第15話 僕とパンツと調査理由

「あなた、直接話したわね。」

 春樹と会話した日の翌日の放課後、屋上に僕と立花さんはいた。ちなみに立花さんのパンツは白の無地であった。立花さんは僕の春樹がなぜ体育の前後にトイレに行くかという推理を聞いた後、まずこう言い放ったのだ。まぁ推理といっても春樹が言ったことをそのまま伝えただけなのだけれど。

「なにあなた。一昨日ちゃんと、しっかりと、馬鹿なあなたにもわかるように、一字一句区切りながら伝えたわよね。直接春樹君に、そのことに関して問いただしたりしないようにって。伝えたわよね。なにあなた。数学だけじゃなくて国語もわからないの?なんなの。ゴミなの?」

 約束を破ったのは確かに僕だが、しかしここまで言われる筋合いはないし、それにまだ僕は春樹に聞いたなんて一言も言ってないのである。

「いいえ、これは僕が昨日落ち着いて考えてみて、こうなんじゃないかな、って思ったんだよ。冷静に考えれば、これ以外に考えられないじゃないか。」

 このコメントを聞いて立花さんは鼻で笑った。

「また一から説明しなければわからないかしら。といっても一から説明するような内容でもないわ。こんなことは一も説明しなくたってふつうわかるってものよ。

 まず、一昨日の段階で、あなたは私の疑問に関して、私を心の中では変態と罵りながらも、いや、同志を見つけたような目線で見つめながらも、この疑問に関してある程度真剣に考えていたわ。

そして今回あなたが示してきた理由っていうのは、普通の人間の脳みそがあれば、真剣に三秒も考えれば誰だって思いつく考えなのよ。

 私はてっきりその考えには至っていて、でもなにからもっと深い理由があると感じているのだろうって思っていたのだけれど、少し類人猿には難しかったのかしらね。

 今更ながらそんな簡単なことを主張してくるとなれば、もはや誰かから聞いて、それがあたかもすごい意見みたいに感じてここで、私の前でふんぞり返って自分が考えましたよって感じで発言したに決まっているのよ。

 で、こんな話をわざわざするとなれば、依頼主の私か、それか実際にそれを行っている春樹君に聞くでしょうね。私は日常男子高校生がどんな話をするかなんてそう詳しくはないのだけれど、けれど男子高校生は日常、トイレに入ってなにをやってるかなんて会話して盛り上がっているなんてことはないでしょうからね。」

 実に理にかなっているし、その通りである。だが、この理論を語るのに毎回僕を罵倒する必要があるのだろうか。僕だって、探偵とまではいかないまでも、立花さんのクラスでの会話をそこはかとなく聞く耳を立てて聞くぐらいのことはしたが、クラスメイトを罵倒したりなんかしていなかったというのに、なんで俺だけ…

「しかし、困ったことをしてくれるものね。飼い犬に手をかまれるとはこのことよ。」

「待て待て。聞き捨てならないね。立花さん。僕とあなたは対等の立立場で交渉しているのでしょう。いつ僕があなたの飼い犬になったのだろうか。」

「何言っているのよ。一昨日なんか私の紐パンの前にひざまずいていたじゃないの。顔を近づけようとしていたじゃないの。というか最後は土下座までしていたじゃないの。これは誰がどう見たって主人と奴隷の関係性じゃないの。」

「いやいや、さらに聞き捨てならないね。立花さんよ。いつ飼い犬と飼い主の関係が主人と奴隷の関係になったっていうんだい。違うね。それは全然違うね。彼らは愛し合い、支え合って生きているんだ。これはいうならば、もう彼氏彼女の関係なのだ。いってしまえば、飼い犬に手をかまれるなんて、僕からしたらもうAVの話をしているのじゃないかってぐらいだ。アニマルビデオレベルでの和みである。

 それに、それなら、縛った女の子のパンツに顔を近づける男だってこの世には存在するんだ。君の偏見で行為に意味性、関係を付けるのはやめていただけないかな。」

「いいえ、私は決して縛られてなんかいなかったし。というか精神的に縛っていたのはこっちのほうだし。というか、あれはもはやわたしのサービス精神からくる行動だったし。奴隷へのささやかなご褒美であって、あれは私が、あなたみたいな女子のパンツを直に見たことのないダメ男にみせてあげていたってことなの。感謝されても裏切られるなんて、もう心底がっかりだわ。期待もしていなかったのだけれど。」

 こいつと話しているとらちが明かない。話が全然進まない。相性最悪であった。

「まったく何を考えているのかしら。そんな、捜査する相手に、いまからあなたの体育の前後のトイレ事情を調べますなんて面と向かって言う人がいるかしら。

 だいたい、学校だけでなくこの町では名探偵と名高いこの私とあなたは接近しているということはクラスの中では明らかなことだというのに、そんなことを急に訪ねてきたらなにかおかしいなって普通思うものでしょ。鈍感すぎるにもほどがあるわ。」

 いや、自分でいってしまうのか。その自分が名探偵であるってことを自分の口から恥ずかしげもなくいってしまうのか。すこしの遠慮的なものはないのか。

「しかし、そうとわかっているならわざわざ調査する必要もないじゃないですか。てっきり立花さんは男子がトイレの中で行うことに関しての知識がなくて、推理できなかったのかと思っていたのだが。」

 なぜか、いやらしい言い方になってしまった。というか、立花さんが初めて赤面しているのであった。あの紐パン状態でスカートをめくっていたあの立花さんがである。

「な、な、な、なんで私が男子がトイレで行うことの知識がないっていうのよ。この私が、私が持っていない知識なんて一つもないんだから。わかるわよ。自慰行為でしょ!オ○にーっでしょ!マ○ターベーションでしょ!こうやって性器をこすりあげるんでしょうが!」

「なぜこんな赤面してまで意地を張ろうとするんだ。プライドが高すぎるのか。いやいや、むしろプライドが低すぎるんじゃないのか。女の子だろ!凛々しい女の子だろうが!発言には気をつけろ。」

 そこで、赤面したままだが、咳払いをして、仕切り直し、きりっと決め顔を決めて立花さんは言い放った。

「なんで調査するか、それはね。私の探偵として、そして女としてのカンよ!」

 何故堂々とこんなしょうもない理由を言ってのけるのだ。名探偵失格であった。もっと理屈とかお得意の推理とかないのだろうか。というか、さすがにこんなカンで動かされるこっちの身にもなっていただきたいのである、とそんなことを思っていると、この思いが表情に出てしまったのだろうか、すこし立花さんは不機嫌そうな顔をして言った。

「まぁいいわ、何も起こらないってことも探偵にとってはなにかしらの証拠になるものだし。ただ…私の依頼の指示に一つだけ追加させていただいてもいいわよね?」

 …嫌な予感しかしないのであった。

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