第33話 僕とパンツと泣き顔美少女

 そして、さらに変だったのは、立花さんであった。

 学校につくと、僕はいつも通り、席に着き、授業の確認を行い、ロッカーから使う教科書を出してきて、その後クラスを見渡した。

 隣にはいつも通り、春樹が微笑んでいて、もちろん、その日は休むことになった彩女の席は空いていた。

 だが、驚くことに、その彩女の席の隣の立花さんの席も空いていたのだ。いつもなら僕たちが来る前に既に学校についていて、いつものすまし顔をしているにもかかわらず、である。

 僕は、立花さんも彩女の風邪がうつっちゃったのかな、なんて考えた。

 だが、その予想は大きく外れた。

 登校時間ギリギリになって、立花さんは現れたのだった。だが、確かにこのことも驚くことなのだが、さらに僕を驚かせたのは、席に向かおうとした立花さんの顔は、いつものすまし顔クールビューティーとはかけ離れていて、いま起きてきたのかというような顔でありながら、昨日は寝ずに泣き明かしたのか、とも思えるほどに目の下が真っ赤になっていたことだった。


 僕は心配になって、つい、

「立花さん、大丈夫?なんかあったの?いつもより学校に来るの遅かったし、目の下、赤いし。」

 と言ってしまった。そうすると立花さんは、目の下だけではなく、顔全体を真っ赤にさせて、手は慌てたように髪の毛をわちゃわちゃし始めて、

「いままでみていたの?ちょっとなんで見てるのよ!この変態!馬鹿!キモい!あぁ…こんなに髪の毛ボサボサの姿見られたくなかったのに…」

 最後はもうこちらには聞こえないぐらいのつぶやきになってしまうような一言を返してきた。

 けれど、僕はこれを聞いて、さらに心配になってしまった。何故なら、いつもなら、例えば、なに見ているのよ。この低脳が。あなたの目に映ったってだけで腐るのだけれど。というか、私みたいな美人をお目にかけられたってだけで、見物料を払って欲しいぐらいなのだけれど、なんて言いそうである。完全に罵倒のレベルが低かったのである。こう、なんというか自分で言ってても嫌なのだが、もっと痛快な罵倒を浴びたいって感じを受けたのであった。

 だから、もっと詳しくなにがあったのか聞こうとしたのだが、そこで、担任が入ってきて、ホームルームの時間が始まってしまった。


 ここまででも十分変だったのだが、その後の担任の話に対する立花さんの反応だった。

 入ってきた担任は朝の挨拶を済ませ、出席を取ってから、

「今日は、東條は、高熱の為、おやすみとなっています。春は新たな学期で環境も季節も変わって風邪を引きやすいから、みんなも手洗いうがいを忘れずに風邪を引かないよう気をつけるように。」

 と言った。そして、続けて、

「今日は少し重要な手続きの資料を配る予定なのだけれども、それを渡しに行ってくれる人が必要なのだが、遠藤、お願いできるか。」

 遠藤とは僕の苗字である。自分の名前は明かさないでおこうって思っていたのだが、彩女は僕のことを優くんって呼ぶし、仕方ない、忠実にできるだけ再現しようって思ってここは明かしたのだ。だが、まさか担任ごときに自分の苗字を言われてしまった。それも超平凡な遠藤の苗字を…僕の名前は遠藤 優。よろしく。

 まぁ、名前を明かされてしまったことに対しては不満があったが、僕は別に何か用事があるわけでもなかったので、

「いいですよ。わかりました。」

 と言った。

 だが、その時、立花さんが、それに反論するかのように、手を挙げたのだった。

「立花、どうしたんだ。」

 と言う担任に対して、

「私に東條さんの家まで届けさせてくれませんか。」

 と立花さんは言った。もちろんこれには誰もが疑問に思ったし、担任ももちろん思っただろう。

「別にいいが、東條と立花の家は方向が真逆じゃないか。」

 と言い返した。

 いつもの立花さんならここで理路整然と、僕の時のような罵倒混じりとはいかなくても、堂々と理由を述べるところであろう。けれどその時は、

「行かせてください。」

 と無理矢理突き通してきて、言うことを聞かないのであった。

「まぁ、そこまで言うなら。立花に任せよう。よろしくな。」

 そんな状態の立花さんに、渋々先生は許可を出すのであった。

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