第33話 デートの時間はお早めに。
古い歴史を持つオーパーツの王制度。
その738代目にあたる現王。
素晴らしき
「セラ~、パパ寂しかったよぉ。なんで勝手に出て行っちゃうのぉ?」
「パパ、私は未来の旦那様と遊んでたの。邪魔しないで」
「ええ!? セラはパパと結婚するって170年前に言ってたじゃん!!」
やだやだ! と床を転げまわる星の王。
その姿はまさに赤ちゃん。成人男性の体と星最高クラスの権力を持つ大きな赤ちゃん。
セラルは慣れた様子で、指をしゃぶりながら床に寝そべっている赤ちゃんに、これまでの経緯を説明した。
兵藤のことを本気で思っていること、今まで父に従ってきたが、こればっかりは譲れないこと。
「うぅ、やだよぉ……。もう80年は子離れしたくないよぉ……」
「パパ……孫の顔……見たくない?」
「!!!!!」
その言葉を聞いたデオニスはゆっくりと立ち上がり、座につく。しばらくの沈黙と共に思考を巡らせる。未来の、その、光景を─────。
「……ヒョウドルという男は危険な犯罪者だ」
「パパ……」
「しかし、未来の私の息子でもある。……なんとかしよう」
「パパ!」
こうしてデオニス王の働きにより、オーパーツ星からかけられていた誘拐・器物損壊・不法侵入・強盗殺人等の罪状のもみ消しに、成功。
これによって兵藤はオーパーツ星内限定で、ただのテロル星出身の一般人扱いとなった。
そして兵藤がオーパーツ星に来訪したさいに、自分たちの元に連れてくるよう手を回し、強制結婚に至ることで、セラルとデオニスの【明るい家族計画】は完遂される。
そんなことを知らない兵藤達は、まんまとオーパーツに来てしまった。
オーパーツ星はテロルに並ぶ国力の惑星。
敵を蹴散らしてセラルの元に行くよりも、わざと捕まる方が早いと判断した兵藤は、
そして現在────。
兵藤とその仲間達は、デオニス王の前にいた。
「思ったよりもなかなかいい面構えだ」
デオニスは開口一番、自分の娘が惚れている男を見た。正直、何の脈略もなくぶん殴りたい気分だが、そこをグッと堪えて兵藤たちの目的を問う。
既にセラルの話や家臣が調べた情報から、大方の状況を把握していたデオニスだったが、あえて聞いた。
しかし聞いたは良いものの、隣にいるチキュー人達がガチャガチャ喋っているだけだけで、兵藤は終始黙っていた。
「言わずとも知っているぞ? そなたがテロルの元"軍事工作員"ということも含め、全てな」
「「!?」」
戦闘工兵として軍務につき、その殲滅能力と対応能力を買われ、テロルの特殊軍事工作担当官に配属された兵藤。
その功績凄まじく、
しかし突如として自軍であるテロルの部隊を襲撃し、武器や物資の大部分を強奪。
その場にいた約280名を殺害し逃亡。
テロルはこの事態を政府に対する反乱とみなし、兵藤を[A級軍事犯罪者]に指定。
その後、手に入れた物資で悠々自適に旅行をしていた兵藤は、あるゲームを入手するためにオーパーツ星向かうこととなる。
ちなみに兵藤が国や軍を裏切った理由は、人からガチャガチャ命令されんのうぜぇし、惑星侵略するの飽きたからやーめた。が理由である。
「いいから寄こせ」
「ふんっ、娘をそう簡単に渡すわけなかろう」
「違う、そっちじゃない」
「タイムマシーンを寄こせ」
この男はセラを取り返しに来たのではなく、タイムマシーンを寄越せという。
なるほど、おそらく仲間の惑星を元通りにするために必要なのだろう。
しかしあれは我が星の宝の一つ。簡単に渡すわけにはいかない。
てかタイムマシーンよりセラの方が渡したくないんだけど、正直パパ、まだ決心ついてないんだけど。
「セラ、出てきなさい」
デオニス王の呼びかけに応じ何やらワープゲートのようなものが出現し、その中からセラルが姿を現す。
「条件がある」
現れたセラルと、兵藤を見てデオニス王は言った。それは結婚とタイムマシーンを渡す条件。
「いや、結婚は別にいら─「「おほんッ」」
セラルとデオニスの咳払いで発言が遮られ、不満そうな顔をする兵藤。
そして、話を続ける王。
「条件とは、セラとヒョウドル。二人でこの星の衛星にいるレジスタンス共を捕まえてきてほしい」
王制度が長く続くオーパーツ星。過去の王達の手腕によって発展したことも事実だが、自分たちに大きな決定権がないことに不満を募らせた国民が存在した。
そんな過激派の一部は、王権制度撤廃と改正を求めて革命という名の反政府組織を結成している。
「んで? 俺たちは何をすればいいんだ?」
「そなた達は人質だ」
【明るい家族計画】は、二人きりで危ない橋を渡らせることで、興奮のドキドキと恋のドキドキを勘違いさせ、ついには本当の愛を兵藤に目覚めさせる大作戦。
正直言って永岡と山田は邪魔。
タイムマシーンが大事なのも事実だが、レジスタンス軍も邪魔だし、正直セラルに嫌われたくない。あと孫の顔が見たい。
というデオニスの案によって、セラルと兵藤はアジトのあるオーパーツの衛星に向かうことになった。
「さもなければ、この二人の命はない」
というデオニスの脅迫に、山田と永岡はガクガク震えていたが、兵藤は面倒くさそうに小型宇宙船に乗り、セラルは満面の笑みで後に続いた。
「頼むぞ、二人とも……」
「早く帰ってきてね……」
その姿を見ていた永岡達は、不安を募らせながらも信じて待つ。二人の帰りを───。
「はい、あ~ん」
「うむ、ウマイ」
まさかこの星の近くで今年のギャラクシー祭をやっているとは……。
「あ、
「そうか」
「えへへ、ヒョウドルの海苔食べちゃった」
屋台の飯ってなんでこんなに美味いのだろう。
さっき食べたウランヤキソバなんて、材料から考えても自分で作るのと大して変わらない。
祭りの雰囲気か、はたまた隠し味でも入れているのか……。
「おかわり」
「うん! 買ってくるね!」
セラルと兵藤は、めっちゃ寄り道していた。
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