僕とパンツと決着

第46話 僕とパンツと遅い探偵の登場

「あら、よく私がいるとわかったわね。春樹君。」

 そんな言葉と共に、どこからともなく、立花さんは長い黒髪をなびかせながら、さっそうと現れたのだった。

 とはいっても、その実は、ただ隠れていたのがばれて、のこのこと現れてきただけなのだが。それもそんな状況のくせに、次に言った言葉は、

「けど、タイミングがだめだめね。呼ぶのが遅すぎるわ。」

 なんて、春樹をダメだしするのであった。探偵なのに、事件の真相解説はしないで、それを隠れて盗み聞きしていたのだから、もう探偵失格だとこっちがダメだししたいぐらいなのに。

 さらに、その流れに乗っかって、春樹まで、

「すいません、立花名探偵様」

 なんて言い出すのだから、もう目が当てられなかった。だが、そのあとは攻勢逆転した。春樹は

「流石でしたよ。まさかあんな大喧嘩をしたにもかかわらず、捜査は続いていたなんて、もし普通の感じで契約解除されたのなら、僕もその可能性があるかなと一週間ぐらいは様子見する予定でしたが。まさに迫真の演技でした。いや、もしかしたら、演技ではないのかもしれませんが。」

 そう言ってほほ笑むのだった。

 逆にさっきまで好調だった立花さんは、何が言いたいのよ。なんて言って春樹を睨み付けるのだった。

「いえいえ、もう僕から話すことはありませんし、もちろん、あなたにきくこともありませんよ。僕は僕なりに、あなたのことを調べさせてもらったのですが、あなたは、人の隠し事を握って、それをばらすと脅したり、またばらすのを趣味にするようじゃないってことぐらいは僕でもつかめました。あなたの探偵の目的は…いや、それこそ、僕が言うべきことじゃないはずだ。」

 そんな風に春樹は言ったあと、屋上の扉の方に向かっていき、そして最後に、

「脇役はここなへんで黙って退出するのが、筋ってものでしょうね。では、幸運を祈ります。」

 と言って、扉から、出て行って…いや、中に入っていった。

 全然この話では、春樹は脇役ではないのだったが。


「負けたくせに、生意気な奴だわ。勝ったのにこんな悔しい思いをしたのは初めてよ。」

 と文句を漏らした後、立花さんは僕の方を向いて、少しさみしそうに、

「とにかく、これで捜査は終了ね。おつかれさま。」

 そう言ってほほ笑み、そして屋上から去っていこうとするのだった。

 これで終わってしまうのか。いいのか、こんな終わりで。

 僕はそう思った時には、もう動き出していた。

 僕は、立花さんの手をつかんで、そして、

「まだ、終わっていません。僕の推理が、語られていないじゃないですか。」

 なんて言うのだった。こう、この一週間のことを書いていくと、実に、十六年間女性経験ゼロの僕にしてはあり得ないような行為を何度もやってのけたように思える。実際経験している僕でも、そんなバカな、と思うのだから、読者諸君はなおさらだろう。

 驚いたように振り向いた立花さんは、しかし、そのときは珍しく罵倒することもなく、

「いいわ。聞いてあげましょう。あなたの推理とやらを。」

 なんて言うのだった。

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