第13話 ゴブリン最終決戦

「通路から見える位置で止まったら死にますよ。」


「数的有利を作ってください。」


 ゴブリンリーダーはとにかく指示を出す。それが自分に与えられた役割だからだ。


 まずは崩しやすいクレイゴーレムから倒していった。こちらも数が多いのでアイアンゴーレムの攻撃を躱すスペースがなくてやられた味方は何匹かいたがまだまだ戦える戦力はいる。


 2体のアイアンゴーレムにメイジ、ウォリアーをそれぞれぶつけ、さらに4体ずつゴブリンをサポートにつけた。これで少しずつアイアンゴーレムを削れるだろう。


 そして、ストーンゴーレムには5体ずつ戦力をぶつけて殲滅する。ストーンゴーレムを早く倒して最後に圧倒的な数の暴力でアイアンゴーレムを倒すのがゴブリンリーダーの作戦だ。


 最初はクレイゴーレム1体に有利を仕掛けるところからだったがこれでリードが目に見えて大きくなった。これでこの部屋の制圧までは時間の問題だろうとゴブリンリーダーは考えていた。


『ドシドシドシ』


 ダンジョンの奥から複数の足音が近づいてくる。どうやら、このダンジョンの主は自分たちをここで潰しきるつもりらしい。


 数ヶ月前にこの辺りを探索した時にはここにダンジョンなんて無かったはずなのでここのダンジョンマスターはかなり急速に魔物を揃えたと思う。外にいるはずの魔法使いとこのゴーレムたちだけでかなりの戦力だ。ダンジョンの奥からの得体の知れない遠距離砲も含めてもうほとんど戦力は残ってないだろう。


「これが最終決戦ですか。」


 総力戦だとゴブリンは結論づける。


「しかし、複数の増援はまずいですね。」


 有利が覆るのを嫌ってゴブリンリーダーは片方のストーンゴーレムの戦いに参戦するここさえ倒しきれば5匹分の手が空くためある程度のゴーレムには対応できると踏んだのだ。


 狙い通りストーンゴーレムを1体倒しきると同時にストーンゴーレムの軍勢が押し寄せてくる。


 先頭のストーンゴーレムが迷わずこちらに向かってくる。


「盾持ちですか。」


 5体のストーンゴーレムのうち、こちらに向かってくるゴーレムを含む3体は盾持ち。その盾持ちが自分に向かってチャージしてくる。


「厄介ですね。」


 体当たりというのは単純だが勢いがある分、確実にダメージを与えられる。しかも、ゴーレムの重さともなればいくら上位種とはいえゴブリンが受けたら大ダメージは免れない。それが盾を持っているとなれば勢いを止めるのは難しい。


 周りを見れば盾を持ってない2体はウォリアーに向かって突撃している。いくらウォリアーでも2体を同時に捌くのは至難の業だ。


「狙いはメイジですか。」


 そして、残りの盾持ち2体がメイジに向かっていくのを予想するのは簡単だが自分の身に危険が迫っている以上フォローにいくどころでは無い。しかも、盾持ちならメイジの魔法は盾で受けれるので相性は最悪。単純だがうまい作戦だ。とはいえ、先ほどストーンゴーレムを1体潰したので5匹ゴブリンが今フリーになっている。


「おまえたちはあの盾持ちを止めなさい。おまえたちはこっちです。」


 3匹に盾持ちを止めさせ、残りの2匹とともにメイジの救援に向かう。


 それを察知したゴーレムは1体が向きを変えてこちらに突っ込んでくる。さすがにゴブリン2匹では止まらないがゴーレム1体を引き離すことには成功した。


「耐えてくれよ、メイジ。」


 ゴブリンリーダーが祈ったときメイジに突っ込むゴーレムの裏に張り付いてる魔物が目に入る。


「火狐だと。」


 メイジはまだ気がついていない。というよりは盾でうまく隠しているのだろう。火狐もゴーレムを死角にしてうまく姿を隠している。


「これが向こうの切り札か。」


 今から呼びかけても間に合わない。ふと、奇襲に失敗したときのメイジがやられた爆発を思い出す。あのとき、目を引きつけるような炎が揺れていた。それは裏からの攻撃を隠すための物だった。存在はあのとき知っていたはずだった。だけど、その後の爆発で記憶の彼方に吹っ飛んでしまった。そして、今回はその記憶の抜けが大きな一手を許すことになった。


 メイジはゴーレムの突進を躱そうと横に動く。それと同時に火狐がゴーレムの肩に飛び乗る。突然現れた火狐にメイジは驚いて視線を向ける。そして、火狐の目が光ってメイジの体が途切れた人形のように倒れた。


「催眠術か。」


 ゴブリンリーダーは記憶の中からその知識を引っ張り出す。ただでさえ珍しい火狐のさらに一部の個体が持つとされる珍しい魔法。発動のタイミングで目があった相手を眠らせるという恐ろしい魔法だ。催眠術が使える火狐が相手にいるとわかっただけで戦略が変わってくる。今、最大の恐怖はあいつだ。


「総員、火狐を潰せ。」


 幸いストーンゴーレムを5匹で相手していた部隊がちょうどストーンゴーレムを倒しきり、手が空いている。ゴブリンメイジがいなくなったこととゴブリンウォリアーがストーンゴーレム2体の相手をしないといけなくなったことでアイアンゴーレム2体の相手がだいぶ厳しくなっているがそのフォローよりも火狐を早めに処理しないと眠らされてどんどん劣勢になっていく。


「みんな、火狐を潰すまで耐えてくれ。」


 ゴブリンリーダーは難しい指示なのはわかっているがこれしか勝ち目は無い。


 ゴブリンリーダーと5匹のゴブリンにロックオンされた火狐は狐火を発動する。一瞬視線を誘導する幻惑魔法を放ち少し視線が動いた間に盾持ちのゴーレムの裏に隠れる。そして、5匹のゴブリンの方向にもう一度狐火を発動する。


 一瞬、炎を目で追ったゴブリンが火狐のほうに視界を戻した瞬間に眠らされる。これで5対2。


 最初の狐火でアイアンゴーレムを相手にしていた一部が目線を一瞬奪われアイアンゴーレムに隙を突かれ戦線崩壊。そこから崩れるのは早かった。火狐がうまく注目を引きながら眠らせるため立て直す暇なく数が削られていく。そして、数が足りてないところはゴーレムに押し切られ、あっという間に戦力は上位種2匹になってしまった。


「あそこからストーンゴーレム2体を持っていったのはさすがですがもうこれ以上は厳しいですよね。」


 隣のウォリアーに話しかける。


「厳しくてもやるしかねえ。」


 周囲をゴーレムに囲まれながらウォリアーは吠える。


「違いありませんねえ。」


 そして、上位種2匹による最後の特攻が始まる。

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