第31話 好き嫌いは食べてから言え。

 みんなの好きな料理は何かな?

 ハンバーグ・カレー・ラーメン・寿司。

 中には野菜が好きな人だっているだろう。


 一定以上の科学力を持つ宇宙船では、船内に仮想重力を作り出し環境調節が可能なため、料理なども可能。


 しかし食材の調達・事前準備はする必要がある。そんな今、俺たちは宇宙生活最大の危機に陥っていた。


「わ、私は幽霊だから……ご飯はいらないよ〜」


 嘘である。この女、異世界では三食以外にもお菓子を死ぬほど食べていた。それもめっちゃ笑顔で。


 活動に必要ないことは事実だが、摂取すること自体は可能なため、食事を娯楽として存分に受容していた。


「お、俺もべっ、ベジタリアンだからな~」


 嘘である。この男、野菜は残し、結局最後まで食べていないなんてことは序の口。

 焼肉を食べにいった際には、人が丹精たんせい込めて焼いた肉を当たり前のように自分によそい、満面の笑みで食べるカスである。


「高い食材使ったんだからもったいないぞ。早くしないとオレが全部食うぞ」


 嘘である。この男、自分が座る席の近くにだけ高級食材を使った料理を置き、他の二人の近くには、特売の食材で作った料理を置いていた。


 三人が囲う食卓には、宇宙ステーションで買った地球人でも食べられる食材。それらによって作られた料理が山のように置かれている。

 

 ・ダークマターのデミ泥スープ

 ・パンデモニウムの内臓揚げ

 ・ゴケブリ星人のハンバーグ

 ・あら切り人面草サラダ

 ・昏倒虫こんとんちゅうのアンゴル漬け……etc.


 などなど他にも数種類あり、兵藤はむしゃむしゃと当然のように食っている。


 一瞬、いつもの嫌がらせかと思ったが、本当にちゃんとした料理みたい。


 同じ星・地球の中でも国や食文化が違えば、まったく違うものを食す。それが他惑星・他星人となれば、食の価値観や文化が違うのは当たり前だ。


 俺は、食事に関して食わず嫌いはあまりない。


 これまで食べてから、嫌いとか苦手とかを判断してきた。が、生命に対するアンチテーゼを感じさせるこの料理たち。これはさすがの俺もキツい。



 ああ、アイスが食べたい……。


 私は敵に体をいいように使われ、大事な仲間を危険な目に合わせてしまった。あの時のことは今でも鮮明に思いだす。


自分が死んでしまう事よりも、大事な人が傷つくことの方が私はツラい。でも、今回はごめん。


 私は…………アイスが食べたい。



「ふー、食った食った。あっ、そういえばデザートにアイスを一個買ったんだ」


 兵藤はそう言いながらアイスを冷蔵庫から取り出す。


 しかし、満腹になったからあげる。とテーブルの上に置いて、どこかへ行った。


「ねえ、永岡。永岡は男の子で、私は女の子だよね?」


「だからなんだよクソアマ。勝負の世界に男も女もねえ、生きるか死ぬかだ」


 グーを出すか、チョキを出すか、はたまたパーか……。

 

(山田は最近の傾向として、よくパーを出す。俺の持つIQ320の頭脳とビックデータを信じるならチョキだ)


(私は最近よくパーを出していた。だから永岡はチョキを出すはず……じゃあグー?)


(待て、俺が山田のことよく知るように山田も俺のことをよく知っている。つまり俺がおっぱいを覗くとき、おっぱいもまた俺を覗いているんじゃないか?)

(いやバカか、おっぱいが俺を見てる訳がない。そうだ、ここはシンプルにいつものグーで──)


(深く考えすぎだ私は。根本的に永岡はバカなんだから、いつものグーでくる。でもここは様子見のため私も同じグーを────)


「「じゃんけん!」」

「「ポ──ッ」」


 ドンッッ!!!

 !!???


「宇宙警察か!!??」


 謎の轟音と、兵藤の叫び声が船内に木霊こだまする。


 じゃんけんに気を取られていた俺たちは、無数の船に取り囲まれていたことに気が付かなかった。


 既に攻撃を受けた船はなんとか飛行を保っている。が、手を緩めることのない追撃に被弾し、徐々にふらつき始める。


「オレの船を攻撃するな!」

 お前の船ではない。


 攻撃を止めることのない敵船の様子を見た兵藤は「仕方ない」と船外に飛び出し、無数の宇宙船の前に、立ち塞がるように浮いた。


「変身──『限定解除』」


 そう呟いた兵藤の姿はみるみるうちに変化する。


 皮膚は鮮血のように赤くなり、頭から二本の角が生え、髪はより白く、より長く伸び、腰からは2mを超える細長い尻尾が服から飛び出していた。


翼こそないものの、不敵な笑みを浮かべるその姿はまさに──悪魔。


 そんな魔人と化した兵藤は、船内で装着した籠手こてと長い刃状の武器を光り輝かせ、開口一番、目の前の船を真っ二つにする。


 次元断裂剣・ディメンションブレード。


 本来、加工不能な硬度を持つ素材をカットするために作られた技術。それを戦闘に昇華した軍事用武器。


テロルのような巨大侵略国家や、高い科学力を持つ惑星のみが保有する道具の一つ。


 殴り・切りつけ・放つ。


それを何度も敵船に対して繰り返すうちに1000以上あった宇宙船が970……820……700と次々と切断・粉砕・消し炭にされていく。


 そして、数が半分以下になった頃、突如として巨大な宇宙船が姿を現す。


 その船からはタコのような宇宙人が、一人船外へ飛び出し、兵藤の前に対峙した。


「お前誰だよ、タコ」


「私はこの宇宙警察アマノカワ船団の指揮官オクトーパ。話がしたい」

「ほぉ、問答無用に攻撃をしといて危機に陥ったら話し合いか」


「調子に乗るなよ犯罪者。貴様は宇宙指名手配の中でも特A級のクズ。見つけ次第、即執行が許されている」


 兵藤はテロルに対する国家反乱罪・他惑星国家の王族誘拐・至る所での海賊行為など、様々な罪が重なり、指名手配犯として名をとどろかせていた。


 肝心の当の本人は、少ししか悪いことしてないのに警察なんてやっぱりクソだな。と思っている。


「そうか、じゃあ話し合いは終わりだな」


「まあ聞け、我々も立場がある。セラル姫を誘拐したお前を無視する訳にはいかなかった。しかしどうだろう、今回はここで──」


「ダメだ、周りの星もろとも消えろ」


 兵藤はオクトーパの意見を遮ると同時に、手のひらを上に向け、星の大きさに匹敵するほどの巨大なエネルギーの玉を作り出す。


「待て待て分かった! 罪をもみ消すッ! 我々もすぐ失せる!! だから──」

「腹が減ったな……。今晩のおかずはタコ焼きか」


「へッ?」

 

 その日、宇宙から幾つもの星が消えた。


 燦然さんぜんと輝く星々は花火のように散りながら、無数の無機物と共に砕け散る。


 光輝く星と船は、エネルギーの発散と共に美しい景色を宇宙空間に作り出す。


 そして、夕食。


食卓の上には焦げたタコ足がいくつも並んでいた。


 その見た目は普通のタコだが、一部始終を見ていた俺たちは、何とも言えない気持ちになっていた。


 しかし空腹も限界に来ていた俺と、結局アイスを食べられなかった山田は、グ~~ッとお腹を鳴らしてつばを飲む。


「くそッ! 俺は食うぞ!!」

「え、じゃあ私も……!」


((こ、これはッ───────!!!)


 オクトーパは……意外と美味しかった。

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