第29話 僕とパンツと探偵の過去
「処女、付き合ったことも一度もないわよ。」
少しぐらい声を小さくしてもらいたいものであった。恥じらいをもってほしかったよ。クラスのやつらがちらちら見てきているじゃないか。
「なんでそういうこと言っちゃうかな…」
あの名探偵もクラスの注目を浴びていることが分かったのだろう。顔をさらに赤くさせながら言った。
「だって、あなたが私に、それもクラスのみんながいるところで言わせたのじゃないの。あなたが言えっていうなら、言うしかないじゃないの…」
クラスの目線が一気に僕の方に向かった。うまい風にやられてしまった。ここまで計算ずくなのか。立花さんならやりかねないが、そこまでプライドを捨ててまで、僕を罵倒し、辱めたいというのか。
とにかく、話を元に戻そうと、僕は言った。
「そんな僕と同じような状態の人に、わざわざ恋のアドバイスを求めるほど、僕は餓えてないのさ。」
そこですかさず立花さんは、
「まぁ、私は何十回も告白されたことはあるのだけれど。」
と言い返してきた。僕はその十何人かに切に言いたかった。こいつは見た目はいいけど、性格は相当悪いですよ、と。
「でも、もちろん私はあなたと違って、決してネットの受け売りをさも自分で経験した知識であるかのように堂々と話したり、他人に押し付けたりなんてしないわ。私の経験に基づいて、アドバイスしてあげるわ。」
なんてことを言ってくれるんだ、こいつは。これではいままで語ってきたことが全部僕がネットで拾い集めてきた浅い知識をただ話しているように思われてしまうではないか。ここまで読んでくれた読者さんたちも勘違いして、がっかりしてしまうではないか。なんて暴言を吐くんだ。言っていいことと悪いことがあるだろ!
「まぁ、つまり、頭がないあなたにもわかりやすくいってしまうと、乙女が恋に落ちるときの話をしてあげようってことよ。」
もうここまでくれば、僕のことを頭がないといったことも、自分を乙女といったことも、ツッコまないでおこう。ここでツッコむべきことは、
「探偵しか興味がなくて、そんな性格の立花さんが恋に落ちたことがあるのか!?」
ここであった。
「失礼ね。もちろんあるわよ。」
これは気になって仕方ない。読者だって気になって仕方ないはずだ。僕は、自分の恥を忍んで、僕のため、読者の為に、
「恋のアドバイス、教えてください。立花様。」
そうお願いした。
「ちょうど小学校五年生ぐらいのことだったわ。私はそのことから容姿端麗、頭脳明晰だったのだけれど、まだまだ子供だったから、大人というものにあこがれていたわ。まぁ、大人といっても私の場合は、大人というと、常に父のことが思い浮かんだわ。お父さんは警察官をしていて、その中では結構お偉いさんで、多くの難事件を解決しているの。それで私は、その父にあこがれて、探偵ごっこをして遊ぶのが、日課になっていたわ。
さっきいったように、子どもといえど、今みたいに優秀だった私は、探偵ごっこといっても、それなりにいろいろな秘密を暴き出して言ったわ。もちろん、なんかの事件を解決したりといったことはなかったけれど、友達の隠し事とか、誰がどの人が好きだとか。なんでこのことが、恋愛に関係しているか?ですって。すこしは黙って話の流れが分かるまで聞けないのかしら。全く、飼い主はこのばか犬に『待て』を教えなかったのかしら。仕方ないわね。ほら、ポチ。待て、よ。話が終わるまで話を邪魔しないようにしなさい。私、話の途中でツッコまれるのが大嫌いって前話したわよね?
けれど、学校中に噂が広まってしまい、私は、なんでも質問を解決する名探偵として知れ渡ってしまったの。もちろん、最初の頃はよかったのよ。誰が誰を好きなのか、とか、だれだれの友達は誰なのか、とか、先生は何歳なのかとか、そういった笑える相談ばかりだったのよ。
けれど、その噂が本物だと皆が分かるころには、さっきみたいな質問は減って、誰が誰を嫌い、とか、誰が陰口を言ったか調べて、とか、そういったものを尋ねてくるものばっかりになったわ。
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