第37話 僕とパンツとキス
けれども、もちろん、文章に起している今はそんな余裕ありげに書いているが、その時は余裕なんて一ミリもなく、まだ熱が残っている彩女に対して、
「昨日立花さんと、喧嘩したそうだけど。」
なんて、一番気にしてそうな話題を吹っ掛けるのだった。我ながら、男として0点であった。未来の僕は、ド○えもんを送り付けなくてはなら二だろうか、なんて深刻に考えてしまうぐらいであった。
「そうだけど…」
口籠る彩女に、
「何があったのか知りたいんだ。教えてほしい。」
と無理やり聞き出そうとする僕。
「でも、優くんには関係ないことだから。」
と突き放す彩女に、いや、好きな人のことなのだ。僕にも関係ある。と言おうとして、けれども
「いや、幼馴染のことなのだ。僕にも関係ある。」
と僕はすこし変えていってしまうのだった。ここの部分、いままでの話の中でも格段に恥ずかしい部分である。早く流してしまいたいという心が、文章にも現れてしまっている。しかし、どうしようもない。何卒許していただきたい。
さっきと同様すこしさみしそうな顔をしながら、彩女は深呼吸を一回したあと、
「わかったよ。幼馴染だものね。全部、隠さず話すね。話さないのではぐらかすのは私らしくないしね。」
といった。そして、彩女は更に顔を自分で気合を入れるかのようにぱしっと手の平でたたき、自分に言い聞かせるように、頑張るぞ、私。なんていったあと、当然、僕と正面を向くように体を動かし、
「単刀直入に言うね。優くん、私はあなたのことが、大好きです。」
そういったのだった。
僕は、なにせこの十六年間一回も告白も義理チョコすらもらったことのない男だったので、当然のことながら、戸惑ってしまって、情けなくも、
「幼馴染として?」
とか聞き返してしまう有様だった。それに対して、もう心を決めたのだろう彩女は、
「いいえ、男性として、大好きといってるの。優くんはどうなの?」
なんて言ってくるので、僕はさらに戸惑ってしまうのだった。けれど、答えないわけにもいかず、
「女性として、大好きです。」
となんとか返すのだった。そうすると、彩女は、やった、といってにっこり微笑んでくれたのだった。僕も釣られて笑ってしまった。今までの所でも十分恥ずかしいのだが、しかし、恥ずかしいのはここからであった。
「でも、こういう告白は、男の人からするものだと思うなぁ。」
「すいません。その通りでございます。」
そう苦しながらかえすと、恥ずかしそうに目を逸らして、彩女は言った。
「だから、キスは優くんからしてほしいな。罰として今ここで。」
なんて言い出すのである。どういう理屈だ!告白できない奴がどうやって初めての彼女にキスを自分からできるというのか。
けれど、ここでやらなきゃ男が廃るってもんだ!行け!頑張って向かうんだ。彩女の唇へ!そう思って、僕も気合を入れるために、手のひらで頬を叩き、そして心に、
遠藤優、行きます!
そう言い聞かせて、そして、
キスをした。
彩女の唇は、風邪と興奮からか、とても熱を帯びていた。もちろん、味なんて、僕には感じる余裕なんてなかった。
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