第09話 僕とパンツと推理
僕は、約束通り、屋上に向かう。
屋上の扉を開けると、そこには風に黒髪を靡かせた、そんな立花さんがいた。微笑む立花さんに、僕はぎこちなくも笑顔を返した。
「いきなりこんなところに呼び出して、どうしたの?」
内心、期待しながらそんなことを聞いた僕だが、すごいコミュ症みたいな感じの言い方になってしまった。だって告白なんてこの十六年間の間一度だってなかったし、というか、こんな可愛い子がなんで?って感じだった。
立花さんと目が合い、そして、彼女の口から、予測していた言葉を超える、更なる衝撃な言葉が発せられた。
最初の一言は、その淡い期待を壊わし、絶望を与えた。
「あなた、パンツ、見ることができるんでしょ?」
驚きに、何も出来なかった。体が固まってしまった。そんな馬鹿な、何故バレてしまったのだろうか。目を見開き、立花さんを見つめてしまった。何も語る必要はなかった。その態度ですべて悟られてしまったようだった。立花さんは、図星だったのね、みたいなことを言ってくるのだった。
しかし、バレたって問題ないのである。別に犯罪じゃないし、別に、別にバレたって大丈夫なんだからね!焦ってないんだからね!
ここは開き直る変態。ここまで堂々としている変態など、露出狂にだって匹敵するほどの変態性である。我ながら自分を誇りに思うね。そんなことを思いながら、あふれ出そうな涙をこらえて、立花さんに言い返した。
「証拠があるのか、ないだろ?」
イケメンボイスだった。イケメンじゃないけど。こういうの憧れてたには憧れてたんだよね。よく悪役が言い放つセリフである。
「手紙読まなかったの?まぁ、読んでないならいいわ。今から一から、あなたにもわかるように説明してあげるわ。」
そんなことを言いながら、立花さんは澄ました顔で語り始めた。
「まず、私があなたと同じクラスになった時から、朝、彩女と話している時にあなたが私たちのことをみているのに気づいたわ。まぁ毎日一分以上私たちを見つめた後満足そうな顔されれば、わかるけどね。けれど、この時は、私たちをみて、朝の癒しにしているのかなってそんなことを思っていたわ。だって、私って、やっぱり美人じゃない?癒されるっていうのも納得できるのよ。」
なんなんだこいつは。見た目は美人だけど、性格はひどいな。誰も癒しだとなんて思ってないわけでもないが、確かにふと夜に思い出してにやにやしていたこともあったが。しかしなんかムカつくのだった。
「ただ、その反応が変わったのは、三日前、あなたは彩女を見つめたあと、驚いたような顔をして、彩女を長い間見つめ続けたものだから、彩女も私も思わず見返してしまったわ。そこで、私は思ったの。あなたは、毎日なんの意味のなく私たちをみていたんじゃなくて、何かしら観察していて、それで変化に気づいたのだって。」
全くそのとおりであった。ムカつくが、しかし、彼女の直観は、本物であることを認めるしかなかった。
「確かに、そうだが、しかし、それが僕がパンツを見ていたって証拠には…」
その言葉を止めて、彼女は話し始める。
「推理の話の腰を折るのはやめていただける?まだ推理は終わってないわ。
その後、私は彩女がいつもと違う点を探ったけど、特に目立つことはなかった。けれど、体育の着替えの前、ついに彩女の変わった点を発見したわ。それは、パンツの柄!白に変わっていたのをみて、私は確信したの。あなたがパンツを何かしらで見ているって。
そして、私の推理は、そこから、どうやってみたのかに向かったわ。思いつくのは二つだけだった。何かしらで、カメラや鏡的なのを使ってみたか、それか、透視できるのか。初め、私は前者の方法で見ているって確信していたわ。当然だわ。あなたがそんな透視能力を持っているようには見えないもの。だから、実験したの。」
何もされた記憶がない。ハッタリか?
「私と、彩女の立ち位置を変えたのよ。交換したの。私がたって、そして、彩女が座る形に。そうすると、予想外に、あなたは座っている彩女を見つめ、そして、相変わらず少し考える様子になっていた。ここまで来れば、もはや、あなたが私たちのわからない能力で透視しているとしか、考えられないのよ。」
その理論は流石にめちゃくちゃだ。僕はすかさずその盲点をついた。
「彩女の変化した点はパンツだけじゃなかったかもしれないだろ。確かに僕は変態かもしれないが、まさか普通の人間にパンツを透視する能力なんかないし、まず、彩女の変化を読み取ったと推理しても、パンツの変化を読み取ったと推理するのは無理があるよ。」
そう、返す返答をきいて、彼女は待っていましたと言わんばかりの微笑みを返してきた。
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