第23話 僕とパンツと怒りの美少女

 とにかく危機的状態であった。お家の前に時間が過ぎていくと爆発威力が上がるし、確実に爆発はするっていう時限爆弾よりタチの悪い爆弾がおいてあるという、まさにそういう状況だった。

 急いで、しかし妹が作った朝食は確実に完食して、準備をして、家を出た。家を出ると、僕のうちの門の前に、顔話見えないけれども、オーラだけで怒っているのが分かる幼なじみの姿があった。触れずとも、見ずともわかる、怒りのオーラというのはとてつもないものなのである。怖すぎて家から門への道をまともに歩くことも難しいほどであった。頭痛がしてきて、学校を休むべきというレベルであった。彩女恐るべし。それでもやっと、僕と妹は彩女の前まで進み出たのであった。そのような勇者たちに対して彩女が放った言葉は

「綾さん、今日は私と優くんだけで一緒に学校に行きたいから、今日は一人で中学校に行ってくれるかしら。」

 人間はこんなに怖く冷たい声が出せるのであろうか。もうこの提案を拒絶などできるもないほどの凍えそうな一言であった。だが、勇者団(二人)の団員の一人、妹はそれに果敢に立ち向かい、一言言ってのけた。

「私もお兄ちゃんと一緒に学校に通いたいんですけど!」

 それに対して、彩女は、

「一人で行ってくれないかしら、って言ってるんだけど?」

 こっちが凍え死にそうな一言に対して、一言対抗してみた妹も

「すいません、わかりました。」

 そういって急いで学校に向かっていった。というか敬語になってしまっているし、誤ってしまっているし、完全に敗北なのであった。ここまで来ると、読者諸君も妹がかわいそうになってくるだろう。何もしていないにもかかわらず、いきなり追い出されてしまったのだから、妹好きの僕でなくとも先に述べたぐらいには妹を持ち上げておきたくなるようなものである。いっそさらに妹の出る場面を増やしてやりたくなるぐらいである…まぁこれ以外はもうほとんど登場場面がないのであるが。

 こうなって勇者団最後の一人となってしまった僕だが、もちろん僕は一人で立ち向かう勇気も持ち合わせておらず、もう勇者と名乗るのも文字通り失格なのであるのだが、勇者兼魔物彩女検定二級も持ち合わせている僕は、まずは安静に、今の怒りの原因を尋ねつつ、話すことで発散させようとするのであった。

「何時ごろからうちの門の前で待っていたの。」

 そう恐る恐る僕が尋ねると、

「二十分前から。ちゃんとチャイム鳴らしたでしょ。」

 そうやって、むっとした感じで答えるのであった。その言葉を聞き、僕は不思議に思った。

 というのも、僕は自分で彩女検定二級というぐらいなのだから、彩女が朝どの時間に起きてどのように過ごし、門の前で待っているかぐらいは知っているのである。いつもの彩女は、彩女の家と僕の家が隣で、ほとんど歩く必要がないために、まず、僕との待ち合わせ時間ちょうどに門の前で待っているのである。

 けれども、僕はなかなか起きられない上に、妹もギリギリに起しに来るため、いつもその待ち合わせ時間に間に合わないのである。そうすると、彩女は少しずつ我慢できない気持ちと焦りが生まれてきて、それが五分ぐらいで限界になってうちのチャイムを鳴らしに来るのである。

 なぜ彩女が待ち合わせ時間にきっかり現れて、そして五分間我慢した後チャイムを鳴らしている、ということを毎回遅刻する僕が知っているか、というと、それはいたって単純な答えであり、結論から言うと、僕の朝起きられないで遅刻してしまうという言い訳は半分ぐらい嘘であるということなのである。確かに朝起きられないことも事実なのだが、僕が来ないところを待っていてくれる彩女の姿を窓越しに見たり、想像したりしていると、かわいくて、つい、いつの間にか五分ほど遅れてしまっているのである。

 ここの部分を読むと、確かに僕が悪い人間のように思えてくるかもやしれない。

 けれども、ここで僕は切に訴えたいのである。想像してもらいたい。あなたの好きな人が、あなたの為だけにあなたを待ってくれるとしたら、と。

 なんと幸せなことであろうか。もしそんなときがあるのだとしたら、それだけで生きていけると思わないだろうか。毎朝、僕が遅れてしまうということが分かっていながらも、しっかり時間を守ってきてくれ、その後しっかり五分は我慢してくれた後に、僕が遅れてしまうのでは、と考えて、ついチャイムを押してしまう幼馴染の姿を,夏の日は、朝といっても湿気があり、じめじめと暑い中、うっすらと汗をかきながら、冬はまだ日が昇り切っておらず、暗くとても寒い中、手をこすって息をはいて温めながら待つ幼馴染の姿を、見ないで入られようか。いや、いられない(二回目の反語)。まぁ多少の歩調はあったものの、そういうことなのである。だから単純に僕を攻めすぎないでくれよ。僕がかわいそうだろ?

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