第28話 僕とパンツと童貞神

 その後、お昼までは何ともない普通な日常が続いた。

 いつも通り、彩女とお昼ご飯をたべようと思っていたのだが、彩女が僕の席に来て、申し訳なさそうに、

「ごめんね、優くん。今日は急に予定ができちゃって、一緒に食べれなくなっちゃったんだ。ごめんね!」

「それなら仕方ないよ。僕のことは気にしなくていいから、いってらっしゃい。」

 なんて話がわかる男だろうか。これなら彩女も僕に惚れてしまうぜ。とおもったのだが、寧ろ彩女はふて腐れたような顔をしていった。

「なんで引き留めてくれないのよ!ふつう引き留めるでしょ!昨日は一緒に食べれなかったからどうしても一緒に食べないと我慢できない、とか言うところじゃないの?」

「いや、流石にめちゃくちゃだよ!一日や二日ぐらい相手が用事があるのなら我慢するのがふつうだろ。だいたい、用事があるのにそんな引き留め方したら迷惑だろ。もしかして、そういってもらうためにそんなこといったの?」

 驚きのコメントにまともなツッコミを入れてしまった。いつもとは立場が逆転であった。

「いや、ちゃんと予定はあるんだけどね…」

 ますます意味が分からないのであった。だが、僕はしつこいようだが、彩女検定二級の持ち主である。ここは彩女の気持ちを考え、

 「明日は絶対一緒にお昼食べような!そうじゃないと、僕もさみしくなってしまうよ。」

 なんて言ってあげると、彩女はうん。と元気よく返事して、嬉しそうにスキップまでしながら教室を出ていくのであった。僕も、彩女のこんな姿を見られるだけで幸せである。つい顔がにやけてしまうのも仕方ないことだった。

 

「なに一人でにやけているのよ。ただでさえ冴えない顔がグレードダウンして、気持ち悪い顔になっているわよ。」

 なんていいながら、立花さんが僕の前の空いている席に座って、僕と向かい合わせの状態になった。口は悪いが、こう近くになると、美しい顔と、長い黒髪、そこからほのかに香るローズの香りに反論する意思を失ってしまった。それ故に、言えた言葉は

「立花さんもお一人じゃないか。」

 という反論にもなっていない言葉だった。

「いいえ、私は名探偵で依頼殺到。時間がないから、庶民と同じようにご飯に時間をかけるなんてことはしないのよ。もうさっきの二分ほどで食べ終えてあるわ。

そもそも、あなたの前じゃ食事も味わってなんてできないもの。」

「はいはい、そうなら自分の席に戻ったらいいじゃないですか。」

 そういって、僕は隣の春樹の席を見るも、春樹はいなかった。食堂でもいっているのだろうか。しかし、これが立花さんには漬け込みどころだったようで

「あら、今日はお友達が少ないあなたは一人でご飯を食べなくちゃいけないようね。かわいそうだから、私がその哀れな姿を近くで見ていてあげるわ。感謝なさい。私が近くにいるだけで、ご飯までも私の為につやつやになってしまうのだから。」

 ここまで来ると、もうこの自画自賛も名物であった。賞賛したくもなってくるのであった。

 ところで、と話題は立花さんから切り出された。

「この名探偵にして孤高の薔薇の私から、あなたに、人生のアドバイスというものをしてあげようかしらとおもうのだけれど、どうかしら。」

「いや、人生に困ってないから。結構です。」

 すかさず断ってしまった。もう立花さんの言葉に対してすぐに反論する癖がついてしまったようで、提供してくれた話題をすぐさま断ってしまった。

「まぁまぁ、どうせ人生の花をつかむどころか香りすら嗅いだことのない童貞なのだから、そう頭ごなしに否定したらどうなのかしら。私が恋のアドバイスをしてあげようって言っているのだから。」

「何を言っている。確かに僕は童貞だが、しかし、童貞を恥に思ったり、そのことを隠そうとする連中ではないのだ。寧ろ僕は誇りに思っている。」

 立花さんは鼻で笑ってきた。見ていろ。今にあっと言わせてやる、そう思い続けた。

「いいか、童貞というのはDou Teiとローマ字書きされることから、DTと略されるが、それは表の意味、その言葉の中にはしっかりと、Dream Timeという言葉が隠されているのである。いいか。つまりこれはこういうことだ。確かに童貞は、女性に関して知識は知っていたとしても、実際には何も知らない。だが、それは、昔から言われるように、未知こそが、想像力を掻き立て、そして、夢を抱かせるということなんだ!わかるか。もし童貞じゃない奴らがいたとして、そいつらにできたか?ここまでやれたか?この先できるか?こんなノートに恥ずかしい妄想を垂れ流せるか?」

 決まった。完璧だ。そう、僕が新世界の童貞神だ…

「かわいそすぎるわ。流石の私もそのコメントに乗っかって罵倒を続けることはできないってぐらいひどいわ。私でもタダでアドバイスしてあげたいと思うぐらいに痛々しいわ。」

 そう、冷静に言われると、恥ずかしいなぁ、照れちゃいそうであった。

「そこまで言っているが、そっちはどうなんだよ。恋愛経験とかどうなんだよ。」

 それを聞くと、立花さんは急に顔を赤くして、けれど、彩女とは違い、声が小さくこともなくいった。

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