で二桁を狩れるようになったらしい。しかも、昨日より、夕食の時間が少し早い。ずいぶんと狩りの速度も上がったようだ。火狐の催眠術はかなり強力なようだ。先に食べ終えて丸くなった火狐を撫でてやる。
「昼間も少し鉄が取れたみたいしこれで短剣くらいは作れると思う。」
早めに切り上げたのはドワーフが鍛冶をするためだ。
「よろしく頼む。あと、ダンジョンマスターの能力で魔光石が設置できるようになったみたいだから一つは工房に置こうと思う。あそこは昼間でも暗いからね。」
魔物が5体になったことで実積が解除され、魔光石という光源が置けるようになった。これで明かりを火に頼らなくても良くなった。火以外の今までの光源はダンジョンコアの水晶が光っているだけだったのでだいぶ大きい。
「助かる。今までは隠し部屋の意味が無かったから。」
隠し部屋を隠すと中が真っ暗になってしまうというデメリットがあったせいで扉が開け放された状態になっていた。炉に火を灯せば明るくはなるだろうが炉の光だけは危なすぎる。
「設置する場所はどこがいい?」
ドワーフと工房の魔光石の設置場所を確認する。
「この辺にお願い。」
言われた位置にダンジョンコアを操作して魔光石を設置する。
「ん、いい感じ。」
ドワーフからOKが出たので作業を終了する。
「それじゃ、これから剣を作製する。初めてだけど頑張る。」
少し緊張しているドワーフを
「おまえなら大丈夫だ。」
頭をポンポンと叩きながら励ます。
「ありがとう。」
そう言ってドワーフは隠し部屋の中に消えた。
ドワーフを見送った俺は今後のことを考える。解決しないといけない最大の問題は飲食なことに変わりは無い。いつか、ここに人が来るようになったら外に狩りにはいけなくなる。そうすると飲み物も食べ物もダンジョン内で調達しないといけない。しかも、これから飲食する魔物が増えれば全員分をだ。つまり、そのシステムを整えなければいけない。ダンジョン内で水がわき出るエリアができないかなと考えながら、『上宮創太の書』を開く。
『<魔導書庫>
Lv3:〔ツインキャスト〕〔スクロールストック30〕
〔ツインキャスト〕:同時に二つの魔法が発動できるようになるスキル
<ライブラリアン>
Lv3:{模倣}〔魔法耐性小〕
{模倣コピー}:自分のイメージにある物を複製する魔法、複製する物の質量と保有魔力によって消費魔力が変わる。
<魔導書作家>
Lv3:〔魔術契約書作成〕{幻影}
{幻影}:対象の幻影を生み出す
<ダンジョンマスター>
Lv3:<テリトリー>
<テリトリー>
領域を支配するための能力
Lv1:{陣地作成テリトリー}
{陣地作成テリトリー}:自分たちに有利な陣地を作成する魔法。複数の陣地が発動された場合、あとに発動した陣地に上書きされる。〔テリトリー〕:陣地内にいる味方の能力上昇、敵の能力減少
実積解除:魔物のジョブスキルレベル合計5アップ(報酬:階層追加、部屋上限+2』
模倣って異世界の物もコピーできるってことだよな。しかも魔力なんてないからその分のコスト無しに。世界が壊れそうな魔法なことはわかった。
俺の能力が上がってるってことはドワーフと火狐のレベルも上がってるってことだ。『魔物図鑑』を開く。
『ドワーフ
<小人の職人>
Lv3:{鉱物探知}〔学習〕
{鉱物探知}:対象内に埋まっている鉱物がわかる魔法
<鍛冶師>
Lv3:{解析〔アナライズ〕}
{解析〔アナライズ〕}:道具の仕組みを解析し理解する魔法
火狐
<火狐>
Lv3:{スキャン}』
ドワーフが強すぎる。鉱物探知は欲しかった待望の魔法だけどそれ以上に解析がやばい。異世界の道具の使い方がわかるようになるってことだよな。
「おまえはスキャンを覚えたのか。しっかり、相手を分析して戦うんだぞ。」
横で寝っ転がっている火狐を撫でながら言ってみる。この子は指示にはちゃんと従ってくれるので言葉はわかるらしい。
さて、これからどうするか。俺の模倣とドワーフの解析のおかげで可能性が無限に広がった気がする。俺たちの世界のものが持ち込めるならダンジョン内に発電施設や生産工場を作るのはアリだ。ドワーフなら異世界の技術でもうまく使うだろう。もしかしたら新たな技術を生み出すかも知れない。なら、はじめにやることは決まりか。
「おまたせ、完成した。」
ドワーフができた短剣を見せてくれる。
「ちょっと試していいか?」
ドワーフが頷いたので俺は薪に向かって切りつけてみた。刃物ってこんなに切れたっけってくらい良く切れる。
「すごいな、こんな切れ味がいい刃物は初めて見た。」
俺が褒めるとドワーフは照れたように顔を背ける。
「普通だよ。これからもっとすごい物を作っていくんだから。」
ドワーフはもっと頑張るつもりらしい。なら、俺はそれを手助けしないとな。
「ドワーフ。君のおかげこのダンジョンは最初の不安定な時期を乗り越えられそうだ。」
「そう言ってくれるとうれしいけど戦闘は火狐がメインだし、わたしはサポートしてるだけ。」
確かに火狐のおかげ狩りがうまくいってるのは事実だろう。
「ドワーフが素材を加工したり、ゴーレムを製造してくれたことで守りが固まったのは紛れもない事実だ。最初に召喚したのが君じゃなかったら、こんなに早く落ち着けるような状況にはなってなかったよ。」
俺は本心から賛辞を送る。
「褒めたってこれ以上何も出せない。」
「この剣だけで今は十分だよ。ただ、このダンジョン発展のためには間違いなく君の力が鍵になる。これからも力を貸して欲しい。」
俺が真剣にそう言うとドワーフも真剣な表情になる。
「それは当然。わたしはマスターのために生まれた存在。マスターのためならわたしの全てをかけて力を尽くす。」
ドワーフは俺に全てをかけると言ってくれた。
「ありがとう。そこまで言ってくれるなら俺も誠意を見せないといけない。それだけの覚悟を見せてくれた君をこのまま種族名で呼ぶのは失礼だ。」
「それはわたしに名前をつけてくれるってこと?でも、それはあなたにとって危険なことなんじゃ。」
自分の魔力を使う場合、限界以上に魔力を使わないように体がリミットをかける。しかし、周りが魔力を持っていく場合は別だ。リミットが効かないので限界以上に引き出してしまう。その結果、自分の魂を削られてしまうというのが名付けのように他者とパスをつなげるデメリットだ。それは他者に命を預ける行為に等しい。だから、名付けはよっぽど信頼がおける者にしか行われない。
「ああ、リスクは承知してるけど君ならそうなる心配はないと思ってるよ。それに君にはそれだけの価値があると思ったから決めたんだ。」
「そこまで評価してもらえるならこれ以上わたしからは何も言えない。」
ドワーフから見たら彼は自分の生みの親であり、自分が尽くすべき主人だ。しかし、マスターからしてみればドワーフは数日一緒に過ごしたにすぎないとドワーフは思っている。こんなに信用してもらえてるなんて思っていなかったのだ。
俺は名付けの準備に入る。
「ドワーフ、君の名前は『メイ』。俺のダンジョンの中心を担うものだ。」
「わたしの名前はメイ。ありがとう、マスター。」
ドワーフに名前を伝えるとドワーフ、メイの体が光輝く。それと同時に俺からも力が抜けていく。そして、メイの名前を与えられた瞬間のうれしそうな表情を脳に刻みながら俺は意識を手放した。
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