第32話 知らぬが仏。知っても仏。

 おみくじ・タロット・星座占い・占星せんせい術。

 占いには様々な種類のものが存在する。


 そして、宇宙の中には必ず当たる占いを行える宇宙人がいる。それは、エスパー星人。


 オーパーツ星に移動中、軌道上に何もない場所で止まっている宇宙船がポツリと浮いていた。


 通信を試みると、どうやら旅行中に燃料切れを起こし、補給場所にも行けずに途方に暮れていたそう。


 テロル星人である兵藤に気が付くと少し怯えていたが、ほどなくして落ち着いた。

 兵藤は嫌そうな顔をしていたが、旅は道連れ世は情け、説得して燃料を分けてあげた。


 船に乗っていたエスパー星人とボット星人の二人は命拾いしたと大喜び。

特にボット星人は分けた燃料の一部を水のようにガブ飲みしながら泣いていた。



 機械工学の専門家であるボット星人は遥か昔、バイオリズムの解析と意識の脳電化システムを構築し、肉体の完全機械化に成功した。


その体は技術の進歩と共に成長し、疲れず、仲間達との情報伝達を完璧なものとした。


 がしかし、使用している体の機能差や生命源とも呼べるエネルギーを巡って争い始め、他惑星国家の思惑も相まって、ボット星は内部分裂した。


 皮肉なことだが、見た目も言語も統一された仲間同士で争い、結果として外からの侵略によって力を失ってしまったそうだ。



「どれ、お礼にあなた達を占おう」


 そんなボット星人を横目にもう一人の宇宙人。エスパー星人が占いをしてあげると言ってきた。


 エスパー星人は数こそ少ないが、特殊な能力をいくつも持っており、その中でも特筆すべきものが占いである。


 それは本人たち曰く"占い"だそうだが、他星人は未来予知能力だと考えている。


「さて、まとめて行うぞ」


 目を閉じ『fしqいzwlgのあrvc』と聞き取れない言葉を念じると、エスパー星人は妙な顔をした。


「……お嬢さんは、死んでいるのか?」


「!、死人……というか幽霊です」


 エスパー星人は山田の返事を聞くと少し考えるような素振りを見せ、そして語りだす。


 お嬢さん、つまり山田の存在を皮切りに、俺と兵藤は奇妙な人生を歩み。そして────、



「あなた達二人は、壮絶な死を迎える」



 占いとは言っても的中率100%の未来予知。俺と山田はそれを聞いてダラダラと冷汗をかいた。


 兵藤は占いを聞いても特にうろたえることもなく、ボット星人の方に近寄り「お前もなにか礼をしろ」とたかっている。


「ワタシの占いは、ぼやけたイメージが脳内に浮き出て見えるもの。その事柄の詳細はワタシ自身にも分からない」


 つまり死ぬのは明日かもしれないし、もしかしたら数十年後かもしれない。しかし確実に、俺たちが死に絶えるイメージが見えたという。


「わ、私のせいで……?」


「あなたのせいというより、死んでいるかのような印象を感じる」


 エスパー星人はあくまで占いだから絶対ではないと付け加える。お礼のつもりでおこなったが、あまりにも言いづらい結果だったので悩んだ。


 が結果として、伝えるべき事と考え教えてくれたそう。そしてエスパー星人は続けて、思いだしたかのように話し出す。


「あ、そうだ忘れてた」


「今これを読んでるアナタ、あなたは部屋の掃除すると吉。今日のラッキーカラーは緑、ラッキーアイテムはスマホ。だよ」


「「?」」


 突然船の天井を見て独り言をブツブツ喋りだすエスパー星人。ほんとにコイツ大丈夫か? あながち占いの結果もあてにならないと思えてきた。




 そんな少しの安堵とは別に、気がつくとボット星人から謝礼を受け取った兵藤は、話をしていた俺たちを無視し、機嫌よく自分たちの船に戻っていた。


 俺たちも長居は良くないと、挨拶もほどほどに兵藤の後を追って船に戻った。


「なにをもらったの?」

「秘密」


 ぜー---ッたいに、コイツが機嫌がいい時点でロクでもない物かロクでもないことに使える物だ。


 宇宙の平和のためにこっそり俺が盗み出しておくべきか? いや、見つかって俺が殺されるだけだ。やめておこう。



 それから数日が経過した頃。



 なにか体がおかしい。心臓がバクバク鳴ってるし、周りの物が大きく見える。


 正直言って頼りたくはない……が、宇宙のことはアイツに聞くしかない。


「スモール病だな」


 スモール病。それは粘膜接触を媒介とし、体内に侵入したリトルウイルスによって起こされ縮小現象。体を小人のように小さくするこの病いは、時間経過と共に進行していく。


 永岡は既に初期症状が出ているが、兵藤に施された改造によって進行が遅れている。


 この病気はある一定の大きさ。元の50分の1まで縮小すると止まり、症状は改善されていく。


「なんだ、それなら問題ないじゃん………良かったぁ」

「なにを悠長ゆうちょうなことを言ってるんだチミは」

「へッ?」


 体が小さくなる。ということは、表面積よりも体積が減るということ。つまり、体内に保つことのできる熱量よりも、圧倒的に放出する熱量が増える。


 端的に言えば、体温が維持出来ずに死ぬ。


「えっえっえっ、やべぇじゃん」


「案ずるな、特効薬はある」


 そういうと兵藤は船内の医療ルームから注射針を取り出す。病気の進行を止めると同時に、ウイルスその物を撃退する薬液。

 既に目線が兵藤の胸元まで下がってきていたため、早く打ってくれと俺は催促した。


 「はい、完了」


 「つー--ッ、やっぱ注射は慣れねえな」

 「あ、言い忘れてけど、この薬はしばらく副作用が出るから気を付けてな」

 「は? そういうのは先に──」

 

 そう言っている間に俺の体は変化していく。


 筋肉が減り、丸みを帯び、体毛が薄くなり、肌は白くハリが増していく。


 そして、何故か肩が重い。まさか…………。


「──ッ!? ない! 俺のナニがない!」


「落ち着け、一時的なものだ」


 スモール病の特効薬。その副作用は性転換。


 細胞に影響するリトルウイルスに対抗するため、ホルモンやDNAに一時的に作用し、男を女に、女を男にする効果がある。


「病気や毒に対する耐性が低い生き物には副作用が出る。お前は改造によって強化はされているが、ベースは変わってないから女性化したんだろう」


 まあ1時間もすれば病気も副作用も完治するから後は安静にしてろと言い、兵藤は自室に戻った。


 しょうがない、俺も部屋に行くか…………。


 そして……俺は部屋に入った。



 



 アイツはまだ風呂に入っている!

 その隙に侵入させていただきました! 


 幽霊なのに1時間近く湯につかるなんてバカめ!さっきトイレで自分の体を再確認して分かった。


 俺は今完全に女! そしてこの女の子は俺!


 つまり何してもオッケーっ!


 胸元の膨らみで自分の足が見えないこの体、この神秘を堪能していた俺はふと思いついたのだ。


 こんなにかわいい俺ならば、女性服も着こなせるのでは? そしてもっと色々なことがはかどるのでは? と考えた俺は即行動!


「なんでも似合うじゃねぇか俺……」


 カジュアル系・綺麗系・可愛い系、鏡の前で色々な着こなしをする中で、永岡は何か目覚めてはいけないモノに目覚めつつあった。


「おいおい、アイツ。体は透けてねぇのにコッチはスケスケなのか……」


 しばらく遊んでいた永岡は、かなり攻めた下着を手に持ち始めた。


 少しだけ、罪悪感や抵抗はある。でも仕方ない。


 スカートをはいているのに中は男物のパンツなんてダサい……いや可愛くない! 可愛いは正義!


「かわいい」は何よりも優先されるべきものなの!


 そして下着に足を通した瞬間、永岡は理解した。

 この世のありとあらゆる事を──理解した。


 なぜ人は争うのか、なぜ人は求めるのか、なぜ人は生きるのか、なぜ人は憎み愛し合うのか。を。


 その全てをその肉体で理解した数秒間、永岡は鏡に映る自分の姿を見てフリーズ。


「なんだこの気持ちは…………」


 自分自身に酔いしれていた永岡。

 その余韻に浸りつつも確信を得る。


「俺はこの"瞬間"のために生きていたんだ……」


 生きる意味を見出した永岡。


 その頬から流れる大粒の涙は非常に純粋で、何者にもけがしがたい美しい涙であった。


 しかし、永岡にかけられていた魔法は無常に解けていく。その時間が、ついに来てしまったのだ。


 大きく、太く、焼けた肌、ゴツゴツとした体。

 そんな元の姿に、戻ってしまった。


「うげッ、誰だよコイツ」

 お前だ。

 

 スカートをはき、それをたくし上げている元の姿の自分を見た永岡は正気を戻し、今までの行いを深く後悔した。


 自分への贖罪しょくざいのように、しばらくその鏡を見ているとふと気が付く。



 あれッ? なんか鏡にもう一人いるな……ん? なんか、怖い顔してるぞコイツ。


 やれやれ、せっかくの可愛い顔がそんなんじゃあ台無しだ。ここは俺が一肌ひとはだ脱ぎますか……。

 

「待て山田、これには深い訳が──ッ!」

『ゴーストアタック』

「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」


 こうして俺は変態扱いのレッテルを手に入れた。

 しかし、どうにか謝り続けて許してもらった。


 ────優しい。



 しかしそこからの旅も宇宙海賊とのレース勝負や、ブラックホールに吸い込まれてしまうなど、トラブル続きの連続。


 それらの試練もなんとか乗り越えた俺たちは、長い期間を経て無事、オーパーツ星に到着する。


 オーパーツ星の周りを取り囲んでいる防御システムを突破しての不法入国。もとい不法入星の成功。


 さあ! こっからセラルを奪い返すぞ! 

 と意気込んでいた俺たちだったが───。


「3名確保! 牢屋にぶち込んでおけ!!」


 普通に捕まった。

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