第10話 僕とパンツと頼み事

「そう、言ってくると思っていたわ!だから、もう一つ実験してみたのよ。今日、私はあなたが毎日彩女を見つめている五秒間の間に、私は彩女の前に立ち塞がって、あなたが彩女を見られないようにしたわ。

 そうしたら、どうなったか。あなたもわかっているわよね。あなたは私のパンツをみて、そして、その後、私の顔を真っ赤な顔をして見返したの。わかる?つまり、あなたは、私の紐パンツをみて、驚き、顔を真っ赤にしたのよ。それ以外、今までの事象をすべて証明する方法があるかしら?」

 すべてが彼女の予想通りだった。もう言い訳する余地もなかった。だが、だからどうしたということだ。そんなことがわかったって、他の人に話したって、自意識過剰とか言われるだけだ。このままにしておけばいい、そう思った。

「そんなの君の推理だ。人間がパンツを透視できるなんて、逆にそれをどうやってやるか推理願いたいね。」

 そういって背中を向けて、屋上から、去ろうとする僕に、

「あなたの能力と、私の推理力があれば、あなたの疑問も、私の欲しいものも、すべて手に入ると思うのだけれど。」

 そんなことを言いながら、立花さんは両手を広げて、そして、

「私と手を組まないか、と誘っているのよ。この私が誘っているのに、断るなんてありえないわ。それも紐パンをはいて誘ってあげているというのに。まったく変態がこの誘いに食いつかないわけないじゃない。」

 立花さんは僕をなんだと思っているんだ。紐パンをはいていればそれだけで興奮して何でも許す変態だと思っているのか。確かに興奮はする。認めよう。そこは百歩譲って認めようじゃないか。いや、百歩進んで紐パンの目の前に進むぐらいの勢いで認めてあげようではありませんか。

 しかし、この大のパンツ好き、この僕もなめられたものだ。凡人と同じ風に扱ってもらっては困るのだ。僕にとって紐パンも、普通のパンツもどっちも魅力的なのだ。しっかり覆い隠すパンツだってしっかりと紐パンとは違う魅力を有している。故に僕は立花さんがどんなパンツをはいていようと、男性の礼儀として、ここは女性の話、悩みを聞いてあげるのが筋ってものだ。

「どうしたんだい、嬢ちゃん。悩みを聴かせてご覧。」

 しまった…

 このいままでの僕の心理の前提があれば、かっこよくも聞こえるセリフだが、しかし、話の流れだけで見てしまえば、紐パンにつられて話を聞こうとしている変態にしか思えないではないか、何たる失敗だ。エロゲーだったらこの『立花さん』ルートは絶望的だ。好感度ダダ下がりである。見ろ、この立花さんのドン引きした顔を、苦笑いなんか消えて、完全に、うわ、何此のゴミ、私の目の前から消えて、みたいな顔しているじゃないか。もうこのエロゲー初めからやり直したい…

「こんな変態に相談していると思うと、自分で自分が嫌いになりそうなのだけれど、しかし、私も自分だけでは解決できない難題にぶつかっているのも確かであり、猫の手ならぬ、変態の手も借りたいぐらいなのも確かなのよね。」

 あぁ、こんな状態じゃなかったら、この変態の手、美少女のためなら全力で使ってあげたいと思うのに。こんな生意気な女の子のためにだって使ってあげたいと思うのに。

「まず、なんで彩女のパンツの柄がくまさん柄から白の無地に変わったか、はつかめているかしら。いや、掴めていないわね。だいたい掴めていれば毎日悩み顔で見つめたりしないでしょうね。だいたいあなたじゃ彩女に直接聞くなんてできるわけないだろうし。」

「いやいや、そこは聞き逃せないなぁ、立花さんよ。あなたは親しかったとしても、男友達に対して、お、今日のパンツの柄、いつもと違うね。なに、何かいいことあったの?新しいパンツは履き心地いい?というか前に履いていたパンツ私にくれないかなぁ、なんて言えるって言うのか?いや、絶対に無理だろう。」

「いいえ、私ならしっかり言えるわ。というか、私なら大して親しくもない気持ち悪い変態に対してだってパンツの柄に関してのコメントぐらいなんてことなく言えるわよ。私を誰だと思っているのよ。」

「口ではなんだって言えるさ。口で言ってあぁそうですか、すごいですね。よく言えましたね、なんて言われるのは幼稚園児までなんだよ。幼稚園からやり直せ。」

「まったく、自分と他人の戦闘能力の差が分からないなんて、人間以下…いや、生物以下ね。じゃあ実践してあげるわよ。」

「ねぇ、そこの変態さん。あなたのパンツの柄、とっても似合ってないわ。というか、あなたにはどんな柄のパンツも、いえそもそも布をまとうことすら布に失礼。だから、その布私が捨てといてあげるから私に渡してくれないから。」

 そういって、にっこり笑顔の立花さん。憎たらしいのにくそ可愛いのである。まさしく萌えそのもの。もはや僕の口は高3である。ぐうの音も出ない。新たなる性癖に目覚めそうであった。

「変態とだと全然話が進まないわ。なんでパンツが白無地になったかなんてあなただって薄々気づいているのではないかしら。そう、これは彩女が恋をしたってことが原因に決まっているわ。だいたい、人間が自分を変えるときっていうのは恋か死かって決まってるのよ。」

 こんなギャグみたいな会話の中で、人生が変わる瞬間なんて重い話題を出さないでほしい。そして、うすうす気付いていたことをしっかり言葉にして言われると実感がわいてしまい、焦ってしまった。

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