第44話 僕とパンツと親友の過去
「まず、なによりも先に、僕は謝らなければならないね。さっきは君のことを僕の秘密を暴露してくるんじゃないかと疑って、また、嘘つき呼ばわりして申し訳なかった。
けれど、言い訳がましくなってしまうけれど、僕はこれから、そうやって、親友の君まで強く疑わなければならなかった理由を話していこうと思う。
僕は幼いころから自分で言うのもなんだけれど、可愛がられ大事にされて育てられてきたし、普通の人と比べて同じことをやっても優遇されてきた。
なんでかというと、それは単純で、僕のお父さんが何代も続く大企業の社長だからだということと、それから、僕の美貌だろうか。
ははは、後者はただの冗談だが、確かに優の言うとおり、他の人からみればうらやましかったのだろうね。そしてうらやましいってことは同時に妬ましいってことなんだよね。
僕はそうやってちやほやされている裏で、多くの人が、僕の見えないところで陰口を言っているのを知っていたんだ。
それは、普通なら、ちょっとした友達の間での話なのだろうが、僕の場合は、友達も、先生、校長、僕の家の使用人、企業の社員の人たち、そして、僕自身の母までもが僕の陰口を言っていた。
それは、僕の見えないところで行われているはずなのに、誰もが人を蹴落とそうとして、僕に、誰が、こんな悪口をいっていたよ、と伝えてくるのだった。だから、僕のところには、誰もいい話なんて持ってこない。誰かが言っていた僕の悪口と、そして、僕の、いや企業の機嫌を取るためのお世辞ばっかりだった。
だから、僕はそんな頃、夢にみた神様に、祈ったんだよ。本当の嘘偽りのない会話をしてみたいって。
けれど、手にした能力はそれとはかけ離れた能力で、この世界の人間は、必ず表を自分の思考をにじませているのだから、それを過去の僕の記憶から抜き取ってきて、そして、構築し、相手が本当に考えていることを当てる、といった能力だった。
だから、僕は、初対面の人の気持ちを当ててと言われても答えられないし、目の前の人と、嘘偽りなく会話することもできないんだ。できるのは、その人が、結局嘘偽りで固められた会話を僕としている、ってことだけなんだ。
いやいや、僕の女装癖と能力は全く関係がないんだ。でもそんなに気になるのなら、女装壁ができてしまった理由も話しておこうかな。
僕が女装好きになってしまったのは、姉の影響なんだ。僕の姉は、僕が人形みたいと言って、僕に幼いころから、女の子の服を着させては、みんなに披露していたんだ。
普通の男の子なら、嫌がって、女の子嫌いになるところかもしれないけれど、僕はそんな家庭状況だったし、自分自身、自分を表現するのが苦手だったから、その、女装という方法で自分を表現することに、はまってしまった。
話が少しそれてしまったから戻るけれど、僕の人生は、中学二年生の時、大げさだけど、変わったんだ。優と会うことによってね。
優は僕を、会社とかそういう目線以外で友達に、そして親友になった初めての友達なんだ。
優は、嘘をつかない、暖かい奴で、僕は初めて人と会話したように感じたんだ。けれど、だからこそ思ってしまったんだ。
優に女装した僕を見てもらいたいって。
でも、もちろんそんなことを言い出せば、気持ち悪いと思われて、友達じゃなくなってしまうって思ったんだ。
けれど、同時に、見られたいという気持ちもどんどん大きくなっていったんだ。だから、僕は、体育着の中にこっそり女性下着をつけることで、その二つの要求、見られたいけど、見られたくないという要求を満たしたんだ。
それで、いままでやってきたのだけれど、状況が変わったのは高校生になってからだった。
なんでか、僕が体育前後にトイレに行くことをしつこく調べてくる女性がいたんだ。それが、立花さんだった。それも大胆にも直接、なんで毎回トイレにいくの?なんて聞いてくるのだから、こんな状況だったけれど、つい笑ってしまったよ。会社に関係がなく近づいてきた人の二人目が、まさか僕のトイレ事情につられてきたのだから。
けれど、僕もそう悠長にはしていられなかった。彼女は前にも言ったように、何個かの大事件を解決して学校では知らない人のいない名探偵となっていたのだから。きっと僕のことだってなにか証拠をつかんでいるに違いないって思ったんだ。」
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