第13話 女神は物好きが多い。

 見晴らしの良い道が真っすぐ続いており、道の隣には広大な牧場が広がっている。


俺たちは湖を離れ、しばらく歩いた馬を休ませるついでに寄り道をまたしていた。


「あれは牛かな? あッ羊もいる!!」

「また微妙に名前が違うんだろうな」

「首都の近くになると酪農や畜産も前の街より盛んだね」


 牛か、キアニーナさんは元気にしてるかな……。


 牧場から目を外すと残り20分もかからない位置に首都を囲う大きな壁。そしてその壁を超える巨大な城。関所や壁の近くにも別の大きな牧場や港も見えている。


「あの牛、むしゃむしゃなんか食べてる」

「あれはボラギノ草という毒草だよ」

「え、毒?」


 牛が食べている草は人間が体内に取り込むと、内臓の機能不全や脱水症状によって死に至る猛毒。


 セラルに毒矢として使えないか尋ねたが、魔物や他の生物には大きな害はなく、むしろ大量に摂取することによって快便効果をもたらす良いエサとして好まれているとのことだ。

 

 牧場にとどまって1時間近くたった頃、さすがにみんなは飽きて歩を進めた。


 そして、首都バビロンへ到着。身分証代わりのギルドカードと通行料を渡し、前回とは違い何事もなく通過! 


 「今回は兵藤の出番なかったな」とニヤニヤしながら皮肉のつもりで言ったのだが、奴は意味を分かっていなかった。


 コスモ王国と呼ばれるこの国は『富国強兵』。上級冒険者と同等の強さを持つ"聖騎士”と呼ばれる兵士がいる。治安の維持はもちろん、対魔物・対国の象徴として君臨している。


 商売も盛んでデカい港もあるため、海と陸伝いに国内外含め人種の坩堝るつぼとなっている。   

そして、その最たる例がこの国の首都・バビロン。


 関所に入り、目に入るは人・人・人。商人や冒険者・旅人などの様々な者が賑わっている。活気のある屋台や生気に溢れた人々が、この場所の良さを語っていた。


 俺たちはしばらく出店やパレードを楽しんだ後、重労働と移動の疲れを癒やすために宿で爆睡した。


 そして朝日の光で覚めた俺たちは1日だけ自由を満喫することに。そして、俺は来た!

 

 そう! 欲望と快楽の集まる店。カジノッ!!


 ちッちッちッ! 俺を甘く見るなよ? ただ単に金稼ぎとお遊びで来たのではない。


 このカジノではゲームで手に入れたメダルは金貨だけでなく、賞品とも交換できる。


 俺は1枚が金貨1枚と同等のプラチナメダル300枚で手に入る魔道具[アイケス]と呼ばれるタバコを狙っている。


 アイケスは一日三回だけ使用することが出来、使用後自動的にタバコが補充・修復され半永久的に喫煙が出来る最高の魔道具だ。


 脳と肺が追い求めてやまなかった物、正直諦めていた煙が今、俺の目の前にある。

 これを狙わずして何が男か、いいや男じゃない!


 永岡はスロットで大勝ちしプラチナメダルを15枚手に入れ、幸先のよい滑り出しで勢いづけながら続くトランプゲームも快勝、総収支メダル100枚。


 自身が波に乗っていると確信した永岡は、ルーレットでケリをつけることにした。


 戦法は単純明快、ルーレットに入るボールの数字は完全に無視し、色を当てる!


 赤か黒のどちらかにメダルを張り、2倍付けでメダルを増やしていく作戦。


 0や00といった赤黒に含まれず、倍率も35倍と破格の賭けもあるが、基本的に出ない、無視だ。

 よし、まずはメダル10枚ずつかけていこう。


 ~20分後~


 ルーレットを始めてしばらく経った頃、永岡の持ちメダルは金貨250枚分を超えようとしていた。


「す、すごいぞ! 何回か負けた……がそれ以上の勝率! やはり今日の俺はツイている。勝利の女神……いやニコチンの女神がな!!」


 こっからは倍!! 20枚ずつだ! 

 黒に20枚!!


 倍プッシュに乗り出た永岡。その隣にはいつのまにかが───いた。


「じゃあオレは赤に1枚」


 聞き覚えのある声が聞こえ、顔を向けると


「……?、兵藤!!」


「よう、永岡。調子はどうだ?」

「調子もなにも絶好調よ。お前は俺と逆を賭けたようだが運がない」


「んー、どうだろうね」

 しばらくグルグル回っていたボールは、永岡の予想通りルーレットのレーンをコロコロ減速し、赤3のポケットに吸われるように入った。


「よし、赤だ! ざまあ! 兵藤ざまぁ!!」

「いや、黒だよ」


「は? 何言ってんだ赤に入っただr……はぁ!?」

 赤に入ったように思われたボールは、何故か横の黒24に入っていた。

 

「嘘だろ……確かに赤に……でも黒に入ってる」

「まあ見間違いは誰にでもあるさ永岡くん」


「くっそ、調子乗りやがって!──次こそ赤!」

「黒」


「次は黒!!」

「赤」


「赤と見せかけて黒!」

「赤」


「だ、ダメだ……。この悪魔がいる限り俺は当てられない。あんなにあったメダルも既に10枚しかない……」


(あえてコイツが置いた色に置いても、その時は当たらない。どうなってんだ……ちくしょぉ……)


(もう賭けるメダルもほとんどない、300枚を目指すなら赤黒ではなく、0か00にオールインするしかねえ)


「うーん、メダルが全部で金貨29枚分か、オレはそろそろ降りようかな」


(占めた! ニコチンの女神はまだ俺を見放していないッ! あとは俺が当てる……0か00か……)


「よし、00だッ! 00にオールイン!!」


「おッ、いいね。やっぱりオレも賭けちゃお」

「0にオールイン!」


「え、ちょ待っ……」


「no more bet(受付終了)」

 こうして俺のヤニ人生の幕は……閉じた。

  

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