第23話 事実は小説よりも奇なり。

 あー、暇だ。遊び尽くしてやることが無い。


 持ってるゲームの2周目でもするか……ん? 

 なんだコレ……あー、あったなこんなゲーム。


 たしか誰かに借りてたんだっけ? 

 思い出せねぇ。まあ昔のことだ、時効だろ。


 ゲームの位置はどこに設定したかな?


 『アマノガワ銀河・中央』。そうだ、惑星までの移動がめんどくせえし、燃料費を安くするために近場にしたんだ。


 ……そうだ。


 このゲームを、近くの未開拓惑星にいるにやらせれば面白いんじゃないか? 


 よしっ! 善は急げだ。早速行ってみよう。


 そのはテロル星と呼ばれる星で生まれた。


テロル星は非常に好戦的で、広い宇宙の中でも屈指の軍事力を保有する軍事惑星国家。


 その惑星を統治するテロル星人達は、非常に高い戦闘能力を持ち、他惑星の侵略や破壊工作を頻繁ひんぱんに行っていた。


 そんなテロル星人も知能を持つがゆえに、理性や協調というものがあり、むやみやたらと問題を起こす訳ではない。


 しかし、地球に向かっているこのテロル星人は、イカレていることで有名なテロル星の中でも特級。最悪の犯罪者として指定されていた。


「さて、いい感じのチキュー人はいるかな?」


 そして今、地球に到着したそのテロル星人は拉致らちする人間を探している。


 そんな探索中、どこからともなく謎の光線が宇宙船に近づいていることをレーダーが感知。


「なんだ!? 宇宙警察の攻撃か!?」


 当たる直前にハンドルを切り、ぎりぎりで避ける船。しかし船の一部は損傷。


「くそ……まあ問題ない。追撃ついげきがないところを見るに宇宙警察ではない。おそらく宇宙放射光線でも落ちて来たんだろう」

「おッ、今の光線で気絶したチキュー人発見!」


 そこにはトラックに引かれ、血だらけになったチキュー人が二人。


「よし、コイツは治療装置に入れれば大丈夫」


 それからそのテロル星人はチキュー人を拉致し、ゲーム惑星:【リトルプラネット】に向かう。


「弱すぎるから適当に改造しとくか……」


 そして、拉致された人間は治療するついでに、他惑星の環境に適応する体と、手から火の玉が出せるように改造された。


 そんなこんなで無事に移動し、テロル星人はリトルプラネットの大気圏に突入。


 ────しかし、その直後。


『エラー!エラー! 機体の一部に重大な欠損があります!』

『エラー!エラー! 自動修復システム不全 コントロール不能』


「は? なんだッ!?」

 

 宇宙船は光線を受けた損傷によってコントロールを完全に失い、重力によって加速しながらその星の地表に激突。


そして、その衝撃によって中にいたテロル星人は、不幸にも記憶を失ってしまった…………。



 ◇



「んで、そのテロル星人がオレって訳!」

 にっこり笑って親指を立てる兵藤。


「全部お前のせいじゃねぇかああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」


「待って永岡。落ち着いて」

 兵藤をぶち殺そうとしている永岡を、セラルは止めて口を開く。


「兵藤、いえ……ヒョウドル。記憶が戻ったってことは、私のことも思い出したんでしょ?」


「え?」



 ~遡ること120年以上前~


 数量限定販売の人工小惑星をまるまる使ったrpgゲーム【リトルプラネット】。


 オレは当選しなかったが深淵しんえんウェブの情報によると、オーパーツ星の姫が持ってるとの噂。


 しかし、宇宙随一の善人であるこのヒョウドル様が手に入れることが出来ず、訳の分からん女が簡単に入手するなんて……これは陰謀(?)だ。


何か汚い手を使ってオレが手に入れるはずだったゲームを横取りしたに違いない。


 よし、奪い返しにいこう。

 これは「悪」を倒さんとする「正義」の行いだ。




 温厚な者の多い星。軍事惑星であるテロル星に対抗するほどの科学力を持つ"オーパーツ星"。その星の姫様は退屈していた。


 この星の王族は、一定の年齢になるまで決められた自由しか与えられず、学校と呼ばれる場所にも行かされず、城内じょうないのみで英才教育をほどこされる。



 私の唯一の楽しみはゲームで遊ぶこと。でも今回手に入れたこのゲームは、今の私じゃ遊べない。


 この小さなキューブに入っている人口惑星を使うにはこの星の外、それも家臣や護衛に気づかれない場所に出なきゃいけない。


 これじゃあ、ただのフィギュアや骨董品こっとうひんと変わらない。今の私と同じだね……。


 ──とそんなことを考えていると、突然私の部屋に何かが突っ込んでくる。


「いってーッ! アイツ等しつこ過ぎだろ……」


「だ……誰?」

「あ? なんだお前……。!?、それは!!」

「ん、コレ?」


 突然、船で突っ込んで壁をぶち壊してきた男は、私の持っていたキューブを凝視していた。


「これが欲しいの?」

「ああ、さっさと寄こせ」

 当たり前のように手を伸ばしてくる男。でも不思議と私は嫌な気はしなかった。でも、タダであげる気もなかった。


「条件がある」

「条件? なんだ?」


「私をこの星から連れ出して」

 壁をぶち壊して私の元にきたこの男なら……。

 何かを変えてくれるかもしれない……。


 でも、こんなお願いは無茶もいいとこだって分かってる。私を連れ出すってことは───。


「おう、いいぞ」

「え?」


「で、でもそんなことをしたら──。あッ……」

 言葉を発しようとした瞬間、その男はグっと私を持ち上げた。そしてそのまま船に入り、何食わぬ顔で言い放つ。


「オレに姫とかルールなんてものは関係ない」


 私はこの時、確信した。

 この人が私の"運命の人"なんだと──。


「あの……お名前は?」


「名前? オレの名はヒョウドル……」

「ヒョウドル・アルカディアスだ」


「ヒョウドル……。私は──」


「私はセラグレイ・アースリー!」 

「"セラル”って呼んで!」


 それから私たちはオーパーツ星の追手や、宇宙警察から逃げながら旅をした。


 そこには見たことない物、見たことない人、見たことない景色、そんなキラキラしたものがいっぱいあった。


 それに初めての友達……ううん、大好きな人と一緒にいられること……。それが私にとって何よりも嬉しくて、とても心地よかった。


「ねー、次はどこに行くの?」

「……そろそろオーパーツに戻る」


 ヒョウドルは真剣な顔で私に言った。このまま旅を続けていても私の立場が悪くなるだけだと。


 星の王女を連れ去った者と仲良くしているなんて許されない。それに、私の家族や家臣が心配していると…………。


「で、でも私はヒョウドルさえいれば──ッ」

「ダメだ」

(これ以上、ゲームをおあずけにされてたまるか) 


 そっと、私を抱きしめるヒョウドル。


 ずるいよそんなの…………。

 

「分かった。でも条件……いや、約束をして」

「なんだ?」


 私が星の外を自由に出入りできる年齢になったら……このゲームを、【リトルプラネット】を一緒にやろう。


 そんな、そんな約束をして私は星に戻り、ヒョウドルと別れた。


 そして時は流れ、ヒョウドルの迎えを待っていた私は、ゲーム起動の通知を受けて大喜びした。


 でも、ただ会うだけじゃ味気ない。

 

 そこで私は考えついた──。


 そうだ! サプライズで私が先にリトルプラネットに行って、キャラクターのフリをして驚かせてやろう。と────。


 ◇


「思い出した?」

「いや、全然」


 兵藤は記憶が戻ったにも関わらず、そんなことあったかなーというご様子。


 そう、普通に覚えてないのである。


「あ、そっかこの姿だと見た目が違うもんね」

「変身─『解除』」

 

 セラルはそう呟くと、全身から光りが放たれる。

 

 その光がゆっくりと消えると同時に、青い肌に白い髪、蠱惑こわく的なスラッとした体、そしてどこか神秘的な美しさを秘めた姿に変身──いや、元の姿にセラルは戻った。


 本当に宇宙人だったのか……。


「思いだした? 更に可愛くなってて驚いた?」


「いや全然」

「え?」


「普通に覚えてない」

「ふッ、普通に覚えてない!?」


「じゃ、じゃあ結婚の約束も……」

「記憶にない。時効だ」 

「…………」


「「「………………」」」


 セラルは静かに体を光らせ────。

 無言で前の姿へと戻った。


((ふっ、不憫ふびんだ…………))

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