第34話 僕とパンツと帰宅道

 そんな状態で、クラス全体は違和感を抱えたまま、気まずい状態でホームルームを終えた。

 僕だって、こんなに気まずい状態の中、渦中の立花さんに話しかけるなんて普段ならしないのだが、朝のことといい、この立花さんの異変といい、強烈に嫌な予感を感じていたので、立花さんに話しかけに行った。

「大丈夫か?どうかしたのか?昨日彩女となにがあったのか?」

「なにかしら。誰かしら私に話しかけてくるのは。あぁ、そこにいたのね。男性にしては小さいものだから、私の目には映らなかったわ。ごめんなさいね。そして、そんな小さい男に気をつかわれるのも癪なのだけど、私は優しくて弱者にも手を差し伸べて挙げるようにしているから許してあげるわ。」

 こうやって文字に起こせば罵倒も戻ったのかと思うのだが、実際には声の張りというか、そういうものがなかった。いや、むしろ声の張りが全然ないのに、この罵倒だけは最後まで言いのける当たり、腐っても立花さんではあったのだが、しかし、そう言われても心配なものは心配であったので、少し僕は立花さんに近づいて、

「なにかあったのですか。お嬢様。わたくしめに教えてくださいませんか。」

 できるだけ敬語っぽく言ってみた。悔しかったのだが。そうすると、途端に、顔を赤くして、

「わ、わかったから。彩女のお家までの道で詳しく話すから。だから…今はそんな近づかないで。今日は顔とか髪の毛とか、全然整えられてないから。」

 そんな風に言うのだった。十分綺麗で、というかそんな寝起きっぽい立花さんの姿はいつもとは違い、それはそれで惹かれてしまう、と思った。 けれど、そこまで言うのだから、僕は女性に無理強いしたりしない主義だし、ここは放課後まで待つことにしたのだった。そう思い僕は席に戻ると、春樹はたまに見せる僕には何を考えているのかわからない笑みを浮かべて僕を見ていた。

 嫌な予感がどんどん大きくなるのを、僕は感じていた。


 放課後になった。

 当然のように、待っていたりしてくれることはなく、さっさと一人で行ってしまった立花さんを僕は走ってやっとのこと追いついた。それをみて、立花さんは

「あら、やっと追いついたのね。召使い。」

 とか言ってくるのではあった。納得いかない。さっき仕立てに出てあげたのをいいことに、もう召使い扱いしてくるなんて、傲慢にもほどがある。

 まぁしかし、僕が追いつくまでゆっくり歩いていたのだろうことがわかってしまう為、憎むこともできないのである。だからこそ、僕も心配で早く話が聞きたいと走ってしまうのであった。いつもと違い、その一言以降は会話がなくなってしまった。

 僕はこういう性格なため、黙っていることが苦手であるし、それも美少女と二人きりの状況となれば、限界も底が見えてしまうというものだった。だから、我慢しかねて、

「立花さん。僕は美少女と一緒に黙って歩けるほど、精神が強くないんだ。」

 といった。すると、立花さんはクスクス笑い出して、

「あなた、初めて面白いこと言ったわね。」

 なんて言ってくるのだ。なんなんだこいつは。自分を褒める話の部分しか聞こえないんじゃないのか。随分都合のいい耳である。といつか自分の自慢話しか笑わないんじゃないのか。

 一通り気がすむまで笑ったあと、唐突に、立花さんは言った。

「昨日、彩女と喧嘩をしたのよ。」

「何があって喧嘩を?」

「私があなたを好きだって彩女に言ったからよ。」

 流石の僕も動揺せずにはいられなかった。目の前で無表情で、自分のことが好きだって言われたら、誰だって動揺するだろ。春樹とかはあっさり笑顔で受け流すのかもしれないが、

「本気ですか?」

「ええ、もちろん。言ったわよ。もし私があなたのことが好きって話が本気かと聞いているのなら、その質問をしたこと自体私に失礼だから、撤回しなさい。」

 なんでそこまで言われなきゃならないのか。僕だって告白されたいのだ。いいじゃないか。少し期待したって。

「じゃあ、なんでそんなこと言ったんだよ。」

「前にあなたに渡した手紙のことを聞かれて、本当のことを言うわけにもいかないから、そう言って誤魔化そうと思って。」

「いやいや、それなら別の言い訳があったでしょ。正直に言わないまでも、ただ探偵の調査をお願いしたって言えばいいだけの話じゃ…」

 それに対して、立花さんは、少し答え辛そうに、

「私が言った言葉が一番効果的な答えなのよ。そういえば、彩女ももう聞いてこないって思ったから。」

 と言うのであった。僕は意味がわからず、

「どういうこと?」

 と聞き返した。

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