第13話 僕とパンツと過去の難事件

「それで、何の悩み事なのかな?」

 切り出してきたのは春樹だった。春樹はいつも、何でもわかっているよっていう感じの顔をして微笑んでくるし、実際何でも僕のことはわかってしまうみたいだった。そんな感じが、関わりやすくていいのだった。

「単刀直入に言うけど、前話していた、立花華憐ってどんな人なんだ?」

 躊躇った。しかし、ここで恥を忍んでいては情報戦に勝てない。

「浮気は、よくないと思うよ。」

「浮気なんかじゃない。そもそも、彩女は付き合ってもいないし、ただの幼馴染みだ。」

「別に彩女さんとは言ってないのだけど。それに、ほんとに浮気じゃないのなら、立花さんの親友の彩女さんに聞くのが一番だと思うよ。そんなこと君だってわかっているはずなのにわざわざ僕に聞くのだから、浮気に違いない、と僕は推理するよ。」

 彩女には相談できないのである。第一、彩女に聞けば、聞いたことがすぐに立花さんに筒抜けになってしまうし、それに、彩女に友達のなになにちゃんはどんな子なの?とか聞くと、毎回殴られるし、その後不機嫌になるし、こんな子に育てた覚えはないのになぁ…反抗期かしら?そろそろ夜のお仕置きタイムと行きましょうか。

 冗談は置いておいて、彩女には聞けなかった。そして、立花さんにバレるわけにはいかなかった。立花さんにこっそりと『そのこと』に関して春樹に聞こうとしたことがバレれば、なにをされるかわからないし、さらに立花さんの情報まで集めていることがバレれば、命はまず間違いなくなくなってしまう。だが、春樹にも、立花さんと春樹の秘密を暴こうと手を組んだなんて口が裂けても言えないのである。

「頼むよ!そう言わずに、そこをなんとかさ。」

「別に知っていることはなんでも話してあげるよ。ただ、理由が気になるし、僕だって君が隠し事をしているって思うと、あまり気分はよくないな。だって親友じゃないか。なんでも話して欲しいって思うよ。」

 流石にここまで言われると心苦しいが、しかし、いうわけにはいくまい。許せ友よ。性欲を前に友情をないがしろにしてしまった我を許したまえ。

「ごめん、今はいえない。すべてが終わったら、その時、全てを打ち明けるよ。」

 こんな近いうちに、またもかっこいいコメントをイケボでいえる時が来るとは、心にも思わなかった。やはりこの発言は能力が宿った男が言うべきコメントだというのか。いや、パンツが透視できるようになった男が言い放っていい言葉なのか。たかがパンツが見える能力ごときで何を言うかって歴代ヒーロー立ちに叩き潰されそうなことを考えながらもそう答える。

「わかったよ。全部、受け止めてあげるのが、親友だよね。」

 少し悲しそうな、それでも健気に微笑む春樹。あらゆる仕草が芸術である。美しい。惚れそうになった。

「立花さんは、お父さんも、お母さんも、どちらも警視庁に務めるエリート一家の1人娘で、彼女自身もとても頭が良くて、噂によると、彼女はお父さんに助言して、何個かの難題事件も解決しているって言われているほどだ。君が手を出したらすぐに捕まっちゃうから要注意だよ。」

 あんな威張っている女はこっちから願い下げである。心配にも及ばないさ。だいたい、なんでそんな大探偵が、春樹の秘密なんて探ろうとしているのか。

 やっぱりただ春樹のことが気になるだけなのか。本当に昨日言っただけの理由なのだろうか。彼女も言った通り、人間を変え、動かすのは恋か、死なのだから、結局は恋愛ごとなのではないだろうか。恋愛ごとはよそで、ひとりでやってくれ!

「そして、君は知らなかったみたいだけど、彼女を知らない人はこの学年、いや、学校でいないと思うよ。彼女はある先生が生徒と淫らな行為をしようとしているところを現行犯で逮捕しているんだ。それも、その先生は、いわゆる同性愛者でその生徒も同性愛者だったんだ。

 ふつう、男の教師が女の子とっていうならまだわからなくもないし、見つけることもできなくはないかもしれないけど、どっちもその性質を明かさず、どちらかというと隠していたのに、彼女はそれに気付き、さらに付き合っていることにも気付いた。

彼女は本当に素晴らしい探偵だよ。」

 そこで流石に一つの疑問が湧いた。

「なんで、そんなビッグニュースを僕は全然知らないんだ?」

 すこし首をかしげた後、春樹は言った。

「あれは一学期の本当に最後の方に起こったことだから、夏休み中ずっと噂になっていたんだけどなぁ…、あ、そういうことか。君は友達が少ないから、噂が流れてこなかったんだよ。」

 そんな馬鹿な。友達は少ないほうじゃないぞ!いや、ないと思う。そうじゃないよね?というか確かにクラスのトークグループとか誘われたことない。そんなハブられているのか!?すこし可哀想な目でこっちを見て励ましてくれる春樹の目線がやけに辛い。

「僕は孤高の変態だからさ。噂なんかに流されないんだぜ。」

 

 結論、立花さんは予想以上にやばいお方であった。

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