第31話 僕とパンツと恋の理由

「不登校になってしまった私を心配した父は、ちょうど転勤があるのだ、と私に嘘をついて、この町から少し離れたところに引っ越したわ。

 仕事の都合上、その町から離れすぎることはできなかったのでしょう。いこうと思えばいけなくはない距離にその公園はあったのだけれど、小学生の足にはあまりにも遠い距離だったわ。

 だから、私はその後、男の子に会うことができなくなってしまったし、もう推理はしないって心から誓ったの。

 でも、私はその男の子が好きだし、救われたことも確かなのよ。けれど、告白も謝罪もできなかったわ。」


 てっきりいつも通りのふざけた展開になると思いきや、かなり重いエピソードできたため、ぼくは受け答えに困った。それに、立花さんはいつもの自信満々の顔ではなく、寂しさを滲ませた顔をしていた。こういう時にどんな顔をすればいいかわからないの。そうやって、押し黙っていると、立花さんは口を開けて、

「あなたって、真面目な話をしている時もバカ丸出しの顔をしているわ。寧ろネタにツッコんでいるときのほうがまだ口が動いていてマシね。今なんて口が微妙に開いちゃってて間抜けだわ。悲しくなってきちゃうわ。」

「そんな理由で悲しそうな顔してたの!?昔を思い出して悲しんでいたんじゃなくて?というか、そんなシリアスな話よりも立花さんを悲しませる僕の顔ってなんなんだよ!そんなにひどいのか!」

 そういうと、クスクス笑いながら、

「そこまでひどい顔を見ると、シリアスな話をしても、まだ私のほうが幸せなんじゃないかしらって思えてくるわ。ありがとうね。これはあなたの長所よ。」

 完全に罵倒されているようにしか思えかった。けれど、悲しんでいる美少女を笑わせることができるのなら、それでも構わないと思った。人が悲しんでいる顔は、僕は苦手なのだから。

「つまり、恋に落ちるということは、些細な理由で起こることっていうことを伝えたかったのよ。

「確かに、私にとっては、この出会いは大きいものだったかもしれないけれど、けれど一般的なところからしたら、ただ不登校の女の子と、ただの男の子が話して仲良くなっただけ。

 例えば、幼馴染だったとか、たまたま席が近くなることが多かったとか、同じ部活だったとか、初めてのコンパで出会ったとか、そういった一般的などうでもいい些細なことから人生は変わり、恋が生まれてくるのよ。そして、そんな些細なことを、皆は、運命と呼ぶのよ。

 だから、そんな些細なことでと思わずに、些細なことに目をつけて、そこから探っていくのが、恋愛関係の捜査では大切だってことよ。」

「そんなものだろうか。もっと理由があって恋愛するものだと思うのだけれど、例えば、高身長とか、高収入とか、優しいとか…」

「確かに、きっと基準はあるわ。けれど、最初に起こるきっかけはそういうものじゃなくて、さっき言ったような些細なことのはずよ。あなただって、幼馴染のことが好きなのは、理由がたくさんあるかもだけれど、まず幼馴染だったからでしょ?」

 そう直接言われると、否定するわけもいかないし、事実なので、赤面せざるを得ないのだが、立花さんに言葉で負けてしまうのは、他の誰よりも悔しいと思うのだった。そういう様子を見て、笑いながらも少し寂しそうな立花さんの顔が、印象的だった。

「ところで、なんでまた探偵をやっているの?」

 と僕は話の中で疑問に思ったことを聞いた。

「もしかしたら、私が名探偵という噂を聞いて、その男の子が思い出してくれたら、嬉しいなって思って少しだけ大事件を解決してみただけよ。けれど、それは実らなそうだから、私は今回の事件で、探偵はやめようって思っているわ。」

 どういうことなの?と聞き返そうとした僕だったが、それは

「立花さんと、優が話しているなんて珍しいね。優は気にしていたけど、立花さんと友達になったんだね。羨ましいなぁ。」

 なんて言いながら登場した春樹によって妨げられた。

 それから、三人でたわいもない話をして、そして、その昼休みは終わったのであった。

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