第43話 僕とパンツと親友の能力

 それから、放課後になるまでの間、僕たち二人は、どちらも落ち着かなかった。

 体育の時はペアを組んだはいいが、どちらも話しかけないし、その後の四時間目も、僕らはどちらも集中力を欠いていた。こんな衝撃を受けて、冷静でいられるのなんて、よほど頭が能天気な奴か、立花さんみたいな、天才的推理力を持つものぐらいだろう。残念ながら、もちろん僕らはそのどちらでもなかった。

 そんな風にいたずらに時を過ごして、そして、放課後になった。


 僕らは四時間目の授業が終わると、どちらとも言わず、立ち上がり、そして、二人で屋上へと向かった。屋上につくと、春樹が前に入り、僕が後から入った関係で、僕は屋上の扉を閉めたのだった。

「どうやって見たんだ。」

 僕に背を向けたまま、聞いてくる春樹に、しかし、僕は返答に困った。

 それもそのはずである。こんな思い出し文章にしているいまでも、こんなシリアスな感じに雑談みたいなことを書けないでいる僕だというのに、実際に経験していたときは、シリアス過ぎて、胃がきりきりしていたぐらいなのだから、実は僕パンツを透視できる能力があるんだよ!すごいでしょ!なんてバカみたいなこと、春樹に対して言えるはずもなかった。こんなバカなことが、実際は事実であるのだから、世界ってわからないな、って思う。

 押し黙っている僕に対して痺れを切らしたのか、春樹は後ろを振り返り、僕と向かい合う状態で、そして、屋上の扉を壁にして、それに片手をつけて、僕を追い詰めた。俗にいう、壁ドンである。前とは完全に逆のポジションであったが、まさか僕の人生で二度も男性同士の壁ドンを経験するとは、夢にも思わなかった。それも一週間の間に。

 そして、春樹は僕の顔をさっきの、見透かすような冷たい目で見て、そして、

「驚いたなぁ、優。パンツを透視する能力を持っているんだね。なるほど。すべて理解したよ。」

 さして驚いてないような口調で、そう言い当てたのだった。

 僕は驚いたが、しかし、春樹がひとつ謎を解いたように、僕も一つ大きな謎が解けたのであった。

 僕は、あの四時間目、動揺しながらも、けれど頭はいつも以上に働いていた。そして、僕には一つ、大きな疑問があった。

 何故春樹は僕がパンツを見たと確定したのか。いや、確定できたのか・

 確かに、僕はその時、春樹のパンツ部分を見つめていたし、あんなものを履いていれば、そう考えてしまうのは最もなのだが、けれど、春樹だってそれがばれないように最大限注意を払ったはずだろうし、それに、普通ズボンを履いていれば、パンツは見られないのが当たりまえなのである。

 故に、たとえ咄嗟に見られたかと思っても、そんなわけないと考えるはずの所である。けれども春樹はその際、見たということを確信していた。

 だが、さっきの目と、そして言葉から、僕も確信した。

 春樹には、人の心を読む能力があるということを。

 この考えは、普通の人ならたどりつくはずもない。これは、実際にパンツを透視するなんて常識から外れた能力を手にした僕だからこそ思いつく結論であった。

 こんな突拍子もない答えだったが、けれど、僕のこの能力は、あの名探偵、立花華憐すらも、自ら紐パンを履いてそれを僕に透視させるような乙女を汚す行為をしなければたどりつけないほどの難題だったのである。心を読む能力以外では、春樹がたったの数時間で至る答えではないのであった。

「お前こそ、人の心を読む能力があるんじゃないか。」

 そう僕が言い返すと、春樹は今度こそ心底驚いたようだった。だから、更に付け加えてやった。

「だけど、その能力は完璧じゃないようだね。もしその能力がそんな大それたものだったら、僕が君の体育の授業中女性用パンツを着用しているという秘密を、誰かにバラそうとしてなんていないことが、きっと読み取れるはずだろうからね。きっと、一つのことに関して、自分が見てきた記憶を分析して、もっともらしい答えを導き出す能力といったものだろうか。」

「これは本当に驚いたなぁ。君はまさか、パンツも、心もどちらもわかるのかい?」

 そんな的ハズレなことを言ってくる春樹に、僕は、

「そんな大それたことじゃないのさ。ただ親友だから、わかるってだけだよ。そういう点においては、僕も君を見てきた記憶からここにたどり着いたというのなら、同じ能力といえるかもしれないね。」

 まぁ、こうかっこいいことを言ってはみたものの、正直意味が分からなかったから、これ、能力ってことにしちゃおうぜ、ってことにしただけなのであるのだが。昔の人が、科学もわからず、神の力で話をまとめちゃおうとしたのと同じように。

そして、もう一言、僕はかっこつけて言ったのだった。

「だから、まず落ち着いて、話そうぜ。僕が親友の秘密をばらすやつにみえるか?」

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