第12話 笑顔は人を素敵にする。

 兵藤くんはみずうみの周りを時速2kmで歩き、永岡くんは時速3kmで歩くと、36分後に二人は会うことが出来ました。


 よかったね! 大好きな兵藤くんに会えて永岡

くんも嬉しそうだ!!


 以上、実況を兵藤が担当させていただきました。

 ご清聴ありがとう、お前に感謝。


「結構デカいみずうみだな」


 俺たちは街と首都の間にある湖に来ていた。


 最短ルートからは少し離れるが、水質をギルドから受け取った検査キッドに採取し、提出するだけの簡単なお仕事。


 その割に結構な額の報酬が出るため、移動のついでに寄っているという訳だ。


 検査キッドは試験管のような蓋つきの容器で、30本はある。100mの等間隔で深さ50cmの水深に入れてくださいと説明書には書いてあった。


 俺と兵藤は反対側から左右に分かれ、山田達のところまで水をみながら歩いて向かった。


 無事に合流し最後の1本になったため、俺が肘まで腕を水面に突っ込む。


 地震?……湖が揺れてる。

 そう感じていると、水面から大きなが現れる。

 

 ?……なんだろう、、肩が熱い?


「永岡、腕がッ!!」


 山田の大きな叫び声で俺は気がついた。


 俺の右腕は突如湖から出てきた穴に……いや、コイツのに食われた。


 10階建てのマンションと同等か、それ以上のデカさの青い蛇。鱗と巨大なエラを生やした巨大な龍が一瞬だけ俺たちの前に現れたのだ。


「痛ってっえええええええええああああああああああああああああ!!!!」

「永岡! 傷口を触らないで! すぐに止血するから!」

 セラルは肩の付け根を縛り、包帯で応急処置をする。


 焼けるような痛みと首筋が突っ張るような感覚がする。いや余りに痛すぎて逆に何も感じなくなりつつある。出血で意識も薄い…………。

 

「治れ! 治れ! 治れ!」

 山田は必死に治癒の力で傷をできる限り治そうと努力していた。


「…………」

 兵藤は湖から即座に30m以上離れて伏せていた。  

 てめぇも食われろよ。


 しばらくして痛みもおさま……ってはいない。

 やせ我慢をしているだけで痛い。けど、セラルと山田のおかげでなんとか事なきを得た。


「一瞬見えたアイツは何だ?」

 遠くに離れていた兵藤がゴキブリのように匍匐ほふく前進で近づき、聞いてきた。


「一瞬だったけど、あの姿は神話級の魔物“リバイアサン“に似てた」


 リヴァイアサン? セラルはあのクソ蛇公を知っていた。

 魔物の中でも最上位種の存在、それが神話級。龍や邪神など様々なものが歴史上確認されている。

 

 あのクソ蛇はリバイアサンと呼ばれる神話級の龍の一匹。海や川などの水場を地面や空を介して移動し、過去には100万人もの人間が奴に殺された。


 …………だからなんだよ。


「ぜってぇ殺す。俺の腕のつけを払わせてやる」


「国一つを滅ぼすような存在だよ?」

 セラルにさとされて反論出来なかったが、どうにかする方法はあるはず。


 毒には毒。神話級の魔物には神話級のクズを当てる。


「おい兵藤。アイツなんとかできねぇか?」

「ん? んー、タダじゃ無理だな」

「金なら後で熨斗のしつけてやるよ」


「金はいらない、まあ飯奢ってくれればいいや」

 意外と安上がりな答えに面食らったが、このクソ野郎はやはり策を思いついていたようだ。


「お前らにも手伝って貰わないとキツイ。とりあえず山田、そいつの腕頑張って治せ」


「無茶言うな、いくら魔法でも欠損を治せるかよ」


「いや治せる。その程度を治せないなら前回の爆破で死んでいるはずだ」

「はぁ?」


 怪我の痛みで冷静さを欠いていたが落ち着いて考えれば、コイツの言っていることも一理ある。

 屈強なゴボリン共を殺した爆破を治せたのだから

出来てもおかしくはない。


 おかしいのは、もしも治せなかったら死ぬのに普通に爆弾のスイッチを押したコイツの頭だ。


「……時間はかかるかもだけど、やってみる」


 そして、俺の腕は切られたトカゲの尻尾や竹藪たけやぶのようにニョキニョキ生えて元に戻った。

 

 なんだこれ、チートやん。山田とかいうヒーラーがいれば無敵ですやん。

 隣で見ていたセラルも驚いていた。


 欠損を治すなんて神業は聖女や女神と呼ばれる存在にしか出来ない。もしも教会や神殿の連中がこの事を知れば毎日勧誘に来るだろう。と。


 治ってからもしばらくは幻肢痛のようなものがあったが、数分経った頃にはそれもなくなった。


「んで、どうすればいい?」


 片腕を食われてから1時間後に落ち着いて、俺は兵藤に聞いた。


「セラル、魔法袋を貸せ」


 セラルから魔法袋を受け取った兵藤は中からアイスピックやピッケル・スコップを何個か取り出した。


「?、それは私とこの前買ったやつだね」


 兵藤はマントを買う前にセラルと買った道具を魔法袋に入れておいた。取り出したスコップなどもその一つ。


「そんなもん何に使うんだよ」


「まあ黙ってオレの言うこと聞け」


 そして、俺たちは湖の近くに肉や魚などの食料を置いた。


「よし、永岡。この木を燃やせ」

「なんだ? 焚き火でもすんのか?」

 

 俺は兵藤の言われた通り、指差していた地面に無造作に置かれていた木の破片を魔法で燃やした。


「よし、後はリバイアサンが出てきたら勝ちだ」


 意味が分からない。あの魔物は体がデカい割に俺の腕を食うような奴だ。おそらくエサにつられて出てはくるだろうが"勝ち"にはならんだろ。

 

「おい、勝ちってどうやって……」 

「シッ。静かにしろ、来るぞ」


 湖の水面が揺れ、とてつもなくデカい陰影が写り、どんどん濃くなっている。


 そして、来た。


 さっきと打って変わって目的の餌を見つけられず

長い間、顔を外に出しているリバイアサン。


 おそらく出している姿は3分の1以下だろうが、それでも戦艦や飛行機よりも巨大だった。


 自分が無茶なことを言っているのだと改めて認識した俺は隣にいた兵藤を見た。


 すると兵藤はつい最近手に入れたアレを、リバアサンに向かって前にかざした。



よ! あの魔物を止めろ!!」 



 兵藤が唱えた瞬間─湖ごとリバアサンは氷の彫刻のように全身を凍らせた。


 アリアからパクった指輪。あの指輪には万物を凍らせ封印する"神話級"の魔法が込められている。


 そうか、いくらリバアサンが化け物といっても同じ神話級の魔道具は効くのが道理。


 ──全身がガッチリと凍ったクソ蛇はまったく動く気配はない。 


「すげぇ……こんなデカブツ止めちまうなんて」


 セラルと山田はありえないものを見て、魔法の効果を受けていないにも関わらず固まっていた。


「おい、こっからがお前ら仕事だぞ」


「「「?」」」


 俺たちはそれから12時間以上は掘った。

 昼から始めた作業は気づけば朝だ。


馬車馬のように働かされ、手に血豆が出来ては山田に治してもらい、腹が減ればセラルに狩りをしてもらい、火が尽きれば木を集め俺が燃やした。


 3人がそれぞれの役割を果たしながら、ひたすら掘っていた……リバイアサンを。


 兵藤はボケーッと座りながら、時々指示をしている。セラルが料理を作っている時だけ積極的に動き、つまみ食いをしていた。


 本当は今持っているピッケルやアイスピックで殺してやりたいが、今回はアイツのおかげで対処ができたんだ。我慢だ我慢。


「よーし、そろそろいいぞー」


「やっとか……」

「長かったー」

「ふぅ、これでいいんだよね? 兵藤」


 俺たちは永久凍結したリバイアサンを殺すために火であぶって熱したピッケルやアイスピックで、水面に出ているリバイアサンの首を掘っていた。


 ビルや戦艦と見間違えるような、この魔物の首を洞窟を掘るように削っていくのは三人だけではとてつもない重労働だった。その内二人は女の子だしな。


 俺が軽はずみに"アイツを殺す"なんて言ってしまったばっかりにゴメン。 

 首元の4分の1ぐらいを掘り進めた俺たちは、やっとのことで兵藤から許しを貰った。


「で、これでコイツは死んだのか?」

「いやまだこの深さじゃ封印が溶けても生きているだろうな。仮にも神話級だ」


「じゃあ、また掘るのか?」

「いやその必要はない」


 兵藤は掘り進めたリバイアサンの首の中に入り、ゴソゴソ何かを置いていた。


「?、なにしてるの兵藤」 

 ヒョコッと兵藤の後ろから覗くセラル。


「あぁ、先日使わなかった地雷と火薬だ」

「え?」


「残り物も有効活用せねばな」


 そして、セラルを抱えた兵藤が自分と一緒に離れるように指示をする。

「よし、永岡。あそこに向かって火を放て」


「おっ、おう」

 俺は魔法の火炎を地雷に向かって放った。


 ──着弾。とともに凍った湖もろとも200m近く爆熱と衝撃を放ち吹き飛ぶ。


「な、なにこの威力ッ!!!??」

 俺たち3人もその衝撃によってふっ飛ばされる。


「やっぱり失敗だな。これではゲリラ戦で誰かに自爆特攻させることぐらいにしか使えん」


「これなら掘る必要なかっただろうがああぁあああああああ!!?」

 ふっ飛ばされながらも俺は必死に問いかけた。


 そして爆風と氷の破片が飛び散る中、俺は確かに聞き取った。


 「お前らが滑稽こっけいにも頑張る姿、面白かったぞ」


 と兵藤は親指を立てた手を俺たちに向けながら、とても爽やかな顔で……笑っていた。

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